15 ゴブリン町の攻略陣地
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ゴブリンの町を攻略する為に、サンバートルの領軍が動いた。
しかし領主は「魔物の討伐」程度の認識なのかもしれないが、町を攻めるとなるとそんな簡単な話ではない。
聞くところによるとそのゴブリンの町は、かなり大きな規模である上に、石造りの高い塀に囲まれていたそうだ。
簡易的な城塞都市と言えるのかもしれない。
そして戦争でも砦の攻略では、守る方よりも攻める方が何倍もの戦力を必要とするほど難しい。
実際、強力な攻撃魔法が使える魔法使いがいるのならばともかく、石造りの塀を攻城戦用の兵器も無しに突破することは困難だ。
そして塀の上から弓矢や魔法で狙われれば、領軍は一方的に被害を受けることにもなりかねない。
まあ、町を取り囲んで、食料などの供給を絶つ兵糧攻めを使えば、人的被害は極小で済むだろうけれど、それには数ヶ月もの時間と、軍を維持する物資と資金が必要だ。
おそらく領主にはそんな余裕は無いだろうから、一気に攻め滅ぼすことを考えていることだろう。
だが、相手がゴブリンだと侮れば、思わぬ被害を受けるはずだ。
そもそもゴブリンが、そんな町を作っていること自体がおかしいのだから、ここは慎重になるべきだった。
たぶんゴブリン達が町を造り上げた技術に関しては、私が教えたものも無関係ではないのだろうけれど、ここは開拓地だからまだ領土が定まっていない地域とも隣接しており、もしかしたら他国の人間が関与しているという可能性だって有り得る。
そんな町に攻め込めば、一気に外交問題だ。
だから本来ならば、国に判断を求めるべき事案だったのだ。
それに万が一大量の死者が出た場合、遺族年金等を出すのは国なのだから、予算等の面でも国との折衝は必要だ。
そういう諸々の事情を無視して動いた領主は、拙速だと言える。
こりゃ解任も有り得るかもなぁ……。
ともかくまずは、戦いを止めるべきだろう。
人間は勿論、かつての配下であるゴブリン達にも被害が出るのは、忍びないしね……。
「それでは陛下、とりあえず現場へ行ってみましょうか。
いざという時は、女王の威光で領軍を止めてもらいます」
「それはいいけれど、場所は分かるのかしら?」
「索敵と転移の組み合わせで、十分いけるかと」
今の私の索敵能力は、最大で半径10kmはある。
だから10kmごとに北へ転移して索敵すれば、すぐに見つかるはずだ。
さすがに数百から数千人はいると思われる軍隊や、ゴブリンが住んでいる町を索敵で見落とすとは思えないからね。
いや、普通に軍隊が移動した後には、足跡などが残っているはずだから、それを追った方が確実なんだけど、それだと時間がかかるしなぁ。
今は時間が惜しい。
そんな訳で私達は、転移を繰り返して北へ向かう。
50km近くは進んだろうか。
領軍とゴブリンの町らしき物が索敵にかかった。
「よかった……。
まだ本格的な戦闘は始まっていなかったようです」
領軍が町を包囲している様子はまだ無い。
おそらく道無き森の中を数十kmも行軍した領軍は、疲弊してすぐに戦闘を行えるような状態ではなかったのだろう。
だからゴブリンの町から少し離れた場所に陣地を作って、そこで休息することにしたようだ。
よし、今の内に領主に接触しよう。
しかし陣地に近づくと、当然警備の者に止められる。
「何者だ!」
「火急の用があり、訪れました。
私は女王陛下の使いの者です。
至急、領主様にお取り次ぎください!」
「お……おう?
また使者かと……」
うん? 使者?
それについてはちょっとよく分からないが、警備の者も女王の名を出されたら無下にはできないようで、領主に取り次いでくれるようだ。
勿論彼らからしてみれば、私達が偽者ということも有り得るのだけど、王族の名を利用することは死罪レベルの重罪なので、その可能性は小さいと判断されたのだろう。
なお、ここにクラリスがいるということを明かしても、たぶん混乱を招くだけなので、まだ秘密にしておこう。
いずれにしても、まずは領主が会うと言ってくれなければ、ここから動くこともできない。
まあ、仮に領主が会わないと言っても、最終的には何らかの手段で強引に会うつもりだが、穏便に話が進むのならばその方がいいので、大人しく待つ。
クラリスだって、この程度のことが待てないほどこらえ性が無い訳ではないしね。
しかし私達が待っている間に、事態は動いた。
なにやら陣地の中で、喧噪が広がる。
「ゴブリンだっ!!」
おおん!?
ゴブリンの襲撃が始まったの!?
これは静観している訳にはいかないな。
「クラリス、行きますよ!
私から離れないでください。
そして常に防御結界の形成も忘れずに」
「ええ、分かっているわよ」
私達は風魔法で身体を浮かし、空中から騒ぎが起こっている現場へと向かった。
するとそこには、7匹のゴブリンが多くの兵士に取り囲まれていた。
まだ誰かが死んでいる様子は無いが、ゴブリン達がこの包囲を突破できるとも思えないし、兵士達の攻撃が始まれば、あっという間にその命は奪われるだろう。
いや……1匹だけ強いのがいるようだから、そいつだけならばあるいは……。
「……あれがゴブリンなの?
私、初めて見るわ」
「ええ、そうです。
……が、私が知っているのよりも、人間に近い姿になっているような……
あと、スコップを持っているのもよく分かりません」
魔物は強くなると姿が大きく変化する者も多いから、そういうことなのかな?
スコップ装備は本当に謎だけど……。
ともかく私とクラリスが、そんな会話をしていられるような余裕があるのは、双方が今すぐ殺し合うような雰囲気ではなかったからだ。
だって、なにやら言い争いをしているんだもの。
「薄汚いゴブリンどもめ、何しに来たっ!?」
「薄汚いのはどちらだ!?
和睦の為に送った使者を、我々は取り戻しにきただけだ!
使者を拘束するとは、何事だっ!!」
「使者って、人間と獣人だったじゃないか!!
お前達が洗脳か何かして、操っているに決まっている!!」
……とかなんとか。
あ~、これはゴブリンの方には、戦う気が全く無さそうだな。
使者を送っているのがその証拠だけど、その使者の言い分を信じずに拘束までした人間側の方にこそ、問題はありそうだ。
というか、ゴブリンが人間語を喋っているし、「使者」という概念を持っているのも驚きだ。
私がいない間に、随分と賢くなってない?
おっと、そろそろ一触即発になりそうな雰囲気だな。
戦闘になる前に、私が介入するとしますか。
次回は明後日の予定。




