22 スコップ自警団出動!
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私が元の町に戻ったその時、索敵によると情勢に動きがあったことが分かる。
山の中にあったいくつもの反応が集結して、町や領軍に向かって動き出しているのだ。
索敵にあった反応は動物なのかと思ってスルーしていたけど、潜伏していた敵だったのか。
しかも索敵の外側からも、更に集結してきている。
その数は、数千以上はいるかも……。
ただの獣ならば大したことはないが、これが全て魔物ならば領軍だけでは厳しいだろうな……。
ただ、領軍は既に動き出しているから、不意打ちを受けていきなり大打撃を受けるということはなさそうだ。
あの領主も、なかなかやるじゃないか。
とはいえ、やはり魔物の群れ相手には、戦力が十分だとは言いがたい。
「アイ、敵の襲撃があるようです!
この町での対応はどうするのですか?」
「あ、おかえり、お母さん。
こちらでも動きは把握しているよ。
今、ハゴータ達が打って出る」
アイ達は門のところで、既に待機していた。
この町でも戦力を出して、応戦するようだ。
その数は200人くらいかな。
「つまり領軍と共同戦線を張る……ということですね?」
「まあ……、目の前にいるのに、何もしないという訳にはいかないっしょ」
この町は強固な塀で囲まれているから、籠城戦をするという選択肢もあったはずだが、アイ達は人間を助ける為に動いてくれるらしい。
先程まで領軍に攻撃されそうになっていた彼女達には、そんなことをする義理は無いのだが、それでも今後の人間達との付き合いを考えたら、助けた方が円滑に事が運ぶはずだ。
だがそれも、私やクラリスの為の配慮ありきだと言える。
「ありがとうございます」
「まあ、親孝行くらいはさせてよ」
「親として何もしていないので、恐縮しますね……」
でも、本当にありがたい話だ。
……ありがたいのだが、何故スコップを装備している者が多いのだ?
それで本当に戦えるのか?
「あの……なんでスコップ?」
「ああ、ハゴータがここに来た時、彼がお母さんにしたことを聞いて、シスが怒っちゃってねぇ……。
で、彼に折檻しようとしたんだけど、そんな怒れるシスに対して、果敢にもスコップ1本で立ち向かって、そこそこ善戦したハゴータの姿に、感銘を受けた者が多くてさ。
みんな真似しているんだよ」
「まあ……あたしを相手に、よくやったとは思うよ……」
ま……マジですこ?
あんなネタで渡した物が、こんな結果を招くなんて……。
でも──、
「野郎ども! いくぞぉ!」
「「「「「おおっ!!」」」」」
ハゴータの掛け声を受けて、皆が応じる。
そして彼らは門をくぐり、敵を迎え撃つ為に出ていった。
なんだろうね……。
あのハゴータが、部隊を率いるほどの人望を得るなんて、想像もしていなかったよ。
だけど人が変われるということを証明して見せた彼には、ちょっとした感動を覚える。
お、早速接敵するようだな。
相手は巨大な狼や熊などの魔獣が大半を占めているようだが、中にはオークのような人型の魔物もいるようだ。
人型の魔物なんて、ゴブリン以外では自然の状態で生息しているのを見たことが無いから、やはり魔族が裏で動いているのだろうな。
これは厳しい戦いになりそうだ。
「我々は何もしなくていいので?」
私がそう聞くとアイは、
「私達が出たら、すぐ終わっちゃうじゃん。
みんなにも活躍の場を作ってあげないとね。
それに……全部私達がやっちゃったら、進歩が無いよ。
本当に危なくなる時までは待機さ」
そう答えた。
「まあ……私も同感なのですが……。
犠牲者が皆無……とはいきませんよね……」
それが辛いところだ。
私達が戦えば、死者を最小限にとどめることはできるかもしれない。
まあ、あれだけ大量の魔物を相手にするには、大規模な攻撃を使う必要も出てくるが、それだと味方を巻き込みかねないので使いどころが難しいし、かといって出し渋ると数の暴力には対抗できなくなるので、実際には犠牲を出さないというのは不可能な話だろう。
それでも私達が参戦するのとしないのとでは、おそらく犠牲者数の桁が違ってくる。
……が、それでは皆が我々に頼り切ってしまい、いざという時になっても自分で戦うことができなくなってしまう。
下手をすると軍隊や騎士の不要論なんていうものも、世論にはびこってしまうかもしれない。
それで国家としての防衛力が低下した結果、私達がいないところで今回のような事態が起こってしまったら、目も当てられない惨状になるだろう。
私も永遠にこの国の面倒を見るつもりはないから、私がいなくなっても国が動くように、ある程度は他人に任せないとね……。
「国民の死を織り込み済みで物事を判断しなければならないというのは、辛いものですね……。
ねえ、クラリス……」
「そうね……」
その重圧を最も受け泣けなければならないのは、女王であるクラリスだ。
でもだからこそ彼女は、静観しない。
「私は領軍のところまで行って、ちょっと加勢してくるわ。
負けては意味が無いし」
「はい、お気を付けて」
直後クラリスが転移していく。
彼女の行為は女王としては甘いのかもしれないが、それでも結果として彼女に救われて忠誠を誓う者が増えるのならば、それもいいだろう。
勿論本人は、そんな打算を考えてはいないだろうけれど。
それにどのみち、彼女が参戦しただけでは、領軍はきっと勝てない。
最終的には私達が戦う必要があるだろうけれど、それは皆が全力を尽くして、どうしようもなくなってからだ。
まあ、犠牲者が増えるのは本意ではないので、早い段階で怪我人の治療の為に介入することくらいはしよう。
さて……一方のハゴータ達の戦いぶりはというと──。
……凄いな、スコップで普通に戦っているわ。
本来ならば剣とか純粋な武器を使った方が、絶対に有利なはずだ。
だが、彼らはスコップを魔力や気で強化して、不利な部分を補っている。
まあ、そこまでしてスコップを使うメリットがあるのかというと、多分無いのだが……。
強いて挙げるのならば、「気合いが入る」とか、一種の精神論だろうか。
でも実戦では案外心の持ちようが生死を分けるので、そういう意味ではメリットがあるのかもしれない。
あと、長期的に見れば、魔力や気の操作の訓練にはなるのかな?
ともかく、スコップでの戦いは悪くない。
この調子ならば、ハゴータ達の中から死者が出ることは当分ないだろう。
しかし敵の数は数千以上──。
いずれは数の力で、強引に押し切られることは間違いない。
そもそも領軍の方では、既に犠牲者が出ているようだ。
その中には、騎士や冒険者だけではなく、徴兵を受けた一般人も混ざっているから、彼らでは魔獣と戦うのは厳しいのだろうな……。
さて……そろそろ私も、衛生兵として働きますかね。
次回は明後日の予定です。




