閑話 深入りしてはいけない場所
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退院したので、今日から更新再開です。
俺の名はドラグナ。
クラサンドの町で、唯一のSランク冒険者──だったのは一昔前で、今はキエルとマルガという同ランクの者達がいる
まあ、現在の彼女達は冒険者が本業とは言いがたいので、未だにこの町の冒険者では俺がトップだといえる。
ただ、実力不足は痛感している。
昔見たレイという娘の実力から比べれば、俺は子供のようなもの……いや蟻以下だな。
あんな人外とも言えるような存在と、普通の人間を比べるべきではないのかもしれないが、自信を喪失してしまう……。
それでも俺はクランの仲間達とダンジョンの攻略をこつこつと進め、ついに70階層を突破した。
しかしそこから下の階層の難易度は、恐ろしく高い。
俺の鑑定スキルで見ると、一目で勝つことが困難だと分かるような能力の魔物がうようよしている。
この魔物達を突破して最下層への階段を守る守護者さえも倒したという、レイが率いる3姉妹というパーティーの凄まじさが、改めて実感できた。
だが、その最下層も手の届くところまで、ようやく来た。
このまま順調に、進めばいいのだがな……。
ところが、そうはならなかった。
「……止まれ!」
我々が進む通路の先に、巨大な魔物が倒れ伏していた。
鑑定の結果、既に死亡している。
種類は下位の竜種だろう。
下位とはいえ、竜種は我々が倒すのは困難なほどの超生物だ。
ステータスを見ただけでも、目眩がする……!
その竜種が、身体を引き裂かれて死んでいるのだ。
「今すぐ引き返すぞ……っ!!」
俺はすぐ様、そう決断する。
しかし若いクランメンバーは、それに異議を唱える。
「何でですか!?
竜種の素材が、目の前にあるんですよ?
これがあれば、10年は遊んで暮らせるだけの儲けになる……!」
確かに竜種の素材を持ち帰れば、一財産になるだろう。
しかし──、
「馬鹿野郎!
この竜種は、明らかに外敵によって殺されている。
しかもダンジョンでは、生物の死骸は1時間足らずで床に吸収される。
つまりこの死骸はまだ新しくて、こいつを殺した者がまだ近くにいるってことだっ!
そんな奴と遭遇したいのか、お前はっ!?」
「……っ!!」
俺の言葉で、異論は消えた。
今が全滅の危機だということが、理解できたのだろう。
俺達は、慌てて撤退を始めた。
だが、全ては遅かった。
いや、そもそもこの階層には、足を踏み入れるべきではなかったのかもしれない。
そいつは俺達が進む通路の先の、曲がり角から現れた。
まるで散歩をしているかのような、軽い足取りで──。
「え……キツネ?」
「でも、赤いな……。
しかも尻尾が2本あるぞ?」
「魔物……なのか?
こんな弱そうなのが、こんなダンジョンの下層に……?」
仲間達は困惑していた。
だが、油断しすぎだろ!
外見に惑わされて、その真の恐ろしさを全く理解していない。
俺は鑑定で能力を視て、後悔するほどの化け物なのに……っ!!
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●リゼ・キンガリー 5才 雌 天狐族
生命力 211319
魔 力 296542
攻 撃 47893
防 御 35127
体 力 128947
信 仰 108
精 神 96667
速 度 20816
器 用 4891
運 6754
●所持スキル
狩り術LV7 万能感知LV7 毒魔法LV5 万能耐性LV4
遠吠えLV6 酸生成LV5 風魔法LV5 飛翔LV3
身体強化LV7 魔力増幅LV8 自動回復LV8
立体機動LV4 蜘蛛糸LV8 水魔法LV6
土魔法LV5 変形LV1 石化LV2 水中生存LV2
思考加速LV5 威嚇LV4 隠密LV9 予見LV3
雷撃LV6 擬態LV4 植物操作LV4 操影LV3
大食LV7 邪眼LV3 掘削LV4 生物使役LV5
気操作LV6 防御強化LV7 熱線LV5 狐火LV8
天候予知LV7 霊視LV5 魅了LV9 性技LV1
言語理解LV10 歌唱LV2 毛繕いLV7 空間収納LV5
回復魔法LV4 空間転移LV8 結界LV7 浄化LV6
精神魔法LV3 オートマッピングLV8 探索LV7
死霊魔術LV1 緊縛LV2 幻術LV9 念話LV9
蟲使いLV4 オーラ感知LV3
●称 号
超越者の娘 竜を屠りし者 炎の支配者 幻影の奏者
天性の狩人 神獣の幼体
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あの竜種を殺したのは、こいつだ……!!
