3 冒険者の町の治療院
ブックマーク・☆での評価・誤字報告・感想をありがとうございました!
アリゼ、クラサンドの大地に立つ!
クラサンドの町に来るのは、実に久しぶりだ。
まあ、ダンジョンの方には頻繁に足を運んでいたが、町の方はキエル達に鉢合わせたら困るので避けていた。
そのクラサンドの町の郊外に、私達はいる。
少し歩けば、ダンジョンの入り口がある場所だ。
「さあ、私はお仕事をしてきますから、リゼはグラスの言うことをしっかり聞いて、良い子にしているのですよ?」
『は~い!』
娘達の中では、リゼだけがこの町に着いてきた。
レイチェルは学校だし、アリタは誘ったが家でゴロゴロしている方がいいそうだ。
将来引きこもりにならないよね……?
一方、着いてきたリゼもあまりじっとしていられるような性質ではないので、私がいない間はダンジョンで狩りの練習でもしてもらおうと思っている。
「それではグラス、リゼのことを頼みます」
「はっ、お任せください、アリゼ様」
一応ダンジョン最下層の居住区に顔を出したので、そこに住んでいる元国王のTSメイド・グラスや、他の魔物メイド達が見送りに出てきてくれた。
「では、行ってきます。
あなた達も、目立ってしまう前に帰るんですよ?」
「はっ」
クラサンドは冒険者の町だ。
メイドが皆無とは言わないが、そんなに多くいる訳でもない。
そのメイドの集団が町外れにいたら、目立って仕方がないからね。
実際、今も人の視線を多少浴びている。
しかもグラス達が転移魔法で消えたので、余計に目立っていた。
だけど徒歩でダンジョンに帰らせたら、もっと目立つからなぁ……。
「いきなりメイド達が消えた!?
あれって、たまにダンジョンから出てくる子達じゃなかったか……?」
誰かが言った。
おいおい、既に噂になっているじゃないか……。
私も変に注目される前に、この場を去ろう。
で、直接目的の孤児院に転移してもいいのだけど、折角久しぶりにこの町に来たのだから、歩いて行こうか。
まだ時間もあるし、ちょっとした観光気分だ。
それから少し歩くと、見知った建物が見えてきた。
ナウーリャ教団の本部である。
治療院や研究施設としての役割があるのでそこそこ大きな建物だが、無駄に金をかけることは禁止している為、前の本部神殿から比べれば十分の一以下のサイズである。
先に「久しぶりにこの町に来た」と言ったが、あれは嘘だ。
実はナウーリャ教団の聖女としてならば、何度か訪れてこの本部の建築に立ち会っている。
ただ、本格的に教団本部の機能が移転した後には来たことが無いので、今現在はどんな活動をしているのか、それはまだ確認していなかった。
現在は治療院としての活動をメインにしているはずだが、さて……みんなちゃんと働いているかな……?
「こんにちはー」
本部の中に入ると、そこには人気が無かった。
いや……待合室の受付カウンター前にある長椅子の上で、リーザが寝ているな……。
彼女は学院を卒業した後に教団へ教祖として戻ったはずだが、何やっているんだ、この駄エルフ?
信じて送り出した合法ロリハーフエルフ教祖が、仕事をさぼって居眠りをするようになるなんて……!
いくら形だけとはいえ、これが教祖の姿なのだろうか?
見た目が子供だからまだマシだが、アラサーに入ろうかという年齢を考えたら、だらしないことこの上ない。
私は眠っているリーザの顔面に、アイアンクローをかけて締め上げる。
「あだだだだだっ!?
何をするんじゃあっ!?」
「あなたこそ、何をしているのです?」
「げえっ!?
聖女様っ!!
いつおいでにっ!?」
目が覚めたリーザは、私の顔を見て慌ててひれ伏す。
「随分と暇そうですね?
どういうことなんです?」
「まだ午前中だし、冒険者はまだダンジョンから帰ってこないのじゃ。
怪我の治療を受ける者で混むのは、夕方からじゃよ……」
「ああ、なるほど……」
多くの冒険者は、朝早くにダンジョンへと向かい、夜に帰ってくることが多い。
まあ、ダンジョン内で泊まり込んだ場合は、深夜や早朝に帰ってくる場合もあるが、そんなに頻繁にあることではない。
確かに今の時間帯に、ダンジョンで怪我をした冒険者が訪れることは少ないだろう。
つまりここにリーザ以外の信者の姿が見えないのは、昨晩の遅くまで治療行為をしていた為、今は休んでいるというところだろうか?
確かに建物の奥の方で、何人かが眠っている気配は感じる。
他にもレンタル回復役として、冒険者に同行している信者もいるはずだから、人が少ないのも当然か。
で、リーザは回復魔法が使えないので、受付や雑用くらいしかできないから、この暇な時間帯の店番みたいな役目を任されているということかな?
「でも、研究とかやることは、他にも沢山ありますよね……?
なんであなたは暇そうなんです?
麻酔薬の研究は進んでいるのですか?」
教団では将来的に外科手術ができるようにと、麻酔薬の研究をさせている。
まあ、他にも様々な薬や食材の研究もさせているが、今急務なのは麻酔だ。
手術に使うのは勿論だが、もう助からない病人や怪我人の苦痛を和らげる為にも必要なので、はやく実用化したい。
「それはその……順調……なのじゃよ」
じゃあ、何故目を逸らす?
「大体、いくら暇な時間帯でも、他に人員がいないのもおかしいです。
研究員が働いていないですよね?
ちゃんと計画的にシフトを組んでいますか?」
「そ……それは……」
こいつ……適当にやっていたな?
私が睨むと、リーザは慌てて弁明を始める。
「研究は金食い虫なのじゃよ!
予算が足りなくなってきたから、今は利益になる治療院の方に力を入れておるのじゃ……!」
「その限られた予算の中でやりくりするのも、指導者としての素質ですよ?
それに研究は将来への投資です。
その研究の成果が、将来莫大な利益の元となることもあるのですから、疎かにしてはいけません」
「しかし、無い予算は無いのじゃ……」
「それなら言ってくれれば、補助金くらいは出しましたのに……」
「ほ、ほんとうかの!?」
私の言葉に、リーザの顔は明るくなった。
だが──、
「ただし、研究目的以外での使用は認めませんし、国が宗教団体と癒着していると思われるのは拙いので、私が裏から動かせる範囲での金額ですがね」
「そ、そうじゃの……」
私が条件を付けたら、リーザのテンションが急降下した。
こいつ……補助金を、私的流用しようとしていただろう……。
この娘って、基本的に駄目人間なんだよなぁ……。
リーザはなかなか才能の芽が出なくて腐っているというのもあるのだろうけれど、すぐ楽をしようとする傾向がある。
その辺はうちのアリタとも似ているので、シンクロしてお互いにもっと駄目になりそうだったから、彼女がクラサンドに引っ越してくれて本当に良かった……とは思う。
だがこのままでは、この娘は駄目になってしまうので、しっかりとお説教をしておこう。
「少しあなたの生活態度を、改めさせなければいけないようですね……!」
お花摘みは済ませたか?
女神様にお祈りは?
部屋の隅でガタガタ震えて、命乞いする心の準備はOK?
「ひいぃぃぃ……許して欲しいのじゃ……!!」
それから暫くの間、リーザのすすり泣きの声をBGMに、私はお説教を続けた。
次回は明後日の予定……だが、ストックが無いから間に合うか……。