16 進軍の理由
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ゴブリンを取り囲んでいた人間達が、そろそろ攻撃を仕掛けそうだ。
私達はそれを止める為に、ゴブリン達の前に降り立つ。
「あいや、待たれい!」
突然の乱入者に、その場にいた全ての者が動きを止めた。
空からいきなり人が降りてきたら、そりゃ驚くわな。
「静まれ、静まれぃ!
ここにおわす御方を、どなたと心得る。
現ローラント王国女王、クラリス・ドーラ・ローラント陛下なるぞ。
一同、女王陛下の御前である。
頭が高い! 控えおろう!!」
「……何そのノリ……」
その場には、クラリスの呆れたようなツッコミの声以外は無く、静寂に包まれていた。
皆、事態について行けず、ポカーンとしている。
某ご老公が紋所を出した場面ならば、全員が平伏するところだが、悲しいかな現実は違う。
誰もがこの場に女王がいるとは信じることができず、しかし私の言葉を否定する材料も無く、混乱していた。
いや……でも、なんで女王とかとは関係ないゴブリンまで固まってるの?
「ええい、何事だ!?」
その時囲みの外側で、何者かが騒ぎだした。
この声には聞き覚えがあるな。
サンバートルの領主だ。
「そこにいるのは、アンバー伯爵ね?
まさか私の顔を、忘れたとは言わないわよね?」
「えっ、まさか陛下!?」
現れたのは高身長ではあるが、痩せていてどこか頼りない印象の、中年の男だった。
彼は一瞬、呆然としていたが、すぐに平伏した。
そして領主が平伏したのを見て、目の前のクラリスが本物だということをようやく確信した他の者達も平伏する。
「……何故あなた達も、平伏しているのです?」
気がつけば、何故かゴブリン達も平伏していた。
君達は女王に敬意を払う必要は無いだろ。
「我らが王の帰還に対し、感謝を神に捧げます……。
よくぞお戻りになりました」
あれっ、もしかして私の正体に気付いている!?
それによく見たら、この1番強いゴブリンは、あのゴブリンの王だわ。
私のことを、まだ覚えていたんだ。
「……姿が全く違うのに、よく気付きましたね?」
「その強大な気配を、間違うことはありませぬ」
「なるほど……。
取りあえず人間との戦闘は禁じますが、悪いようにはしません。
後で色々と話を聞かせてください。
いいですか?」
「はっ、仰せのままに」
よし、ゴブリンの方は恭順を示してくれた。
あとは人間の方だが、領主の方はクラリスが問い詰めている。
「私に許可も無く、これだけ大規模の軍事行動を起こすなんて、どういうつもりなのかしら?」
「はっ……緊急事態につき、私の独断で軍を動かしました」
確かに他国に攻められるなどの緊急事態で、軍を動かす為にいちいち王に許可を取っていたら、手遅れになりかねない。
だから領主にも、ある程度は軍を動かす為の裁量権というのは与えられている。
平時でも山賊や魔物の討伐程度ならばその裁量権の範囲だし、緊急事態ならば戦争行為でもそれは当てはまる。
だけど今回の事態が緊急事態かといえば、それは違う。
誘拐による行方不明者が出ているのは問題だが、下手に軍を動かせば、その行方不明者以上の犠牲者が出かねないのだから、そのリスクを取らなければならないほど、切迫した状況にはないといえる。
勿論、行方不明者の家族が、一刻も早い行方不明者の発見と救出を望んでいるということも、理解はできるけどね……。
あ、そうか。
「まさか……あなたのご家族も行方不明に……?」
「ぐ……!」
領主はそう呻いたきり、口を噤んだ。
彼もゴブリンに攫われたかもしれない家族を救う為に、焦っていたという訳か。
気持ちは分かるが、公私混同だな。
だが、気持ちは分かってしまうのだ……。
「……陛下、罰は必要でしょうが……情状酌量の余地はあるかと」
「そうね、大きな被害はまだ出ていないから、考慮するわ。
ただしアンバー伯爵、以後あなたから領軍の指揮権を剥奪し、全て私の指揮下に入れるわよ?」
「ははっ!」
領主は地面に額をこすりつけるように、深く平伏した。
これで戦いは避けられるはずだ。
だけど問題はまだ解決してはいない。
ゴブリン達が犯人だとは思いたくないが、誘拐事件については彼らからも詳しく話を聞かなければならないのだ。
「まずは拘束されているという使者を解放して、彼らも交えて話を聞こうと思いますが、町の代表にも参加してもらいます。
代表はあなたでいいのですよね?」
私はゴブリン王に聞くと、彼は首を左右に振った。
「いや……町にいるアイ様とシス様が代表だ。
ずっと……あなたを捜していた」
へ……誰それ?
初めて聞く名前だ。
あ……、でも確かに町の方に大きな気配を感じる。
1つは我が娘達に匹敵するほど大きく、もう1つもグラス程度はあるかな……。
つまり両者とも、最低でも竜種や魔族くらいの強さはあるということだ。
あぶねぇ……!
領軍が町に攻撃を仕掛けていたら、反撃を受けて全滅していたかもしれん……!
間に合って良かった……。
……って、気配の小さい方が動き出した。
真っ直ぐこっちに向かってくる!?
まさか戻らない仲間を取り返す為に、乗り込んでくるの!?
もしもここで暴れられたら、犠牲者が皆無とはいかないかもしれない。
私は焦って迎撃態勢を整えようとしたが、相手の姿がもう見えてきた。
かなりのスピードで、空を飛んでいる。
それは真っ赤な長い髪を振り乱した、少女だった。
まだ十代半ばくらいだろうか。
可愛らしい顔には少し幼さが残る印象だが、しかし胸はそこそこ大きいように見える。
ギリ、ロリ巨乳と呼べなくもないか……?
だが、彼女の最大の特徴は、頭に獣の耳があり、そして何本もの尻尾を生やしているというところだ。
獣人──ではないだろう。
この世界の獣人は、動物そのままの顔をしている。
だけど彼女の姿は夢にまで見た、異世界名物の獣人ヒロインのイメージそのままだった。
この世界にも実在したのか、ケモ耳美少女!?
そんなケモ耳美少女は何かを叫びつつ、こちらに突っ込んで来る。
「お姉────────ちゃ────────────んっっ!!」
えっ、お姉ちゃん!?
私のこと!?
もしかして……あの赤い耳や尻尾の色は……妹ちゃんっ!?
戻して……と、言われそうな気もするけど、勿論キツネの姿にもなれます。
そして次回は明後日の予定。