絶対に敵対したら、駄目な相手だ……っ!!
「お、お前達……!
下手に刺激するなよ……。
こいつには、絶対に勝てない……!!」
そう、絶対に勝てない。
あのレイという娘ほどではないが、上位竜すらもはるかに上回るであろうステータスだ。
まるで悪夢だ……。
幸いこのリゼというキツネからは、敵意のようなものは感じないが……。
ただ、何故か不思議そうな顔をして、こちらを見つめている。
名前が「キンガリー」と、この地域を治める領主の家名と同じだから、間違い無く人間側との接点があるはずだし、全く知性の無い魔物ではないはずだ。
実際「言語理解」というスキルも持っているし、話し合いで戦闘を回避することも可能なのでは──
『ああ、なんか見覚えがあると思ったら、ドラグナかぁ!』
「「「「「!?」」」」」
突然声が、頭の中に直接響く。
「念話」の能力か……!!
しかし、何故俺の名を……?
いや、あのスキル構成は、レイという娘のものに似ている。
もしかして、あいつの関係者なのか……?
そうだとしても、どう対応すればいいんだ、これ……?
そんな混乱して動けない俺達だったが、事態は唐突に動く。
その時、キツネが出てきた通路の奥から、何者かが走ってくる靴音が聞こえてきた。
「リゼ様、見つけた!
勝手に何処かへ行ったら駄目だと、言いましたよね!?」
「「「は?」」」
「あ、人がいたのか」
何故かこのダンジョンの奥底で、酷く焦った様子のメイドが現れた。
しかもそのメイドを鑑定した結果は、キツネよりも驚愕するようなものだった。
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●グラス 42才 女 半魔族
生命力 118643
魔 力 143287
攻 撃 36918
防 御 49612
体 力 28654
精 神 18761
信 仰 23478
速 度 37897
器 用 67755
運 666
●所持スキル
万能耐性LV5 魔力増幅LV9 宮廷作法LV7 交渉LV6
風魔法LV10 水魔法LV10 炎魔法LV10 土魔法LV10
気配察知LV8 隠密LV7 身体強化LV6 防御強化LV5
恐怖耐性LV8 自動回復LV9 回復魔法LV3 剣術LV8
魅了LV5 空間転移LV8 空間収納LV6 熱線LV4
結界LV6 性技LV5 政治・経済LV8 浄化LV8
生物使役LV9 メイドLV10
●称 号
ローラント王国元国王 高潔なる血筋 TSメイド
追い落とされし狂王 魔剣の呪いを受けし者
王太后専属メイド ダンジョンマスター
雌堕ち王 超越者の従者
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ヤバイっ!!
強さはあのキツネほどではないが、それでもその能力は上位竜を上回るだろう。
しかしそれ以上に問題なのは、なにやら知ってはいけない情報の山だということだ。
まさか目の前のメイドが、前国王とか……!!
こんなの、国家機密じゃないか!!
これを外部に漏らそうとしたら、確実に命を狙われるのではないか!?
ひょっとしたらその姿をこの場で目撃しただけでも、拙いかもしれない。
口封じに消されるということも、有り得る──!?
だが幸いメイドは、キツネを抱え上げると、
「……お騒がせいたしました」
と、言い残して、その場からかき消えた。
転移魔法か……!
「な……なんだったんだ……?」
皆は訳が分からずに呆然としているが、俺は生きた心地がしなかった。
そしておそらくこれ以上ダンジョンの攻略を進めると、再びあの存在に遭遇する──そんな確信がある。
なにせあのメイドの称号の中には、「ダンジョンマスター」があったのだ。
つまり最深部でこのダンジョンを管理しているのは、間違いなくあのメイドなのだから──。
だから俺は、もうこれ以上下層には行きたくない。
もっと恐ろしい物を見る前に、冒険者の引退を真剣に検討しよう──と、思った。
入院中にストックを増やせなかったので、次回はちょっと遅れる可能性もあります。まだ身体は本調子ではないし、通院もあるので、なかなか執筆に集中できませんねぇ……。