プロローグ 異変は北から来る
今日から第2章の開始となります。一応ストックがある半分くらいの所までは、毎日更新する予定です。
あと、ブックマークや☆での評価をありがとうございました。
最近、北の森の様子が変だ──と、人々は噂をしていた。
なにやら、今まで見たことが無いような動物や魔物を、よく見かけるようになったのだ──と。
人間による開拓が進み、その結果生態系が大幅に変わってしまった──という可能性は、有り得ない話ではないが、この地域はまだまだ田舎で、生態系を大きく崩すほど人間の手が森に入ったようには見えなかった。
だからある者は危惧していた。
北の方からとんでもない化け物が南下していて、それに追い立てられた動物や魔物も南下してきているのではないか──ということを。
しかしだからといって、まだ具体的な被害も無いのに国家へと泣きつく訳にはいかないし、そもそも取り合ってもくれないだろう。
結局は、不安ならば何処かへ避難するなり、武力を蓄えるなり、自衛するしかない。
あるいは、ただの杞憂だと思い込んで、今まで通りの生活を続けるしかなかった。
その冒険者の少女も同じく、不穏な噂を知ってはいたが、噂は噂でしかないと、いつも通り森に出掛けた。
彼女はまだ駆け出しで、薬草や山菜を採取したり、動物を狩ったりすることくらいしか仕事が無い。
冒険者と言えば聞こえはいいが、その実態は何でも屋であり、その収入は微々たるものだった。
しかも蓄えもロクに無く、活動を自粛しようものなら、すぐに生活に困ることになるという有様だったのだ。
まあ、冒険者の中には、時として魔物と戦うような華々しい活躍をする者もいるにはいるが、それも事件が発生した時の話で、こんなダンジョンも近くに無いような田舎では、普段は地味な仕事しか無いのである。
勿論、実力者ならば各地から依頼が舞い込み、常に最前線で活躍する場合もあるが、新人で実力も身についていない者は、そんな活躍とはほど遠い。
それでも立身出世を夢見て、冒険者の道を選ぶ者も少なくはないが、その多くは将来何をやりたいのか、その目標が漠然としているからこその冒険者という選択でもある。
何をやりたいのか分からないので、取りあえず何でもやる冒険者を選んで、あわよくば一部の成功者のようになりたい──そんなところだ。
そんな訳で一般の者達から見れば、冒険者はあまり褒められた職業ではないのだが、冒険者を始める為には、特別な才能や資格も必要無い為(勿論、ある方が生存率などには影響するが)、この少女も冒険者という道を選択していた。
まだ将来何をしたいのか、それが定まっていない少女だったが、これから激動の人生を生き、そしてその末に見つけた目標が、どんな結果をもたらすのか──当然ながら、本人は全く予想すらしていない。
だがその始まりの一歩は、この森で起きたとある事件であることは間違い無いだろう。
それは幸か不幸か、少女の人生を大きく狂わせることになったが、彼女の視点からは何が起こっていたのか、その全容を知ることはできなかった。
その全容を知る者は、北から訪れた人外であって、人外では無い存在だった。
プロローグだったので、ちょっと短めでした。