13 夏休みと墓参り
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エリです。
本格的な夏になり、学園は長期の休みに入りました。
何故休みになるのか、その理由はよく分からないけれどね……。
農家ならば野菜の収穫などで忙しくなる時期だから……となるけれど、学園に通っている貴族の子供や従者には関係ないし……。
暑くて学習の効率が落ちるから……とか?
とにかく私達は夏休みに入る訳だけど、例外もいる。
「カナウは補習ですね」
「なんでだっ!?」
姫様による通告に、驚愕するカナウ先輩。
なんでもなにも、授業中に寝ていたからでしょ……。
学期末のテストに対して何か秘策があってやっているのかと思ったけど、普通に無策だった……。
ちなみに成績については、姫様がほぼ満点で、私が平均点……って感じだ。
そしてカナウ先輩は、実技以外はほぼ0点だったらしい。
それはいくらなんでも、駄目過ぎるだろう……。
そんな訳でカナウ先輩は、夏休み中も学園に通うことになった。
その間は姫様のご実家に住み込むらしい。
普段はダンジョンから城へ通っているグラス様のついでに、転移魔法で運んでもらっているカナウ先輩だが、今回はそうもいかない。
夏の1番暑い時期の10日間ほど、避暑と称して姫様の一家が旅行に出掛けるからだ。
当然女王陛下も一緒だが、その陛下が留守中に城を預かるのがクリス王太后陛下と、その専属メイドのグラス様となる。
この時ばかりはグラス様もダンジョンには帰還せず、王太后陛下につきっきりでフォローするらしい。
「まあ、お母様に国政は無理だから、実務はグラスが取り仕切るのでしょうけどね」
と、女王様は言っていた。
この国のメイドの地位って、なんだかおかしくない……?
グラス様は勿論、メイド長は姫様の実母で、女王陛下のパートナーでもあるらしいし……。
この国はメイドによって、動かされていると言ってもいいのかもしれない。
そんなメイドを、私なんかがやっていて本当にいいのだろうか……?
それはともかく、旅行には私も姫様の従者として随行することになる。
他の参加者は姫様と女王陛下、メイド長と姫様の妹のアリタ様、姫様のご実家のメイドであるケシィーさんと、何故か姫様が妹扱いしている謎のキツネのリゼだ。
このキツネは脳に直接言葉を届けてくるという意味不明の存在だけど、まあ姫様やメイド長自体が謎の存在なので、今更気にしないことにしている。
実際、彼女達の能力が凄すぎる為、本来は女王陛下が城を出る時に必要な護衛が1人もいないし……。
そんな私達が訪れたのは、王国の北側にある開拓地、サンバートルの町だ。
徒歩なら数ヶ月はかかるという道程も、メイド長の転移魔法なら一瞬で到着できる。
しかしその転移場所が墓場って、どういうことなの!?
私が混乱している間に、姫様とメイド長がとある小さなお墓の前まで進む。
その墓石に名前は刻まれておらず、身寄りの無かった平民が葬られているようだった。
遺体を放置したら色々と問題があるので、行政が仕方が無く最低限の予算を使って葬ったというところだろう。
そのお墓にメイド長が、浄化の魔法をかけた。
一瞬で墓石が綺麗になるけれど、やはり小さなお墓であることには変わりなく、王族が気にかけるようなものにはとても見えない。
それでも姫様とメイド長は黙祷をし、そのお墓の下に眠っている人のことを真剣に悼んでいるようだった。
実際に姫様は、鼻をすするような音を出してさえいる。
あの姫様が泣いている!?
……これはもしかして、姫様のご家族がこのお墓に葬られているのだろうか……?
メイド長が実母だと言うから、まだ姿を見たことがないお父上とか……?
でもさすがに、直接聞きにくいことだな……。
あ、意味が分かっているのかは知らないけれど、アリタちゃんやリゼも黙祷している。
そして、女王様も。
これは私もしておこう。
だけどここには誰が眠っているのか分からないので、もう亡くなってしまった私の両親の為に黙祷しようかな……。
そういえば山賊に襲われた両親には、お墓すらも無いんだよね……。
もしかしたら今もあの襲撃された場所の付近に、遺体が放置されているのかもしれない。
そう思うと私まで泣けてきた……。
「なにを泣いているのです、あなたは……」
「はっ!?」
姫様に声をかけられて、結構な時間が経過していたことを私は知った。
つい両親との思い出に、浸りすぎていたようだ。
一方で、さっきまで泣いていたはずの姫様は、ケロリとしている。
これではまるで、私だけが泣いていたようで恥ずかしいじゃないですか……。
その後は町に行くことになったけど、今晩はメイド長が数年前に建てた別荘に泊まるそうだ。
メイド長の転移ならば一瞬で移動できるけど、その別荘までは徒歩で行くことになった。
なんでも転移で移動しては味気ないし、観光にもならないから……だそうな。
まあ、旅行の為の荷物も、メイド長の空間収納にしまっているおかげで手ぶらだし、徒歩でもさほど苦にならないのも事実だ。
それにしてもサンバートルの町は、国の最北の土地ということもあってか、文明レベルが王都から何年も遅れているように見える。
まさに田舎って感じだ。
だけどそれを差し引いても──、
「なんだか、前に来た時よりも活気が無いわよね?」
「そうですね……」
女王様とメイド長がそんなことを話していた。
ああ、やっぱりそうなんだ……。
妙に町が寂れているような、印象があったんだよね。
しかし国全体の経済は、女王様の政策の成功によって上向いているはずだし、本来ならばこの町だって、好景気になっていてもおかしくない。
それにこういう開拓地では、解放された元奴隷の人達が多く入植しているらしいから、人口だって大幅に増えていてだろう。
それなのに、町には人影も疎らだった。
「これは調べて見る必要がありそうですね……」
「詳しい事情を知っていそうな者というと……領主じゃないかしら?」
女王様の言葉に、何故か姫様は物凄く嫌そうな顔をした。
「なんて顔をしているのよ、あなた……」
「いえ、別の人間に領主の後任に就いているのは分かっているのですが、ここの領主には嫌な思い出しかないのです……」
さっきのお墓のことといい、このサンバートルの地で、姫様に一体何があったのだろうか……。
私はそれを知りたいとは思ったけど、それは姫様にとって触れられたくない部分であるような気がして、何も聞けなかった。
次回はなるべく明後日。




