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24 とある冒険者が見た戦場

 ブックマーク・☆での評価・誤字報告・感想をありがとうございました!


 今回は以前1度だけ登場した人の視点です(誰?とか言われそう)。

 俺の名はギブソン。

 サンバートルの町で冒険者をやっている。


 一時期は「町で最強の冒険者」だなんてもてはやされてもいたが、十数年ほど前にゴブリンにあっさり敗北し、そのゴブリンと原始竜(ダイナソー)との凄まじい戦いを()の当たりにして以来、自信を喪失してしまっていた。


 世の中には自分の想像を超えるほど強い奴がいるという、厳しい現実を思い知らされた。

 それにあの現場にいたキエルとかいう新米の冒険者が、クラサンドでSランクになったという話を聞いて、もう自分の時代は終わったんだな……と思わざるを得なかったさ……。


 それから俺は、危険の少ない無難な依頼ばかりをこなし、何処か満たされない想いを抱えながら冒険者を続けてきた。

 だが俺も、そろそろ引退を考えてもいい年齢だ。

 体力の衰えも、ハッキリと実感している。


 俺の冒険者としての人生は、このまま焚き火の燃え残りのように、静かに消えていくのだと思っていた。

 

 ところがそんなくすぶり続けていた俺の耳に、「ゴブリン討伐の為の大規模な派兵」が、領主によって宣言された──そんな話が舞い込んだのだ。

 ゴブリンか……!!

 あの時のゴブリン達なのかは分からないが、冒険者の最後に因縁の敵と戦って終わるのも悪くないかもしれない。


 ……まあ、あの時と同レベルのゴブリンが出てきたら、俺だけではなく領軍自体が負けるだろうけどな……。

 それでももう一度ゴブリンと戦わなければ、俺の中で区切りがつけられないのだ。


 領主は幅広く、軍への参加者を(つの)っていた。

 俺は迷うことなく、それに飛びついた。




 ……俺はゴブリンと戦う為に、領軍に参加したはずだ。

 しかし実際には、数え切れない魔物を相手に、ゴブリン達と一緒に戦っていた。

 魔物は圧倒的な物量で押し寄せてくる。

 これではゴブリンの力でも借りなければ、あっという間に全滅に追い込まれない。


 しかし実際のところ、この状況だとゴブリンでも頼りになる。

 というか、彼ら一体一体が相手でも、俺……負けるんじゃなかろうか……。

 それくらい奴らは強い。


 だが……何故スコップ?

 だけどそれを操る技術は凄いな……。

 今度真似してみようかな?


 ……ははっ、引退を考えていたのに、新しい戦闘スタイルのことを考えているとは……。

 俺が……冒険者の道を諦めるのは、まだ早いってことなのか……?

 それならば、なんとしてもこの戦場を生き延びなければな……!


 とはいえ、やはり魔物の物量に対して、我々は不利だ。

 途中、女王様による強力な魔法攻撃の援護があったが、それでもまだ足りない。

 このままでは押し切られる……そう思っていたその時──、


 前方に広がる魔物の群れの中心で、巨大な炎の柱が吹き上がった。

 おいおい……なんだありゃぁ!?

 さっきの女王様の雷撃魔法よりも、何倍も凄いのだが!?


 お……!

 巨大な炎の前に、人が浮いている……?

 (けもの)の耳と尻尾がある女の子のようだが、獣人とはなにか違うな……。


 あんな目立つ()は領軍にいなかったはずだから、後から来た女王様が連れてきたのか、それともあのゴブリンの町から来たのか……?

 ともかくあの凄い攻撃は、彼女がやったようだ。


 その後も、巨大な炎が何度も立ち(のぼ)り、魔物の群れに大打撃を与えたようだが、それでも魔物達は炎をかいくぐって、我々の方に押し寄せてくる。

 しかしその魔物達を、今度は何か波のような物が飲み込んだ。

 大規模な水系の攻撃魔法か!?

 

 いや……波ではないな……。

 ピンク色をしているし、水にしてはドロっとした粘り気を感じる。

 あまり考えたくないが、まさかあれ……巨大なスライムなのか!?

 領軍と魔物の間を(さえぎ)るように広がっているから、数百mはあるぞ……。


 ……!?

 気がつくと、そのスライムと思われる物体の上に、幼い少女が立っていた。

 そして彼女は、我々に向かって叫ぶ。


「我が名はアイ!

 君達が攻撃しようとしていた、町の代表だ。

 だが……幸い戦いになる前に、君達の女王クラリスが我々と友誼を結んでくれた。

 だから君達と我々は、共に戦う友軍である!!

 そして私も、ここに参戦することを宣言しよう!!」


 それはつまり、この戦いが我々の勝利で終わることを示していた。

 というか、あんな化け物を相手にして、誰が勝てるって言うんだよ……。

 もしもあの町と戦うことになっていたら、領軍はマジで全滅していたな……。


 事実、巨大なスライムが、次々と魔物達を飲み込んでいる。

 しかもスライムが城壁のように領軍の前方を囲んでいるから、領軍の方にくる魔物の数が劇的に減った。

 これならば俺達だけでも、十分に対処できるだろう。


 それから暫くして、遠い北の空が閃光で染まった。

 遅れて、爆音と衝撃がこちらに届く。

 ……あそこで、まだ誰か戦っているのか?


 しかしなんて爆発だ。

 あんな威力を生み出すことが人間に──いや、魔族でさえも可能なことなのか!?

 まさに人知を超えた力だ。


 そういえば、昔見た原始竜の熱線があんな感じだったような気も……。

 だが今回の方が、威力ははるかに大きいように見える。

 (ドラゴン)すらも上回る力か……!!


 そう思うと、なんだか身体の震えが止まらなかった。

 俺は恐怖しているのだろうか?

 いや……それだけではないな……。

 大きな力に対する、憧れのようなものがそうさせているのか。

 これは武者震いなのかもしれない。


 はあ……これじゃあ、まだ冒険者をやめる訳にはいかないな。

 俺はまだまだ強くなりたい。

 サンバートルに帰ったら、自分の戦い方を見直そう。

 

 なんにしてもあの爆発の後は、魔物の侵攻がほぼ無くなったようだ。

 爆発に巻き込まれて、魔物は一掃されたということなのだろう。

 やはりあの爆発は、味方が起こしたものだったのか。


 どうやらこれで、無事にサンバートルへと帰れるらしい。

 それも女王様のおかげかな。

 あの町を味方に付けてくれて、本当にありがとう……と、言いたい。

 次回は明後日の予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] すみません、誰?(マジ忘れた) 魔族勢力は全然雑魚じゃなさそうですね。 でも確かに妹さんと娘さんはとても頼もしいです〜 スコップ教が広まれてしまうそうですけどw
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