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今宵も一晩、頑張るぞい!
……という訳で、魔物の群れの襲撃によって、打撃を受けている領軍の回復役に忙殺されているアリゼです。
いや……際限なく怪我人が続出しているので、このまま魔物の群れの襲撃が続けば、マジで徹夜作業になりそうなのですが。
というかこのままでは、領軍が崩壊するのも時間の問題かもしれん。
かといって、私が回復をやめて戦ったら、生命の危機に陥る怪我人が沢山いるし!
アイとシス、そろそろ介入してくれてもいいのよ!?
と、私が泣き言を漏らしそうになったタイミングで、魔物達の群れの中に巨大な炎の塔が出現する。
お……あれはリゼも持っている「狐火」のスキルかな?
ということは、同族であるシスの攻撃か。
火力だけならばリゼの方が上だろうけれど、シスは上手く範囲を絞って味方に被害が出ないようにしているようだ。
それに山火事が発生しないようにも、配慮しているのかもしれない。
大規模な山火事になると、下手をすれば魔物の群れよりも脅威になるだろうしね……。
ああ……生まれた直後はあんなに弱々しかった妹ちゃんが、随分と立派なったものだ。
そんな感慨に耽っていると、今度はアイが参戦したらしく、巨大なスライムが魔物の群れを飲み込み始める。
……って、でっか!?
どこのラスボスだよ……。
あの巨大なスライムが、アイの本性なのか?
なんだか原作版『ナウ●カ』の、粘菌みたいだな……。
しかもあれ、たぶん「吸収」のスキルも使っているんでしょ?
あれだけ大量の魔物の能力を、何割かとはいえ自分の物にできるということを考えると、いずれは私よりも強くなるんじゃ……。
追い抜かれないように、私も「吸収」のスキルを使いこなせるように頑張ろう……。
ともかくこれで新たに怪我をする者も減ったし、私にも余裕ができた。
今の内に、私もちょっと戦ってくるかな。
索敵によると、どうやら魔物の群れの第2波が近づいてきているようだから、連中が戦場になだれ込む前に片を付けてしまおうか。
まずは迫り来る魔物の群れの真ん中へと転移します。
そして私を中心にして、周囲の動く存在を全て上空へ強制転移させる。
もしかしたら罪も無い動物や、攫われて吸血鬼化された人間も混じっているかもしれないが、魔物と区別することは難しいので、例外なくお空の星になってもらおうと思う。
ゴメンなぁ……。
このまま対処が遅れて第2波が戦場に辿り着けば、また少なからず死人が出るから、私は我が国民を守ることを優先する。
で、あとは空中に放り出された魔物の群れ目掛けて、最大出力の熱線を撃ち込めば、生じた爆発が全てを飲み込んで終わりだ。
ふむ……第3波の攻撃もないようだし、これで戦闘はほぼ終了したと見てもいいかな?
いや……魔物達が来た方角に、まだ1つだけ大きな気配があるな。
これが今回の騒動の黒幕だろうか?
私がその場所へ向かうと、そこには鎧に身を包んだ若い男の姿がある。
えーと……こめかみの辺りから10cmくらいの角が生えているから、魔族のようだな。
だとすると、コンスタンスを吸血鬼に変えた者は、一体どこにいるのだろう?
まあ、こいつから聞き出せばいいか。
『き……貴様っ!
あれだけの数の魔物を一瞬で……っ!!
一体何者だ!?』
「あれ? カシファーンとか言う人に聞いてませんか?」
『な……なに?』
魔族の男は、予想外の名を出されて困惑する。
まあ、いきなり魔王軍四天王の名前が人間の口から出たら、何事かと思うわな。
「クラサンドで、彼女を追い詰めたのは私ですよ?
私がいる国に再び手を出すとは、怖い物知らずですねぇ……」
『!?』
男の顔が一瞬で青ざめる。
そりゃあ、私の言葉が事実ならば……というか事実だけど──それは彼が四天王以上の実力がなければ、私には勝てないということだしね。
でもだからと言って、逃がしたりなんかしないよ?
『ぎゃっっ!?』
私の土魔法が男の真下で発動し、彼の下半身を巨大な岩がトラバサミのように挟み込んで潰した。
うわ、ミンチよりも酷ぇや。
これで下半身を切り離さない限り、脱出することはできないだろうな。
というか、痛みで上半身を動かすことすら難しいみたいだ。
『ぐ……ぐうぅ……っ!』
ただ、かなり苦しんではいるけど、魔族ならこの程度では死なないだろう。
「さて……あなたの仲間に吸血鬼がいるはずですが、何処にいるんです?」
『そ……それは……!?』
男は顔色を変えて、口を噤んだ。
「おや? 仲間を庇うのですか?
それでは喋りたくなるまで、拷問のフルコースですね。
我が国民に死者が出ている以上、あなたを許すつもりはありませんよ?」
そんな訳で、男の身体に激痛を引き起こす毒を注入する。
私の毒魔法スキルはカンストしているので、仮に男が毒耐性を持っていたとしても、完全には防げないだろう。
まあ、仮に毒が効かなくても、酸で身体を少しずつ溶かしてやるという手もあるし、たっぷりと苦しんでもらおうと思う。
それでも喋らないようなら、「吸収」のスキルの実験台にしようかな。
上手くいけば能力だけではなく、記憶も奪うことができるかもしれない。
でも私の身体で、「吸収」ってどうやればいいのだろう?
口から食べるのはなんか嫌だから、腕を「変形」のスキルでスライムのようにして、そこから吸収してみようか。
あ、これでじわじわ吸収すること自体が、拷問に使えるかもしれん。
そんな風に、尋問に熱中していたその時──、
『ママ、ちょっといい?』
ん? レイチェルから念話が入った。
ところがその時、
『分かった、喋るっ!!
喋るから!!』
あ、このタイミングで男も折れた。
う~ん、今少しいいところなので、レイチェルへの返事はちょっと待ってもらうか……。
ということで、既読スルーしていたのだが、
『ママ、ちょっとママ~?
おーい?』
結構しつこいな。
重要な連絡なのだろうか……と思い始めた時、
『でんわ、でろ!』
と、やたらと圧の強い、レイチェルの声が届く。
ひぃっ!? 怖ぇよ、あと怖い。
なんなんだよ、一体……。
『なにかあったのですか、レイチェル?
こっちはちょっと忙しいのですが……』
『あ~、ごめんなさいなのです。
でも、ちょっと問題が起きたので……』
『ん? なんですか?
大抵のことは、そちらに処理を任せようと思いますが……』
『うん、私の方でなんとかしようと思うのですが、一応報告しておくのです。
エリが吸血鬼に攫われました』
「は?」
それはちょっと予想外の報告だった。
だけどこれでもう、吸血鬼の居場所について、魔族の男を尋問する必要が無くなったことだけは確かだろう。
吸血鬼はサンバートルの町に潜伏していたらしいので、私はレイチェルに簡単な指示を出し、そして──、
「お待たせしました。
どうやらあなたは用済みになったようなので、実験に付き合ってもらいますね?」
と、魔族の男を使って、「吸収」のスキルの実験を続けることにする。
まあ結果として、彼は更に苦しい思いをするかもしれないが──、
「先程も言いましたが、私はあなたを許すつもりはありませんから」
私は有言実行なのでね……。
男の顔が絶望の色に染まったが、私の知ったことではない。
次回は明後日……いや、用事があるからちょっと分かんない。1日くらいずれるかも。




