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9 学園に行こう

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 僕は……いや、()はエリリーク・キルペスタ。

 メイドとしての修行を終えて、今日から本格的に王女レイチェル様お付きのメイドとして働くことになった。


 働く……とはいっても、私は姫様と一緒に学園に通い、そこで一緒に勉学を学びながら、姫様の学園生活をフォローするのが役目だ。

 ただし立場をハッキリさせる為に学園の制服を着ることはなく、メイド服のままで1日中過ごすことになる。

 メイドの仕事には慣れたけど、この服装にはまだ慣れないなぁ……。


「さあ、行きますよ。

 カナウ、エリ(・・)


 登校の準備が整ったので、これから姫様の転移魔法で、直接学園へと向かう。

 馬車などでの移動だと、登下校の時に襲撃を受ける危険性もあるけど、これならばその心配は無い。

 ただ、全面的に姫様の魔法に頼らなければならないので、お世話役としては少し情けなくも感じる。


 一応私も転移魔法を習ってはいるけど、まだまだ使える気がしない。

 それは先輩メイドのカナウさんもそうだ。


 カナウさんはダンジョン深部の凶悪な魔物を、簡単に倒してしまえるほどの実力がある。

 その強さは人間離れしていて、実際に人間ではなく別の存在だと感じる時もあるほどだ。

 まあ、普段は背が低くてふわふわの赤毛が特徴的な可愛らしい15~16才くらいの女の子だけど、その外見に似合わない実力を秘めている。

 

 そんなカナウさんですらも、転移魔法は使えない。

 やはり選ばれた天才のみが、可能な術なのだろう。


 ちなみにカナウさんは以前からの姫様お付きのメイドで、私は彼女の補助という立場だ。

 さすがに新人の私1人に、姫様を任せてくれるということはなかった。

 そもそも男の私には、着替えの手伝いなど、女性にしかできない仕事は禁じられているから、どうしても女性のメイドがもう1人必要になる。


 まあ、私も表向きは女性ということにはなっているし、メイドの間は「エリ」と女の子のような偽名を使っている。

 本当の性別は皆には秘密だけど、私が男だと聞いて信じる人はまずいないだろうから、あまり怪しまれるようなことはないと思う。

 うん、複雑な気分だ……。


「着きましたよ」


 私達は学園の中庭らしき場所へと転移した。

 転移場所は防犯上の理由から、日替わりらしい。

 それでも目ざとく姫様の姿を見つけて、挨拶してくる者もいた。

 さすがはこの国の姫様、注目度が高い。


「ごきげんよう、レイチェル様。

 見かけないメイドを、お連れですね?」


「ごきげんよう、アイリス様。

 新人のエリなのです。

 よろしくしてください」


「エリと申します。

 どうぞお見知りおきください」


 私は慌てて、カーテシーで挨拶する。


「あら、可愛らしい」


 そう言われて、私は思わず顔を赤らめた。

 

 その後も人に会う度に、同じようなやりとりを何度も繰り返すことになる。

 さすがは姫様、多くの生徒から(した)われているようだ。

 しかも挨拶をしてきた全員の名前を、しっかりと覚えているらしいのは凄いと思う。

 いや……姫様のメイドとして、私も人間関係は把握しておかないとな……。


 それから教室に辿り着くと、姫様は所定の席に着く。


「エリ、あなたは隣に座るのです」


「はい」


 私は姫様の隣に座る。

 最初に出会った頃はあまり近づかせてくれなかった姫様も、今は隣の席に座る程度のことは許してくれるようになった。

 

 ただ、距離は近づいても、心が近づいたとは言いがたい。

 姫様は私に対して必要最低限の指示を出すだけで、会話のようなことは(ほとん)どない。


 そして姫様を挟んで反対側に、カナウ先輩が座る。

 先輩は座るなり、


「あ~、姫さん、寝てもいい?」


 そんなことを言い出した。

 メイドとしては有り得ない態度だが、カナウ先輩は本当に必要な時以外は割とこんな感じだ。

 おそらく彼女の本当の仕事は、メイドではなく護衛なのだろう。

 だからなのか姫様は、彼女の態度を許容していた。


「好きにするのです」


 やはり姫様は、カナウ先輩の好きにさせるようだ。

 姫様は自分のことは自分でやるタイプなので、正直言って私達の補佐はあまりいらない。

 だからカナウ先輩が寝ていても、構わないということなのだろう。


 でもカナウ先輩、授業中に寝ていていいのかな?

 学期末には、テストがあるって聞いたけど……。

 私も途中からの編入なので、必死で皆様に追いつかないとな……。


 それにしても貴族の方々(かたがた)と一緒の場で学ぶというのは、不思議な気持ちだ。

 この王立クラリーゼ学園は、主に貴族の子供が通っている。

 でもメイド長(アリゼさん)の話では、女王は当初、貴族と一般の平民が一緒に学べる学園を作りたかったらしい。

 だけどまだまだ貴族と平民の間には、身分などの(へだ)たりが大きく、それは断念したという。


 ただし貴族の従者も一緒に学ばせる方向で、身分の違う者同士が学ぶ場の下地を作ったとのことだ。

 このことで家柄や血筋に関係なく、優秀な者が平民の中にもいるということを、周知させたいのだという。

 そういう意味では、私の双肩にかけられた重圧は大きいと言える。


 平民である私が実力を示していくことが、この国の一般人の立場に影響していくのだ。

 うん、頑張ろう。


 さて、学園での授業だけど、現時点では「なんだか難しいことをやっているな……」という感想しかない。

 しかしこれは、姫様のご実家の隣にある学院で、孤児達も同じことを学んでいるという。

 確かあそこには、私よりも年下の子供達が多くいたので、その子達ができるのなら、私にもできるはずだ。

 ……はずだけど、コツを掴むまでには、時間はかかりそうな気がする。


 次は実技の授業では、いいところを見せないとなぁ。

 実技ならばダンジョンで鍛えられたから、座学よりはマシだ……と思う。

 半日以上寝て過ごしているので、色々と捗らない……。

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