21 吸血鬼の救い方
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昨晩更新するつもりで忘れていたので、今日はこんな時間。実験的にアクセス数の変化の有無も、検証したい。
残念だが吸血鬼と化した領主の娘・コンスタンスを、人間として救う手段はもう無いだろう。
だからこれからの選択肢は、ひと思いに彼女の命を絶つか、魔物のまま人間との共存の道を探るか……だ。
「もしかしたら、人としての心を取り戻すことはできるかもしれません。
ご息女の身柄を私に預けていただけるのならば、なんとか試みてみましょう。
「ま……まことか!?」
私の言葉に、領主は喜色を浮かべた。
だがこれから私が告げることは、残酷な選択肢だ。
「ただしもう、真っ当に人間の社会で生きていくことは難しいでしょうし、彼女も人間ではなくなってしまった自身の身を呪うかも……。
場合によっては、死ぬよりも苦しむかもしれませんよ?」
「……っ!!」
領主の顔が、激しい葛藤の色に染まる。
娘が苦しむと分かっていて、安易に助命の道を選択することにには躊躇があるのだろう。
だけど彼は、暫し苦悩した末に決断した。
「そ、それでも生きていてくれるのならば……。
どうかよろしくお願いします……!」
そんな彼の決断は、娘のことを心底思ってのことだったのか、それは分からない。
もしかしたら、その方が自分の心が楽だったから──という、身勝手な理由からの選択だという可能性もある。
だけど親としては、私も同じ立場ならば同様の選択をするかもしれないし、彼のことは否定できないな……。
「それでは……ご息女の状態がある程度回復すれば、面会できるようになることも有り得ますが、現状ではどうなるのかは分かりません。
少なくとも今後一緒に暮らすことが難しいということだけは、覚悟しておいてください」
「……くっ。
分かりました……」
領主は酷く消沈した顔で頷いた。
まあ、やりきれないだろうなぁ……。
「それでは私は、ご息女を治療できる場所まで運びます。
あなたは襲撃を警戒してください」
「しゅ……襲撃?」
「おそらく敵は、あなたを吸血鬼化させて操り、あの町と領軍を潰し合わせることを目論んでいたはずです。
それが失敗した今、次の攻撃があるかもしれません」
「し……しかし敵とは一体……?」
「当然、吸血鬼を含む魔族でしょう」
「……魔族!?」
領主の顔は蒼白となる。
彼もクラサンドの町が魔族の襲撃によって、冒険者に多大な犠牲者が出たという事件は知っているだろう。
その惨劇がまた、今ここで繰り返されるかもしれないのだ。
だが領主の顔は、むしろ喜んでいるようにも見えた。
「我が娘をこのような目に遭わせた連中を、絶対に許さんっ!!」
彼は娘を奪われたも同然の怒りを、魔族にぶつけることで解消するつもりのようだ。
見た目は少し頼りなさそうだったが、意外と勇猛なのかもしれないな。
ならばここは彼に任せて、私は私の仕事をしよう。
「それでは任せましたよ」
私はコンスタンスを抱え上げて、その場から転移した。
転移の目的地は、クラサンドのダンジョンの最下層──。
そこに到着すると、多くのメイド達が私を出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「はい、ご苦労様です。
この娘はあなた達の後輩──新入りですよ。
まだ洗脳を受けて正気を失っているようですが、みんなで強めにマッサージを施せば、元に戻るでしょう。
あとはメイドとして、しっかり躾けておいてください」
私はコンスタンスを、メイド達に預けることにした。
メイド達には私のマッサージ技術を伝授してあるので、洗脳の治療は彼女達に任せようと思う。
あのマッサージには麻薬の依存性や、魔剣による精神汚染すらも吹き飛ばすほどの効能があるので、コンスタンスにかけられた洗脳も打ち消すことができるはずだ。
まあ……10才くらいの少女に施すのは、絵面的にもにも少々アウトな気もするし、その後はマッサージ無しでは生きていけない身体になるかもしれないが……。
でもどのみち吸血鬼となったコンスタンスは、日光が弱点になっているはずだから、もうこのダンジョンでメイド達と一緒に生きていくしかない。
夜ならば外に出ることは可能だろうけど、太陽の下は二度と歩けないだろう。
あるいは日光を克服するような耐性スキルを獲得すれば話は別だが、それができなければ今後一生、暗い闇の中での生活が待っている。
それは辛いことだとは思うが、受け入れてもらうしかない。
メイド達には、その助けになってくれることを期待したいのだ。
彼女達も元々は魔物だから、ある意味ではコンスタンスと同類だし、仲間がいれば色々と助けになることもあるだろう。
それに吸血鬼の食料となる血液は、ダンジョンの魔物ので我慢してもらうことにしようと思う。
それで吸血衝動が完全に制御できるようになり、そしてメイド達から人間のフリをして生きる術を教わって身につけるまでは、父親に会わせることはできない。
とにかくコンスタンスにはなんとか頑張ってもらいたいと思うが、まだ幼い少女には耐えがたいことだろう。
しかしだからこそ、彼女をこのような目に遭わせた連中を、このまま野放しにするつもりは無い。
とりあえず吸血鬼だけは、確実に滅ぼさなきゃ……!(使命感)
私は再び転移した。
次回は月曜の24時頃の予定。




