8 驚愕のお宅訪問
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私はキエル・グランジ。
王都にあるレイちゃんの家に来たけど、怒涛のような展開続きで、頭がついていけないよ……。
まず、レイちゃんが2人になっていた。
今のアリゼと呼ばれている方が、私達と冒険していた本人らしいけれど、その頃のレイちゃんとそっくりなもう1人もいる。
こちらは娘だけど記憶も共有しているらしいから、こちらも「レイちゃん」だと言っても差し支えないらしい。
「うう……ややこしいから、大きい方はアリゼさんって呼んだ方がいいのかな……?」
「ええ、まあそうですね。
こちらではその名前で通っていますから。
でも、今まで通りに呼んでくれても構いませんよ。
レイチェルの方は、人前で呼ぶのは拙いので、あまり使う機会は無いかもしれませんから……」
「ああ、そっか……」
まさかの女王様の養女で、今や王女様だもんね。
その王女様に「レイちゃん」って呼びかけているのを人に見られたら、「不敬」だって言われるか……。
でもそうなると、王女様の方をどう呼ぶのか悩むね……。
それにあのレイちゃんが、母親になっているというのも驚きだ。
あの小さかったレイちゃんがだよ?
でも王女様との関係を見ると、ちゃんと母親としての言動をしていることが分かる。
彼女が一人前の親として育つほどに、この10年あまりの時間が長かったのだということを実感させられた。
そして更に驚いたことは、エリリーク君が王女様の下で働きたいと言い出したことだ。
どうやら彼女に一目惚れしたらしいけど、だからと言って、彼にこれだけの行動力があるとは思っていなかった。
恋は人を変えるなぁ……。
だけど男の子なのにメイドにされるなんて、訳が分からないよ。
エリリーク君が「女の子になる」と言い出した時、レイちゃんは半分面白がっていたけど、もう半分は怒っていたと思う。
だからこそ、「メイドにする」なんて無茶を言い出したのだろう。
私にはよく分からないけれど、覚悟もなしに軽々しくあんなことを言い出したエリリーク君の浅はかさが、レイちゃんの何か深い部分に触れたのかもしれない。
だからなのか、レイちゃんは更にとんでもないことを言い出した。
「エリリーク君にはメイドの研修として、ダンジョンに半月ほど行ってもらいたいと思います。
あそこには私の配下のメイドが沢山いますので、そこでしっかりとメイドの技術を学んでもらいましょう」
「え……?」
困惑するエリリーク君。
私も同じだ。
「どういうことにゃ?」
「前に話しましたよね?
ダンジョンの最下層に、魔族の居住区があったということを。
あそこの温泉を、私達がよく利用しているのですよ。
そこの管理をするメイド達が、住み込みで働いています」
ええぇ……ダンジョンの最下層を私的に使っているの?
確かにダンジョンの深部なら誰も来ないから、勝手に使っても問題はないのだろうけれど……。
「大丈夫?
魔族が帰ってくるなんてことはないの?」
「はい、その為に常駐させているメイド達の戦闘力は、Sランク以上はあるので大丈夫ですよ。
エリリーク君にもレイチェルの護衛ができるように、一通り戦闘技術も学んでもらいます」
「え……」
更に困惑するエリリーク君。
自業自得とは言え、これはご愁傷様だね……。
私達もダンジョンでレイちゃんに鍛えられたけど、あれは厳しかった……。
それにエリリーク君は、王女様のお世話という単純なことだけではなく、男嫌いを治すという凄く面倒臭いことまで押しつけられているんだし、これから大変だと思うよ。
というか、王女様に護衛っているのかな……?
あの冒険者当時のレイちゃんと実力が同じなら、この世で彼女に勝てる人間って、それこそレイちゃん本人しかいないような気がする……。
そもそもSランク相当の実力を持つメイドが、沢山いるというのもおかしな話だけどね……。
その後、今のレイちゃんには、他にも家族がいることを知らされた。
スキルによって生まれた娘達で、父親は存在しないらしい。
その事実だけでも理解不能なんだけど──、
「次女のアリゼナータと、三女のリゼです。
これでも双子なんですよ。
この子達も記憶の共有があるので、お二人のことは知っています」
「あ、キエルとマルガだ。
おひさ~。
アリタって呼んでね」
『わーい、キエルとマルガだーっ!!』
もっと理解不能なのが現れた。
今のレイちゃんを小さくしたような子は分かる。
明らかに娘なのだろう。
でもキツネってなんなの……!?
というか、脳内に直接声が……!?
「……あっ、そういえばレイちゃん、人間じゃなかった頃があるって言っていたよね?
この子は、その時の姿なの?」
「ええ、その時はもっと小さくて、生後数ヶ月で身体を取り替えざるを得ませんでしたけどね。
アリタの方は、この王都に来た時に手に入れた身体の元の持ち主で、今もその身体を使っています。
この子達は前世を寿命まで全うできなかったので、こうして私の娘として今世を生きてもらうことにしました」
「そ……そうなんだ……」
一体レイちゃんは、どんな人生を送ってきたというのか……。
これは理解しようとする方が、無謀なのかもしれないね……。
しかし私が驚かされるのは、これからだった。
「うにゃああああああああ~っ!
これっ、レイ姉よりも凄いかもぉぉぉぉぉ!」
マルガが毛繕いを受けて、喘いでいた。
私がしたって、あんなに気持ちよさそうにはしてくれない。
ハッキリ言って私は今、凄く嫉妬している。
だけど、文句を言うことはできない。
「ふふっ、アリゼに聞いていた通り、マルガって可愛いわねぇ」
と、マルガを弄んでいるのは、この国の女王──クラリス陛下だった。
まさか夜になって帰ってきたレイちゃんのパートナーが、女王様だなんて聞いてないよぉ~っ!!
ホント、レイちゃんってば、どんな人生を歩んできたのっ!?
「キエルもアリゼにとって姉妹のような存在なら、私にとっても姉妹だから、この家にいる間は、遠慮なんかいらないわよ」
「う、うん……いえ、はい」
遠慮するなと言われても、女王様を相手にそれは無理だよ……。
次回についてですが、さほど大したことではない理由で手術する為、3日ほど入院するのでちょっと先になります。早ければ来週の木曜……いや金曜かな? ともかく来週の後半になると思うので、気長にお持ちくださいませ。
なお、詳細は活動報告にて。手術理由はちょっと恥ずかしい……。