閑話 お姉ちゃんとあたし
ブックマークありがとうございました。
なお、「私」以外の視点だと、パロとかの遊び要素がほぼ無くなります。
遠い昔──あたしがまだ小さな子ギツネだった頃──。
あたしには、お姉ちゃんがいた。
その当時、兄妹の中で1番弱かったあたしを、おねえちゃんは沢山助けてくれた。
お姉ちゃんがいなかったら、今頃あたしは生きていなかったと思う。
だからあたしにとってのお姉ちゃんは、第2のお母さんと言えるくらいの恩人だ。
そして今度はあたしが、お姉ちゃんを助けてやろうと思っていたんだ。
お姉ちゃんは優しいから、お兄ちゃんがいなくなった時は凄く落ち込んでいたし、狩りをするのもあまり好きではないみたいだった。
そんな頼りないところもあるお姉ちゃんだから、代わりにあたしが頑張って支える──そう思っていた矢先に、お姉ちゃんは突然死んでしまった。
全く訳が分からなかった。
狩りの練習でお姉ちゃんがネズミに噛みついた時、本来ならネズミが死ぬはずなのに、何故かお姉ちゃんの方が死んで、ネズミの方が復活するってどういうことなの?
そんな訳の分からない事態に、あたしは怒りと悲しみと恐怖と……とにかく色んな感情が交ざり合って混乱し、ただ吠えることしかできなかった。
その結果ネズミには逃げられてしまうし、更に最悪なことにあたしの吠え声を聞きつけたのか、突然グリフォンが現れて、お姉ちゃんの身体を連れ去ってしまった。
いきなりお姉ちゃんの全部が、あたしの目の前から無くなってしまったんだ。
でも、あたしには悲しんでいられる暇は無かった。
それからグリフォンは、お姉ちゃんの肉の味を覚えたのか、執拗にあたし達家族を追ってくるようになったからだ。
そいつから逃げる過程で、家族はみんなバラバラになってしまった。
もう誰が生きていて、誰が死んでいるのかさえ分からない。
いや、それから誰とも再会できなかったから、たぶん生き残っていたのは、あたしだけだったんだと思う。
あたしはあてもなく森の中を彷徨った。
その時のあたしは絶望していて、半分「もう死んでもいいかな」とか考えていたと思う。
独りでグリフォンから逃げながら、生きていけるとは思えなかったしね……。
そんな時、あたしはネズミを見つけて追いかけた。
お姉ちゃんの命を奪ったあのネズミなのかどうかは分からないけれど、最悪の状況の切っ掛けとなったネズミに、憎しみをぶつけるしかなかったのだ。
しかしそのネズミは、過去に見てきたどのネズミと比べても妙に手強く、逃げ切られそうにもなった。
でも、なんとか追い詰めた時、そのネズミは何故かカエルを襲い、その内臓を引きずり出していた。
まあ、その行為に集中していたネズミにトドメを刺すのは簡単だったけど、不思議なことにネズミを踏み潰したその瞬間、今にも死にそうになっていたカエルが復活したんだ。
訳が分からない現象だったけれど、これはお姉ちゃんが死んだ時と全く同じ現象だった。
だからあたしは思ったんだ。
このカエルは、お姉ちゃんと何か関係があるんじゃないかと。
実際、1度は水の中に逃げたカエルは再び顔を出して、あたしに語りかけるように鳴いていた。
あたしも吠え返して、そしたらカエルも答えてくれて……。
あの時は、意思の疎通ができたような気がしたんだ。
勿論、何を言っているのかは、全く分からなかったんだけどね……。
結局、そのカエルとは2度と会えなかったけど、それで終わりじゃなかった。
あの、死にかけていた存在がいきなり復活する現象に、また出会ったんだ。
憎きあのグリフォンがあたしに襲いかかってきた時、何故か見ず知らずのスライムが、まるであたしを守るかのように戦ってくれた。
そしてそのスライムが勝った時、死んだはずのグリフォンは復活し、逆にスライムは死んだ。
そしてそのグリフォンは、前とは全く違う存在になっていた。
凶暴な雰囲気は無くなり、それどころか涙を流して、悲しそうに泣いている。
それはお兄ちゃんがいなくなった時のお姉ちゃんに、そっくりだった。
だからあたしは、覚悟を決めてグリフォンの前に顔を出した。
そして予想通り、グリフォンはあたしに襲いかかってこなかった。
それどころか、あの時のカエルと同じような声で鳴いたんだ。
ここであたしは確信した。
どういう訳か、あのカエルがこのグリフォンに乗り移っているのだと。
そして、カエルの前のネズミには、お姉ちゃんが乗り移っていたのではないかと。
なにがどうなってそんなことになっているのかは分からないけれど、そうじゃないとスライムが私を助けてくれた理由が分からなかった。
「ビャン(お姉ちゃん)!」
私は必死でお姉ちゃんに話しかけるけど、伝わっているのか分からなかった。
実際にお姉ちゃんも、一方的にケロケロと語りかけてくるだけだ。
「ビャン(ねえ、お姉ちゃん)!
ビャン(また一緒に暮らそう)!」
そんな私の切なる想いは、たぶん伝わっていなかった。
お姉ちゃんは悲しそうな目をして、空に飛び立っていったから……。
……そうだよね、意思の疎通もままならない私達は、もう同じ世界には生きていけないのだろう。
ああ……またあたしは独りになっちゃったよ。
これからどうやって生きていけばいいのだろう……と、不安なことばかりだった。
でも、もう「死んでもいいかな」なんて思わない。
あたしは、またお姉ちゃんと会える──そう信じて、それだけを目的にして、生きていくことにした。
そんなことを考えていたら、何かが動く気配がした。
え──!?
その気配の方を見てみると、死んだはずのスライムの身体の一部か動いた。
あれ? 何か小さな塊が本体から分離していく……。
これは……スライムの赤ちゃん?
……あとで本人に聞いたんだけど、スライムは体内に分身を生み出して、いざという時には、その分身が生き延びることで、完全な死を免れることがあるのだという。
まあ、お姉ちゃんは、意図して分身を用意していた訳ではないようだけどね。
どうやらたまたま吸収したスライムの中に分身が残っていて、それがお姉ちゃんの分身として密かに育っていたらしい。
そしてその分身には、ある程度の記憶や能力も引き継がれているのだ──とも。
そのお姉ちゃんの娘──あたしにとっては姪っ子とも言えるスライムは、あたしに凄く懐いてくれた。
この子がいなかったら、あたしは長生きできなかったと思う。
彼女が幾度もあたしを危機から救い、そして色んなことを教えてくれたから、あたしはこの厳しい自然の中を生き抜き、そして強くなることができた。
うん、これなら旅に出る余裕もできたかな?
そろそろお姉ちゃんに会いに行こう。
この世界のどこにいるのかなんて、全く分からないけれど、また一緒に暮らしたいという夢はまだ消えていない。
たとえ何年かかっても、実現してみせるんだ。
それにお姉ちゃんには、娘の顔も見せてやりたいしね。
自分がいつの間にか母親になっていたと知ったら、お姉ちゃんはどんな反応をするのだろうか?
それを見るのが、今から楽しみだ。
そして、キツネとスライムは、広い世界へと旅立つのだった。
これで第1章分は終わりです。第2章はまだ書いている途中ですが、切りの良い所までなら毎日更新も可能だと思うので、正月休みと準備期間をを挟んだ後に更新を再開する予定となっています。
とりあえず再開は1週間以内を予定しますが、色々とやらなければならない事もあるので、確約はできません。暫くお待ちください。