18 異世界の王道
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アイと名乗る少女は、私の娘を名乗った。
「うん、私はアイ。
スライムだった頃のお母さんから分裂して生まれた、あなたの娘だよ」
「あ~……」
「あれ? あまり驚いていないね?」
「いえ……驚いてはいますよ。
でも、いつの間にか母親になっていたのは、前にもあったので……」
レイチェルを妊娠していると知った時の、あの衝撃は凄まじいものがあったから、それから比べればどうということはない。
「……お母さんも、特殊な人生を歩んでいるんだね……」
そうか……。
使った覚えの無い「分裂」のスキルのレベルが上がっていたのって、この娘が原因だったのか。
しかしこの娘の言うことが事実だとすると──いや、前世のネタを理解していることからも、私の記憶を受け継いでいるのは確定なんだけど、それはつまり、長女だと思っていたレイチェルは次女だったということになるな……。
そして私の娘は3姉妹から4姉妹に。
そうなることが分かっていたら、『若草物語』の4姉妹を元ネタにした名前をつけるのもありだったかも……。
勿論、スライムにベスの名は強制な。
「ところでその人間の姿は、『変形』のスキルで形作っているのですか?」
「あ~、これはどちらかというと『吸収』。
これは吸収した相手の、能力や記憶やステータス情報の何割かを手に入れるというものだよ。
お母さんの『乗っ取り』みたいに、100%手に入れられるものじゃないけど、使い勝手はいいと思う。
で、得た情報を解析して、更に『変形』も加えてこの姿を形作った訳」
へえ……「吸収」って、そんな能力なんだ。
じゃあやっぱり、「乗っ取り」を使わなくても、能力を強化することは可能なんだな。
……って、そんなのが固有スキルのスライムってヤバいな。
たぶん能力を使いこなす知能が無いから、大したことはないのだろうけれど……。
「ということは……その姿は人間の……」
「まあ……ちょっと事情があってね。
志半ばで倒れた、冒険者の姿を借りたんだよ」
つまりは人間を吸収=食べたということだ。
だけど彼女だって好んで人を食べた訳ではないのだろうし、なんとなく事情は察せられる。
きっと某有名異世界転生ファンタジー作品みたいなことがあったのだろう。
スライムが魔王になる、例のあれのような。
その時──、
「なに、あなた?
妹だけではなく、隠し子もいたの?」
「はあ……そのようで……」
クラリスにそう言われると、なんだか浮気したような気分になる……。
一方アイは、私になれなれしい態度のクラリスの存在に、興味を示したようだ。
「おや、あなたは?」
「私はこの国の女王、クラリス・ドーラ・ローラントよ!
あなたの母の妻みたいなものだから、お母様と呼んでもいいわよ?」
「お、おう……。
なんでそんな凄い人が、ここにいるのかな……?」
「えっ、お姉ちゃん、結婚してたの!?」
さすがにクラリスの正体には、アイも驚いていた。
でもシスは女王とかには興味が無いのか、「妻」の部分に反応していた。
まあ、正式には結婚していないけど、事実婚だ。
「勝手に領軍を動かした、サンバートルの領主を止めに来たのよ。
こんなことになった事情を、あなた達にも聞きたいと思うのだけど?」
「じゃあ、ここで話すのもなんだから、我々の家に案内するよ。
あ、ハゴータ達は、一応軍隊の動きを見張っていて」
「えっ!?」
ハゴータ!?
あいつ、生きていたの!?
アイが呼びかけた男の方を見ると、それは使者をしていた髭面の男だった。
髭で顔が覆われていて分かりにくいが、確かに面影がある……かも?
「あの……彼は……?」
「ああ、この前この町に辿り着いてね。
ボロボロになっていて、結構大変な思いをしたらしいよ。
それだけに反省もしていたし、真面目にこの町の為にも働いてくれている。
……お母さんは、まだ彼のことが許せないのかい?
彼はお母さんから貰ったスコップを、大事にしていたよ」
「……ちょっと分からないですけど、今更どうこうするつもりはありませんね」
実際、存在を忘れていたくらいなので。
だからわざわざ私からハゴータに声をかけるつもりもないし、その方があいつにとっても罰になるのと同時に、救いにもなるんじゃないかという気がする。
というか、謝って許されると思っているようなら、また怒りに火が付きそうなので、ハゴータもこちらに話しかけてくれるなよ……。
まあ、オーラの色を見る限り、更生していることだけは信じるけどね。
それにしてもこの町は、私の前世の記憶を使って作られているのか、王都よりも発展して見える。
王都には古い建築物が沢山あるけれど、それらを安易に取り壊して、新しく建て直す訳にはいかないからなぁ……。
ここのように1から作った方が、手っ取り早いのも事実だ。
まあ、古い建物にも歴史的価値があるけれど、地震とかの災害には弱いから悩ましい……。
それを考えると、今後の都市開発計画はどうしたものやら……。
予算が無限にあるのなら、別の土地に新しく都を作って、遷都するのもありなのだがね……。
あと、住人にはゴブリンの他に、人間や獣人、そしてエルフも──、
「えっ、エルフ!?」
リーザのようなハーフではなく、純粋なのは初めて見たぞ!?
凄い! 耳がリーザの倍は、長くとんがっている!
ちょっと触ってみたい!
「ああ、近くの森に集落があって、そこから移住してきた人もいるよ」
なん……だと?
サンバートルまで行かなくても、人類がいたんかい!?
だとしたら私は、もっと早い段階で人類に接触できる可能性もあったのか……?
どんだけ運が悪かったんだ、あの頃の私……。
いずれにしても、ここは色んな種族が共存している。
それを目に当たりにして、私は少し悔しかった。
「クラリス……私はこんな国を作りたかったのですよ。
色んな種族が共存していて、前世の知識を使った技術による便利で暮らしやすい国が……」
「残念ながら、我が国はまだこうなってはいないわね……」
ローラント王国ではまだまだ獣人や元奴隷への差別はあるし、身分の差も激しい。
前世の知識を利用した新しい技術は徐々に広まってはいるけれど、この町のような状態になるのは、まだ当分先の話だろうな……。
「……というか、私よりも娘の方が、異世界ファンタジーの王道展開を歩んでいるような気がするのですが……」
スライムに生まれて強くなり、ゴブリン達と出会って町を作って、人の姿も手に入れて……って。
「何処のリ●ル様ですか……」
「お母さん、それ以上いけない!」
ちょっとした敗北感を覚える私であった……。
「でもこの町は、住処を無くしたゴブリン達の為に作ったというのもあるけど、もしもお母さんが人間の世界で居場所を失った時に、帰る場所としても作っているんだよ。
お母さんをようやくここに迎入れることができて、本当に良かったよ」
「ホント、お姉ちゃんのこと、すっっごい捜していたんだから!」
「……ありがとうございます」
そんなアイシスコンビの言葉は嬉しかった。
なんだか今になって、故郷ができたような気分だわ……。
その後、2人が住むという家に招かれ、そこで色々と話し合うことになったのだが……。
当然、この町にとっては、人間の軍隊に攻められるようないわれなど無かった。
次回は明後日の予定。




