20 帰ってきた行方不明者
ブックマーク・☆での評価・感想をありがとうございました!
昨晩は更新できなかったので、ちょっと変則的な時間に更新しています。
あと、いつの間にか50万文字以上書いてました。よく続いたなぁ……。
「たぶんその魔王軍がやっていることですよ、これ……」
今回の事件の黒幕は、魔王軍の可能性が濃厚になってきた。
ここ10年ほど動きが無かったけれど、また動き出したのか。
「え~……あいつら、ただの魔物の破落戸だと思っていたよ。
こんな大がかりなことができるような、組織力があったんだ……」
「あの……私も魔王軍四天王を名乗る者を軽々と撃退しているので、人のことはあまり言えませんが、あなた達が強すぎるだけで、その魔王軍もそこそこの実力はあったと思うのですよ?
ともかく私は領軍の様子を見てきますので、あなた達は警戒を強化しておいてください」
「四天王を撃退って……。
本当に、どんな数奇な人生を……。
でも分かったよ、お母さん」
私の言葉に、アイは素直に従ったが──、
「お姉ちゃん、あたしも行く!」
シスは私についてこようとした。
でも娘のリザのことを見ていると、このキツネの種族は自由気ままな性格なので、トラブルを起こしやすいんだよな……。
できれば今は、残っていて欲しい。
そんな私の内心を察したのか、クラリスが動く。
「はーい、あなたはお留守番よ」
と、シスを抱え上げて、毛繕いを始めた。
さすが私のパートナー!
以心伝心ができている。
「ちょっ、何するのよ!?
やめ……あれ?
あああ……本当に上手いぃ……!」
そしてシスは、クラリスのテクニックに即堕ちだった。
もしかして女王よりも、魔獣使いの方が適正があるのでは?
まあそれはさておき、さっさと領軍の方に現れた怪しい気配について確認しよう。
私はその気配がある場所の、すぐ近くへと転移した。
そこにあったのは、大きな天幕だった。
サンバートルの領主が泊まっている場所かな?
その証拠に、入り口には護衛が立っている──って、何故か目をつぶって……し……死んでる!
──ということもなく、眠っているだけのようだ。
これは……魔法で眠らされたっぽいな。
となると、犯人は中か。
私は中の者に気取られぬように、気配を消して中を覗き込んだ。
「おお……コンスタンス……よくぞ、無事で……!」
領主が誰かを抱きしめていた。
10才くらいの可愛らしい女の子だ。
おまわりさん、こいつです。
まあ冗談はさおき、あれが行方不明になっていた領主の家族──娘さんかな?
コンスタンスという名前らしいけど、『三銃士』を思い出すなぁ。
まあ私の場合、テレビアニメ版の方だけど。
……っと、話が脱線した。
今は目の前の出来事に集中しないと。
ふむ……どうやら行方不明になっていた領主の娘が帰ってきたようだけど、あんな小さな少女が、こんな場所に突然現れるのは、どう考えてもおかしい。
私の索敵によると、彼女は陣地の外から忍び込んだようだ。
索敵能力だけではその正体までは分からないから、動物の可能性も考えていたのだが、結果として現れたのは幼気な女の子だった。
その子がこんな山奥に潜んでおり、そして夜になって人の動きが少なくなったタイミングを見計らって領主の天幕に訪れる──しかも護衛を眠らせるというその行動は、怪しいことこの上ない。
そんな訳で私は、そのコンスタンスと呼ばれた少女の動きを注意深く見守っていたのだが、やがて彼女は大きく口を開いた。
その口の中には、鋭く長い牙が覗いている。
明らかに人間の物ではない。
これは吸血鬼──か?
何物かが攫ったコンスタンスの血を吸い、吸血鬼にした……?
で、そのコンスタンスは、次に領主の血を吸おうとしている。
領主は跪いて娘の身体を抱きしめている為、その顔は見えていないようでだ。
だから自身の身に迫った危機には、まだ気付いていない。
しかも丁度コンスタンスの顎が領主の肩の上に載っている形で、今すぐにでも首筋にかみつける状態にある。
こりゃ、止めなきゃいかんな。
「はい、そこまでです」
「ガハッ!?」
コンスタンスは蜘蛛糸で拘束したので、もうこれ以上は動けないだろう。
「な……なにごとだ!?」
「危ないところでしたね、アンバー伯爵」
「あ、あなたは、女王様お付きの……」
「はい、筆頭侍女のアリゼです。
残念ながらご息女は、吸血鬼と化しているようです」
「そ……そんな……」
領主は信じられないという顔をしたが、コンスタンスが蜘蛛糸から逃れようと藻掻き暴れる姿は、凶暴な獣のようだった。
しかも口からは、長い牙が見えている。
危ないから、竹でもあれば某鬼の妹みたいに咥えさせるところだが……。
領主もそんな娘の状態を目の当たりにしては、現実を受け入れざるをえないようだ。
「こうなっては、もう人間には戻れないでしょう……。
ひと思いに命を絶った方が、いいのかもしれません。
なんでしたら、私が代わりにやりましょうか……?」
「そ、それは……!!
ほ、本当にもう娘を助ける方法は、無いのですか!?」
うむ……同じ親として、気持ちは分かる。
でも人間として救うことは、もう無理だろう。
だけど、魔物としてならばどうだろう……?
次回は明後日の予定。




