14 開拓地の異変
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お久しぶりのアリゼですよ。
最近は仕事とかもすっかりクラリスやレイチェル、そして配下に頼ることができるようになったので、割とゆったりとした生活を送れるようになった。
スローライフ──理想的な異世界生活の1つだな。
このまま楽隠居したいけど、それはまだまだ先の話か。
で、今年の夏も田舎の別荘で家族と一緒にのんびりと過ごそうと思っていたのだが、どうやらそうもいかないらしい。
まずはサンバートルの町に到着してすぐに、無縁仏として葬られた真レイチェルの母の墓に訪れたのだが、ついでに罪人として処刑されてしまったダグズには墓が無いようなので、2人が同じ墓に入っているということにして墓参りをさせてもらった。
2人ともレイチェルにとっては大切な人だったので、久しぶりに彼女が泣いているのを見たよ……。
何故かエリも泣いていたが、それは彼の優しさが故だと思うので、好感が持てる。
その後、久しぶりに訪れたサンバートルの町の中の様子が、なにやらおかしいことに気付いた。
一体何が起こっているんです?
そんな訳で、事情を知っていると思われる領主の館に、クラリスと一緒に訪れた。
なお、子供達はメイド達と一緒に別荘でお留守番である。
領主の館は、以前私が燃やしてしまった前領主の館の跡地に建てられている。
まだ築数年なので、綺麗な印象だな。
……って、げっ!? 例のレイチェルが監禁されていた離れがまだ残っている!
これはレイチェルを連れてこなくて、本当に良かった……。
あれを見たら、トラウマが蘇りかねん。
まあそれはともかく、館の門に常駐しているらしい門番がいたので、彼に話しかける。
だが──、
「面会のご予約は?
ご予約が無い御方とは、御領主様はお会いになりません。
どうかお引き取りください」
すげなく断られることとなった。
当然アポ無しであったからだ。
だが、こういう時にこそ使うべきは権力である。
「ええぃ、この王冠が目に入らぬか!」
空間収納から取り出した王冠を、クラリスの頭に載せた。
「ちょっ、それ持ち歩いてるの!?」
まーねー。
王冠は重要な人物との謁見や国家行事の時にしか使わないし、必要なら私が被ってもいいって、オーラント公爵とかからも言われているので持ち歩いている。
まあ、私は被らないけれどね。
あくまでこういう時に、クラリスに被せる為のものだ。
「えっ、えっ!?」
王冠を見せられて、門番は混乱していた。
まあ、何が起こっているのか、理解できないのだろうな。
「女王陛下がお忍びで訪れているのです。
あなたは陛下のご尊顔を知らないでしょう?
だから分かる者に、判断を仰ぎなさい」
「しょ、少々お待ちください!」
門番が誰かに確認する為に、館の方に向かう。
これで門前払いは避けられるだろう。
程なくして、家令と思われる老齢の男が現れた。
まさに「セバスチャン」と呼んでも違和感が無い感じの、渋いおじさまである。
確か以前別荘に泊まった時に、領主と一緒に挨拶に来たので、会ったことがあるはずだ。
だから彼も、私達が本物だということがすぐに分かったらしい。
「も、申し訳ありません、陛下!
只今領主のアンバー伯爵は不在でございます。
おそらく、数日は戻らないかと……!」
「留守は仕方が無いわね。
突然訪れた、我々も悪い。
まあ、あなたでもいいわ。
少し聞きたいことがあるのよ。
町の様子がおかしいのだけど、どうしたのかしら?」
「そ、それは……」
家令は言いよどんだ。
もうこの時点で、クラリスの耳に入ったら拙いことがあると、確定したようなものだ。
家令は我々を応接室に招いて、改めて説明すると申し出たが、明らかに時間稼ぎっぽい。
稼いだ時間で、何かを誤魔化そうとしているのかもしれない。
それはクラリスにも分かったようで、門前で家令を問い詰めた。
「領主の留守と関係があるのではないかしら?
言いなさい」
と、女王陛下に凄まれて、抵抗できる者がいる訳がない。
家令はあっさりと白状した。
それによると、こういうことのようだった。
最近サンバートルの町で、行方不明者が続出しているのだという。
しかもその多くは、女子供らしい。
当然領主は騎士団を動員して事件の解決を試みたが、なかなか良い結果は出なかった。
容疑者すらも、絞り込むことができなかったらしい。
そんな時に、町が見つかったという。
以前から町に行商へ来る者がいたらしいが、彼らが何処から来るのか、長らく謎だった。
町の住人達は、てっきりと隣町から来ているのだと思っていたが、中にはその行商人が北の方から来て北に帰るのを見たという者もいた。
しかしこのサンバートルよりも北は未開拓の地で、町などあるはずもない。
そんな目撃情報も、何かの間違いだと思われていたそうだ。
ところが最近になって、北の方から来て、クラサンドの方面への馬車に乗る者や、クラサンドの方面から来て、北に消えていく者の目撃情報が急激に増えたという。
それを疑問に感じたとある冒険者が北の地を探索し、その結果町を発見したのだとか。
それもただの町ではない。
ゴブリン達が住んでいる町だった。
中には人間や亜人もいて、彼らはゴブリン達に隷属を強いられているのではないかと、その冒険者は思ったらしい。
それを聞いたサンバートルの住人は、行方不明者はゴブリンに攫われたのだ──と、確信したのだそうな。
「そのゴブリン達が、誘拐の犯人だという証拠はあるのですか?」
「それは……無いのですが、まあゴブリンですので……」
うん、疑われるよなぁ……。
過去にはキエルだって攫われたことがある。
そしてその時のゴブリンと、今回見つかった町のゴブリンは同じ存在だろう。
……たぶん私の部下だった連中だ。
一応、人間に関わるなって命じていたような気がするので、誘拐はしていないと思うんだけどなぁ……。
でも、あれから10年以上も経っているから、律儀に言いつけを守っているのかは、ちょっと自信が無い……。
で、住民のゴブリン討伐を望む嘆願が殺到し、領主が領軍を動かしてゴブリンの討伐に向かったのが現在の状況だという。
そして住民の中から結構な人数が徴兵されて、その討伐軍に参加しているらしい。
だから町の人口が一時的に減って、寂れた印象になっていたんだな……。
「つまり……女王の私に許可も無く、戦争行為を始めようってことなの、ここの領主は?」
まあ、そういうことになる。
だから家令も最初は言葉を濁したのだろう。
これで最小限の被害でゴブリンの討伐を成功させたのならば、大した問題ではないのだが、大きな損害を出した場合は、領主の責任問題になるからね……。
次回はなるべく明後日に。




