4 懐かしい我が家へ
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リーザへの説教を終えた私は、ナウーリャ教団の本部を後にして、いよいよキエルが経営する孤児院へ向かうことにする。
「それでは今後も頻繁に様子を見に来ますので、しっかりやるのですよ?」
「はい……なのじゃ」
リーザの返事は、歯切れが悪かった。
これは今後も定期的に、彼女がサボっていないかチェックする必要があるな……。
だが、それだけでリーザが心を入れ替えてくれるのか分からないので、補佐を付けた方がいいのかもしれない……。
王都支部のキャロラインさんは結構有能なので、彼女を派遣することも考えようか。
それに彼女にはマッサージ術を仕込んであるので、それを餌にすればリーザに言うことを聞かせることも可能かもしれない。
麻薬で信者を支配していたかつての教団のやり口と似ているような気もするが、人体に害は無いから問題はない……はずだ。
それはさておき、孤児院へと向かう私の足取りは重かった。
やっぱり緊張するなぁ……。
二人は私の存在に、気付いてくれるのだろうか?
気付いてくれたとして、どんな反応をするのだろう?
そして私は、どのように対応すればいいのだろうか?
まだどうすればいいのか、決めかねていることは多い。
私は悩みつつ歩く。
するといつの間にか、孤児院の前に辿り着いていた。
かれこれ10年ぶりくらいの帰宅である。
「……レイチェル孤児院」
門に取り付けられた看板を見て、私は微笑む。
この孤児院には既にクラリスの名前で補助金を出しているので、ある程度の情報は当然把握している。
いくらキエルが経営しているとはいえ、実態がよく分からないところにはお金は出せないからね。
だからこの孤児院名についても以前から知っているけど、実際にこの看板を見るのは初めてだ。
おそらくキエルとマルガが、私を忘れないようにする為に付けた名前なのだろう。
そう思うと、ついにやけてしまう。
まあ、結果的に現王女の名前と被っているけど、あの娘ならむしろ公認するんじゃないかな?
ともかく私は、その看板に勇気づけられて、門をくぐった。
そして玄関に近づくと、勝手に扉が開く。
ああ、まだブラウニーがいるんだ。
どうやら彼女(?)は、私のことを覚えていてくれたらしい。
私の姿は変わってしまったけれど、妖精にはさほど関係の無いことなのかもしれない。
私は小さく「ただいま」と呟いてブラウニー挨拶し、今度は家の中に呼びかける。
「こんにちはー!」
すると、
「はーい」
と、聞き慣れたキエルの声が聞こえてきた。
もうこの時点でちょっと泣きそうになったが、ここは我慢だ。
直後、見慣れない女性が出てくる。
あれっ?
いや、違う。
キエルだ。
見違えるほど綺麗になったから、一瞬別人かと思った。
そんなキエルは修道服のような服を着ていたが、その巨乳は隠し切れていない。
私もかなり大きくなったつもりだったが、まだ勝てないとは……。
ふ~ん、エッチじゃん。
あ、マルガも出てきた。
以前よりも大人っぽくなったけど、まだまだ背が低いという印象だ。
そうそう、昔からこんな風に小さくて、可愛かったっけ。
今すぐモフりたい!
それから私達は自己紹介をしあったのだが、なにやらキエルとマルガの反応がおかしい。
……これ、私の正体がバレている?
でも何も言ってこないし、もう少し様子をみよう。
そんな訳で、そこから暫くの間は、孤児院の様子を普通に見学する。
さすがはキエルというか、この孤児院の運営は順調であることが察せられた。
それは子供達の、活き活きとした目を見れば分かる。
それを見て私は、思わず孤児院の運営について、キエルと熱く語り合ってしまった。
私達は離ればなれになっても、やっぱり志を同じくする仲間だ。
それを強く実感する。
その後、子供達が歓迎の歌を披露してくれるということで体育館へ向かったが、そこで聞かされた歌については完全に不意打ちだった。
まさかの「アン●ンマンのマーチ」!?
勿論、歌詞はこの世界の言語に変えられているので、全く同じ物ではないが、これは私にとって特効だったと言える。
懐かしい──というだけではない。
この歌を私がよく歌っていたということを、キエルとマルガが覚えていてくれていた──そしてこの歌を子供達に教えていたという、その事実が嬉しいのだ。
大切なものでなければ、子供に教える必要なんてないのだから。
「こ……こんなの、反則ですよぉ……」
こんなの絶対泣くじゃん!
分かった、私の負けだ。
私は正体を隠すのを諦めた。
もう余計なことを考えるのはやめて、素直に旧友との再会を喜ぼう。
私はキエルやマルガと抱き合いながら、ここ10年で1番泣いた。
なんだかんだで彼女達との生活は、楽しいことも悲しいことも色々とあったからなぁ……。
苦楽を共にした仲間との思い出が蘇ると、涙をこらえることなんてなんて無理だわ……。
その後私達は別室に移り、これまでのことを語り合った。
「うにゃぁぁぁ~、そこ、そこがいいにぁぁぁぁ。
やっぱりレイ姉のは、しゅごいにゃあぁぁぁぁ」
……語り合った?
私の膝の上で、マルガが嬌声をあげている。
早速マルガに毛繕いをせがまれて施しているので、彼女は語り合えるような状態ではないな……。
私はキエルと話ながらでも手を動かせるから、一応話の内容は頭に入っているが……。
「ちょっとレイちゃん、それじゃあ話に集中できないよ……」
キエルが不満を口にする。
「ああ……ごめんなさい。
つい懐かしくて、本気を出してしまいました……」
私は詫びるが……あれ?
キエルのオーラに……嫉妬の色が混じっている。
…………はは~ん。
「あなたのマルガは返しますね」
「ふにゃっ?」
と、私はマルガを抱え上げ、キエルの膝の上に載せた。
「なっ!? 違うよっ!!
違うからねっ!?」
キエルは慌てるが、今度はマルガが──、
「何が違うのかにゃ?」
と、不満げな表情でキエルを見上げる。
そりゃ、恋人に関係を否定されたら嫌だろうな。
「いや、そういう訳じゃ……!
その……あのっ……!!」
キエル、動揺しすぎ。
「ふふっ、あはははっ!
誤魔化さなくてもいいんですよ、キエルさん。
私には全て分かっていますから。
それに私の今の恋人も女性ですし、偏見はありませんよ」
「え……そうなんだ……って、そうなの!?」
「レイ姉も色々あったのかにゃ?」
「ええ、そうですね……。
私のパートナーには、今度会ってもらいましょう」
お互いに離ればなれになっていた時にあったことは、これから話し合っていけばいい。
これからはいつでも会えるのだから──。
私達の語らいは、深夜まで続いた。
次回は明後日の予定です。