6 もうひとつの再会
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「ちょっと、お話いいですか?」
朝食を終えて食堂を出ようとしていたエリリークという男の娘に、私は話しかけた。
「え……な、なんでしょう……?」
エリリーク君は、小さな声で、おどおどとしながら答えた。
ああ、確かにこれは気が弱いなぁ……。
そしてなんだかいじめたくなる一方で、守りたくもなるような──そんな不思議な感覚がある。
うむぅ……この子、結構人を惑わす魔性かもしれん。
「初めまして、私はアリゼという、王都で孤児院と学校を運営している者です。
私はあなたに特別な才能があると見込んでいるのですが、王都に来て高度な教育を受けてみる気はありませんか?」
「え……僕が……?
で……でも…………」
エリリーク君は、戸惑っている。
くっ……その表情も可愛いなぁ!?
いちいち卑怯だわ、この子。
「なにも今すぐ決めなくてもいいのですよ。
でも、1度我が学院を見学しに来ませんか?
その時は、キエルさんとマルガも一緒なので、安心ですよ?」
そう、後日にキエルとマルガを、我が家へと招待しようと思っている。
その時にエリリーク君の学院見学も兼ねれば、無駄はないだろう。
「どうでしょう?」
「先生達が一緒……。
…………そ、そういうことなら、見学だけ……いいです」
エリリーク君は、かなり迷いながらも頷いた。
キエル達が一緒だから安心したというよりは、気が弱くて断り切れなかった……というようにも見える。
いずれにしても、引き抜きの第1段階は達成したので、早速次の段階に進む為の予定を立てることにしようか。
それから3日後、私はグラスを伴ってレイチェル孤児院へと訪れた。
これからキエルとマルガを我が家に招待する訳だが、彼女達がいなくなることで孤児院の業務が滞っては困るので、グラスはヘルプ要員である。
今やグラスは元国王とは思えないほど炊事洗濯料理なんでもござれの、スーパーメイドさんだ。
彼女に任せておけば問題は無いだろう。
そして私は、キエルとマルガ、それにエリリーク君を連れて、一気に王都の我が家へと転移した。
「うわ……転移魔法の感覚は久しぶり……。
もう王都に着いたの?」
「ええ、ここが我が家ですよ。
隣が学院ですね」
「おおー、うちの孤児院よりも立派にゃ!」
「さすが、レイちゃんだね……」
キエル達が感心していると、家の玄関の扉が開く。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
ケシィーが出迎えてくれた。
「ああ、ただいま。
うちの専属メイドのケシィーです。
こちらはキエルさんとマルガ、そして二人の生徒のエリリーク君です。
キエルさんとマルガは、私の姉妹みたいな存在ですよ」
「……それは、ようこそおいでになりました。
ご用の際は、遠慮無く私にお申し付けください」
「……よろしくにゃ」
ケシィーは恭しく礼をするが、一瞬マルガと視線がぶつかったのを、私は見逃さなかった。
たぶん獣人同士でどちらが上なのか、その序列を決める争いが起きかけたのだろうけど、ケシィーの方が大人の対応をして先に身を引いた感じだな。
私としてはどちらも家族なので、上下は無いと思うのだけど、ケシィーは自身のメイドとしての本分を優先した形なので、彼女のその矜持を否定することはできない。
それにしても犬と猫だと、やっぱり微妙に相性が悪いのかな……。
そうこうしている内に、家の中からもう1人が飛びだした。
「私、参上!
キエル! マルガ!
うわぁ~、久しぶりなのです!」
「レイちゃん!?」
「昔のレイ姉がいるにゃ!?」
レイチェルの姿を見て、驚愕するキエルとマルガ。
まあ、今のレイチェルの姿は、丁度3人で冒険していた頃の姿に近い状態に育っているからなぁ……。
2人にしてみれば、こっちの姿の方が見慣れているだろう。
「私の能力のことは、先日説明しましたよね?
彼女はその能力で、私から魂を分離させることで生まれた、娘のレイチェルです。
記憶も共有しているので、実質的にあのレイ・ヤナミア本人だと言ってもいいですよ」
「ええぇ……そんなことが有り得るのぉ?」
「つまりレイ姉が2人……訳が分からないにゃ……」
アリタとリゼを含めると、記憶を共有しているのは3人と1匹なんだよなぁ……。
ともかく、2人は混乱している。
まあ仕方がないね。
だが、驚くのはまだこれからだ。
「それに偶然だと思っていたけど、レイチェルって、王女様と同じ名前だよね……?
まさか……そんなことないよね?」
「いえ、本人なのですよ?
今の私は女王の養女、レイチェル・ドーラ・ローラントなのです」
「「ええ~っ!?」」
更に驚く、2人。
その顔が見たかった。
「じゃあレイちゃんって、未来の女王様の母親ってことなの!?」
「まあ、そうなりますね」
「凄いにゃ……!!」
現在も非公式に裏の女王だということは、黙っておこう。
それにこの後にはクラリスとの対面も残されているので、今からあまり驚いていたら、身体がもたないだろうしね……。
……ん?
そういえば、先程からエリリーク君は一言も発していないけど、この状況についていけず、完全に置き去りにされているのかな?
そう思って彼の方を見ると、エリリーク君はレイチェルの姿をチラチラと盗み見しながら、顔を真っ赤に染めていた。
えっ……レイチェルに一目惚れした?
だけど娘は嫁に出さないよ?
いやでも、これだけ可愛い男の娘が相手だと、ちょっと悩むな……。
次回は明後日の予定です。