1 転生前の説明会
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時間は戻って、たぶん私が死んだ直後──なのかはよく分からないが、それまで眠っているかのように朧げだった意識が明確になった時、私は何も無い空間にいた。
周囲は真っ白で、まるで霧に包まれているかのような錯覚に陥るが、単純に視界に映る範囲には何の物体も存在しないから、そう感じるだけなのかもしれない。
おそらく無限に広がっているその空間に、何も存在しない──現実には決して有り得ない光景だった。
下手をすれば、宇宙空間の方がまだ物があるだろう。
たとえば隕石とか。
ただ、何も無い空間にも、1つだけ例外があった。
私の目の前に、女性の姿があったのだ。
しかし、脳が認識する事を拒否しているのか、なぜかその姿の細部は、見たそばから記憶が薄れていく。
でも、不思議と懐かしさも感じる。
これは漫画などでもよく見る、「認識阻害」の魔法なのか?
それとも、視覚に含まれる情報量が多すぎて、脳が処理しきれないのだろうか。
アレっ?
今の私って、脳どころか肉体そのものが無いのでは?
自分の身体を見ようとしても、できないし……。
じゃあ、どうやって見たり考えたりしているのだろう?
今まで肉体の機能に依存していると思っていた思考や五感は、実は魂で行われていた……?
なるほど、よく分からん。
分からないことだらけだ。
それでも、このシチュエーションには心当たりがある。
おそらく彼女は女神か何かで、私の魂がこれからどうなるのか、その説明してくれる案内人の役割を持っているのだろう。
「あなたは……ア●ア様?」
「誰が駄女神よっ!?」
私のボケに、しっかりとツッコんでくれるとは、いい人だ……。
でも、何故あのキャラを知っているのか……。
まさか本当に、全知の存在だとでもいうのだろうか。
そんな私の心を見透かしたかのように、女神は一瞬ドヤ顔をしたような気がした。
「迷える魂よ、私はあなたを導く為に降臨せし女神です。
あなたはこれから、天国で暫し魂を休めるか、それとも転生するか、その選択をしてもらいます」
よし来たっ!
これは私が生前から待ちに待った展開だ。
「それはっ、異世界転生ですかっ!?」
「ええ、転生は基本的に異世界になります」
「へぇ……元の世界に転生することは無いのですか?」
「はい。野菜だって、同じ畑で育てていたら、連作障害を起こすでしょ?
それと同じようなものです」
「お……おう……」
この女神、人の魂を野菜と同列に語ったぞ。
え……つまりそういうことなの?
いつか収穫されちゃうの、私達の魂は?
まあ、輪廻転生自体が廃品のリサイクルみたいな物だし、私達の命もなんらかのエネルギーとして運用されている印象はあるな……。
そんなことを考えていると、女神は、
「うふふふふ……」
妙に迫力のある笑顔を作った。
あ、これ深入りしたらあかんやつだ。
そして、やっぱり心も読まれている……。
ここは話を進めた方が良さそうだ。
「あの……その異世界って、剣と魔法の世界なんですか?」
「まあ、そうですね」
よし、これなら無双が出来る可能性もあるな。
だが、特殊な能力の付与──いわゆる転生特典があるかどうかでも、状況は大きく変わってくる。
いや、そもそも──。
「人格の……記憶の持ち越しはできるのでしょうか?」
「普通は前世を全て忘れますが、忘れまいと強く念じていれば、前世の記憶を残すことは可能です。
まあ、あなたの精神力でそれが可能なのかどうかは、別の話ですがね」
うむぅ……そんな簡単な話ではないようだ。
「あと、あなたのように、前世で世界に対してそれなりに貢献した魂には、転生特典はありますが、どんな能力が付与されるのかはランダムですよ。
あなたにとって、ハズレだと感じる物が付与される場合もありますが、それを活かすも殺すもあなた次第です」
う~ん……なかなか都合良くはいかないか。
でも、女の子に転生して、百合百合できるなら、それだけでもいい。
「あの……私は転生を選びます。
それで、1つだけお願いがあるのですが……」
「ああ、ハイハイ。
チート能力が欲しいとか、私も一緒に来て欲しいとか言うのなら却下ですけど、性別を選択するくらいならばいいですよ。
女の子になりたいのですね?
まあ、美少女になれるかどうかは、あなたの努力次第ですけどね?」
「ハイ、ありがとうございますっ!」
思ったよりもいい女神で助かった。
あとは、なんとか記憶を保持して転生できれば……!
私は強く、記憶が残るように祈る。
「それでは、転生を始めます。
私はいつもあなたの新たな生を見守っていますから……。
精々愉しませてくださいね?」
え……?
なんか不穏なことを言わなかったか、この女神?
しかし私は、急速に何処かへ流されるような感覚を抱いて、それどころではなくなった。
たぶん、異世界への移動が始まったのだ
「う、わあああーっ!?」
暗い穴の中に吸い込まれていくような感覚──。
その激しい流れの中で、私は自己がバラバラにならないように耐えるだけで精一杯だった。
……あとにして思うと、あの女神は邪神か何かなのではないかと思う。
あるいは、神という存在はみんな意地が悪いのかもしれないが、こんな仕打ちはあんまりだ……。
そう、転生した私は、キツネのような動物になっていた。
勿論、雌でした……。
次回更新の日時はまだ決めていないけど、遅くても3日以内には……。