2 成長した子供達
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アリタとリゼが生まれ、そしてレイチェルがクラリスの養女になってから約5年の月日が流れた。
国政の方では、当初女王の直轄地と、女王に賛同する領主の領地でしか行われていなかった減税政策も、増収という結果が出ると他の領地も追従した。
当然、後発組の旨味は少ないが、それでも減税によって余裕ができた庶民の経済活動は活発になっているので、全体的に見れば損にはなっていない。
結果的に国の経済は、上向きに転じている。
また、奴隷の解放も、順調に進んでいるようだ。
当初は奴隷解放政策に反抗的な者も多くいたが、今までは主人の資産という形でしか課税の対象にならなかった奴隷が解放されることによって、それぞれが経済活動を始めて納税するようになった為、税収が増えた。
これによって掌を返した貴族が続出したことで、解放反対派の勢力は弱体化している。
結局、奴隷を扱うことで利益を得ていた者達でも、別の形で利益を与えてやれば、考えを改めるのだ。
だが逆に、それでも折れない者は厄介で、彼らが持つのは損得抜きで思想に根付いた信仰に近いものだと言える。
たとえば、「獣人は奴隷にされるのが当然の、下等な存在だ」というような、強烈な差別意識などだ。
こればかりは時間をかけて、地道に変えて行くしかないのだろう。
他にも私の前世の技術も少しずつ普及してきているので、庶民の生活水準も上がってきているし、国の運営は安定期に入ったと言える。
一方、子育ても一段落した。
三女のリゼは、キツネとしてはすっかり大きくなり、最近では「念話」のスキルで会話することも可能になっている。
『ママ、ママ、ナデナデしてー』
と、今日も毛繕いをねだってくる。
リゼは私達の記憶を持っているはずだが、同い年だった頃のレイチェルほどの高い精神年齢があるようには感じない。
生まれ持ったキツネとしての性質なのか、自由奔放であまり物事を深く考えるタイプではないように見える。
勿論、物事の理屈については、言って聞かせればちゃんと理解してくれるので、見た目以上に知能が高いことは確かなのだが、それを活用しようという気持ちはさほど持っていないようだ。
だからなのか、今のところ人間になりたいという願望も無いらしく、むしろ今の気ままな生活の方が性に合っているようである。
そして既に成獣になっているはずの年齢になるリゼだが、外見上はまだ幼さを残している。
私から能力を受け継いだ為に寿命が延びているのか、それとも元々寿命が長い種族なのかはよく分からない。
それどころか──、
「リゼの尻尾、また立派になりましたね」
『えへへへ、でしょー!』
ドヤ顔のリゼ。
そんな彼女の尻尾は、二股に分かれていた。
……これ、絶対普通のキツネじゃないよね……?
どちらかというと、妖怪の類いの特徴では……?
最終的には、尻尾が9本になるやつだ、これ!?
傾国レベルの大妖怪じゃん。
育て方を間違えるとヤバいな……。
でも、キツネのママンの尻尾は、こんな風になっていなかったけどなぁ……。
年を経る毎に尻尾が増えるのだとしたら、ママンはリゼよりも年下の3~4才だったということなのかな?
その幼さで出産した結果、子供達が妹ちゃん以外全滅し、しかも自分自身も命を落とすって、野生の世界は厳しすぎる……。
「さて、そろそろアリタが学院から帰ってくる頃合いですから、オヤツの用意をしましょうか。
ケシィー、お願いします」
「かしこまりました」
『わーい!』
テンションが上がったリゼは、私の周りをぐるぐると走り回っていた。
自分の娘に対してなんだが、犬を思い出してしまうな……。
暫くしてから、学院の授業を終えた次女のアリタが帰ってきた。
「ただいま~」
『おかえり、お姉ちゃん!』
「おかえりなさい。
オヤツがあるから、手を洗ってきてね」
「了~」
アリタはますます私に似てきた。
ただ、雰囲気は私とは全く違う。
彼女には覇気が無く、のんびりとした性格をしているからだ。
だから学院での成績も凄く平凡だった。
本気を出せばもっといい成績を取れるはずだが、アリタ自身が「この程度でいい」と基準を定め、それ以上の努力をしようとしない。
マイペースと言えば聞こえはいいが、怠け者だとも言える。
まあ、1度死んだアリタだからこそ、この人生は好きなように生きてもらいたいと思うけれど、この性格は前世でいくら努力しても報われなかった経験が、関係しているような気がしてならない。
今度の人生では、何か達成感というものを得てもらいたいものだが……。
ただ今になって改めて、アリタをクラリスの養子にしなくて、本気で良かった……とは思う。
この子に王女は、絶対に向いていないだろ……。
私と出会ったばかりのクラリスよりも、駄目っぽい……。
そしてクラリスの養子となった長女のレイチェルだが、最近新設された貴族の子供達が通う学校に通うようになった。
そこで非凡な才能をいかんなく発揮し、高慢な貴族の子供達のプライドをポッキリとへし折っているらしい。
たぶん別のフラグも折っているが、未だに男嫌いなので本人的には問題は無いのだろう。
むしろ女生徒からの人気は高いと聞く。
結果的にレイチェルに服従を誓った者も多いらしく、将来の女王の側近候補が増えつつあるそうだ。
あの子、意外と苛烈な性格をしているし、ここまで王族向きだとは思っていなかったわ……。
その後、レイチェルやクラリスも帰宅した。
彼女達は自前で転移魔法を使えるので、何処からでも勝手に帰ってくる為、最近は迎えに行く必要もなくて楽だ。
そして全員揃ったら夕食を食べ、入浴をし、深夜はクラリスと『見せられないよ』な、いつもの日常が続いていく。
今の生活もかなり安定してきたし、そろそろ考えてもいいかもしれないなぁ……。
キエルとマルガの顔を、見に行くということを──。
次回は明後日の予定です。