19 暗躍する者
ブックマーク・感想をありがとうございました!
「ああ~っ、やっぱりお姉ちゃん上手……っ!」
キツネの姿に戻ったシスが、私の膝の上で喘いでいる。
はい、お約束通り、毛繕いをしております。
「話に集中できないから、後にしなさい!」
「え~?」
クラリスに怒られた。
でも、シスは甘え足りないのか、大層不満げだ。
クラリスはクラリスで、「そこは私のポジションだ」と言わんばかりに、鋭い視線をシスへと送っている。
その嫉妬のオーラしまえ。
うむぅ……これは嫁VS小姑戦争勃発か!?
おいおい……みんな仲良うせんとあかんよ?
「毛繕いなら、後で私がしてあげるから、我慢しなさい」
「え~、お姉ちゃんのがいい~」
「そう……でも、私のロイヤルマッサージは、アリゼを骨抜きにするレベルなのよ?」
「え……マジ?」
「マジよ」
シスが興味を示し、ゴクリと喉を鳴らした。
お……これなら大丈夫か?
だけど実際、クラリスのマッサージ技術は、今や私に匹敵する。
夜のベッドの上では、大変お世話になっています。
それに獣人の扱いも上手いから、シスを手懐けることもできるかもしれない。
「で、そろそろ話を進めたいのだけど、もういいかい、お母さんがた?」
お、おう……。
さすがにちょっとイラついた様子のアイの迫力に、私達は黙った。
そしてクラリスが、事のあらましを彼女へと説明する。
「なるほど……何故人間の軍隊が来たのか分からなかったけれど、そんな理由があったんだね。
でも、うちは色んな種族との共存を目指しているし、ゴブリン達にもかなりの意識改革を促したから、誘拐なんかしていないはずだよ。
少なくともこの町に入る時には身体検査を受けるから、攫った者を連れたまま門を通ることはできない」
「ですよね……」
そもそも転移魔法でもなければ、こんな数十kmも離れた町まで人を運ぶのは無理だろうし、誘拐犯の拠点はもっとサンバートルの町の近くにあるはずだ。
いや、犯人が攫った人間を殺して、その死体を何処かで処分しているのなら話は別だが、その可能性を考え出すと、救いが無さ過ぎるのがな……。
どのみちこの町から、殺人をする為だけに遠いサンバートルまで行く者がいるというのも考えにくい。
「ちなみに、あなた達は転移魔法を使えるんですか?」
「使えないよ。
使えたら、直接私がお母さんを捜す為に動くよ。
他の住人達も、調査員がわざわざ徒歩でサンバートルまで行き来していることからもお察しでしょ?」
「なるほど……」
転移魔法を使っての犯行も無い……と。
まあ、アイの言葉が事実ならば……というのが大前提だけど、オーラの色を見る限り嘘は無さそうなので、やはりこの町は無関係だろう。
勿論、住民全員をオーラ鑑定しなければ、確定では無いが。
「それにしても、ハゴータから10年くらい前までクラサンドにお母さんがいたって聞いたから、そこに調査員を大量に送ったことで、町の位置が特定されるとは思わなかったなぁ……」
あ……ある意味この騒動の原因って、私だったのか。
それはスマンかった。
「それでもこの騒動が切っ掛けで、お母さんとシスを再会させることができたのだから、まあ良かったよ……」
「確かにそうですね」
こんなところで、十数年前に生き別れた妹と再会できるとは、全く予想していなかった。
そして娘がもう1人増えるのは、更に予想していなかったが……。
本当に人生は、何が起こるのか分からないものだ。
「しかし結局、問題は何一つ解決していないわね……」
クラリスの言う通りである。
誘拐犯人は全く分からないし、これから領軍を町に帰すという大仕事もある。
まあ、私が転移させてもいいんだけど、さすがに軍隊を瞬間移動させることができるということを公にするのは、ヤバイような気もする。
これはその気になれば、他国の首都にいきなり軍隊を送り込めるということでもあるのだから、各国から危険視されるのは必定だろう。
「そういえば今サンバートルの町には、戦力がいないことになるのですよね……。
まさか何者かが、この隙を狙っている……なんてことはないですよね……?」
「いや、有り得るんじゃない?」
「そうね……。
あの領軍には、冒険者もかなりの人数が編入されているようだから、町に戦力は殆ど残っていないし、盗賊団程度でも襲撃が可能なタイミングだと言えるわね」
そっかぁ~。
じゃあ、早めに戻った方が──、
「……いや、サンバートルにはレイチェルが残っているし、どうにかなりますか」
今のレイチェルなら、私が冒険者をやっていた頃と同程度の実力があるので、魔王軍の四天王が来たとしても撃退できるはずだ。
更にアリタとリゼも、スキルの数とステータスの数値だけなら、今目の前にいるシスよりも高いだろうし、過剰戦力だとも言えるんじゃないかな?
「ねえ、お姉ちゃん。
レイチェルって、誰~?」
「私の娘ですよ。
まあ、アイと同じような存在で、アイにとっては妹ですね。
シスにとっては姪っ子ですか。
他にも2人いますから、あとで紹介しますよ」
「へ~、お姉ちゃんも家族が増えたんだぁ。
良かったねぇー!」
「そうですね……」
あの故郷の森を飛び出してからの約5年間は、本当に孤独だった。
だからこそ、今が夢のようだ。
しかもまた娘と妹が増えたし、この幸せをじっくりと噛み締めたいな……と思う。
だけどこの時既に、水面下では事態は動き出していた。
「ん……?
あれ? 領軍の方に変な気配がありますね……?」
「それは、件の誘拐犯の方が動いてくれたってことかな?
だとすると、私達と人間が争ってくれないと困る……ってことなのかな?」
「たぶんそうなのでしょうね。
どちらか……あるいは両方が邪魔なので、潰し合いをさせたいかもしれません」
「そっかぁ……。
でも、そんな恨まれるようなことを、誰かにしたかなぁ……?」
と、アイが首を捻る。
その時、
「あ!」
と、シスが声を上げた。
なんだ、どうした?
「ねぇアイ、あれじゃない?
3年くらい前に、『我らの支配下に入れ』とか馬鹿なことを言ってきたから、ボッコボコにした連中がいたでしょ?」
「ああ、そういえばいたね。
魔王軍を名乗っていたけど、全然大したことないから、偽者じゃないか……って結論づけたのが」
そ……、
「それだ──っ!!」
どう考えても、そいつらの仕業だろ!!
次回更新は明後日……だと通院なので無理かも。




