86 再 誕
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「只今戻りました」
私は転移でクラリスの元に帰還した。
「アリゼ!!
お父様を元に戻す方法は、見つかったの!?」
「ええ……可能性はあると思います。
ただ少し、時間はかかるかもしれません」
なにせ「変形LV3」と、スキルのレベルがまだ低いのだ。
これではまだ、思うように能力を使いこなせないかもしれない。
おそらくそれなりの練習期間は、どうしても必要になるだろう。
ただそれでも能力を鍛えれば、ダグラスを人間の姿に戻すことは可能だと考えている。
この能力って基本的には自分自身の姿を変形させるもののようだけど、他人に対して使うことも不可能ではないはずだ。
以前クラリスに魔法を教えた時、彼女の体内の魔力を操ったことがあるけれど、それの応用で他者の肉体構造を弄ることはできるんじゃないかな?
とりあえずダンジョンで適当な魔物を捕まえて、実験台にしてみるか。
「姫様、お父様の身柄は預かりますね。
どのみちこのような異形の姿では、この城には置いておくことはできないでしょうから、ダンジョンの最深部にでも運んで、そこで治療をしたいと思います。
少々時間がかかるかもしれませんので、姫様はその間に戴冠の準備を進めておいてください」
「分かった……けど、何かあった場合は、どうやって連絡を取ればいいのかしら?」
「その時は……心の中で強く私に呼びかけてみてください」
「え……こう?」
ふむ、脳内にクラリスの声が聞こえるな。
先程初めて所持していることを知った、「念話」のスキルだ。
リーザのお告げって、こんな感じで聞こえているのかな?
ともかく返信!
『姫様……聞こえますか?
今あなたの頭に、直接語りかけています』
「何これ!?
頭の中にアリゼの声が……っ!?
気持ち悪いっ!!』
「私の声で、気持ち悪いは無いでしょう……」
「あ……ごめん」
素直に謝ってくれるところが可愛い。
「これが念話のスキルですよ。
さすがに姫様の力では、クラサンドのダンジョンにまで声は届かないと思いますが、レイチェルも使えると思うので、彼女に頼めば連絡を取り次いでくれると思います。
必要ならば、レイチェルも転移できますしね。
というか、姫様の護衛にレイチェルをつけておいた方がいいでしょうから、途中で声をかけて城に来るように伝えておきます。
それと騎士団にも指示を出して、拘束している近衛騎士を牢屋に入れておきましょう。
姫様に忠誠を誓った者から、開放する方向で行きましょうか」
「そう……お願いするわね、アリゼ」
「馬鹿な夫ですが、どうか助けてやってください、アリゼ様」
クラリスとクリスの母娘が頭を下げる。
ダグラスとは真っ当な家族とは言えない関係だったけれど、それでも見捨ててはいないのだな。
そんな母娘の期待に、私はなんとか応えたいと思う。
「ええ、任せてください」
と、私はダグラスを連れて、転移した。
私、クラリス・ドーラ・ローラントは、女王へ戴冠する準備を進めている。
私が国王を倒し、王位を継ぐことについては、既に国中に布告したわ。
事前に殆どの貴族に対して根回しをしてあったので、今のところ目立った反発は無いようね。
そして国民達の反応も、これまでの国王の政策が酷すぎた所為で、それが少しはマシになるのではないかという期待もあり、比較的好意的だ。
数ヶ月前から私の名前で貧民街への炊き出しや、各業界への支援を行っていたのも大きいと思う。
いずれにしても戴冠式を目前にして、目の回るような忙しさだわ。
一方アリゼがお父様を連れてダンジョンに向かってから、既に半月近く経過した。
彼女はたまに顔を見せに戻ってくるけれど、基本的にはダンジョンへこもりきりの状態になっている。
あのアリゼがそれだけ時間をかけているということは、お父様の治療にはそれだけ手こずっているということなのでしょうね。
こうなるとお父様よりも、アリゼの方が根を詰めすぎていないかと、少し心配になるわね……。
まあ私自身も忙しい所為で、あまり心配していられる余裕が無いというのは、ある意味では幸いなのかもしれないけれど……。
そしてある日、ついにアリゼが良い報告を持って帰ってきたわ!
「お待たせしました、姫様。
無事全てが終わりましたよ」
「アリゼ!
ついにやったのね!
それでお父様は?」
「はい、まだダンジョンにおりますので、これから会いに行きましょう。
予定は大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。
お母様も連れていきましょう」
それから私達は、お母様を連れてダンジョンに向かった。
ここは温泉がある最下層ね。
そしてそこに待ち受けていたのは──。
「「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」」
幾人ものメイド達だった。
「……誰?」
何故こんなダンジョンにメイドがいるのか──そして、何故アリゼに向かって「ご主人様」と呼ぶのか──その説明を求めるように、私はアリゼの方を見た。
「え~と、身体を変形させるスキルの練習の為に、ダンジョンの魔物を使って実験した結果ですね。
折角人間の姿にしたので、『生物使役』というスキルを使って支配下に置き、メイドさんとして鍛えました」
「つまり、このメイド達は、元魔物という訳ね?」
「今も本質的には魔物ですよ。
見た目は女の子ですけどね」
うん……そうなのね。
訳が分からないけど、まあ、アリゼのすることだしね……。
それよりも、猛烈に嫌な予感がするんだけど……。
「まさか……この中にお父様が……?」
「ええ、ダグラス改め、グラスさんですよ」
と、アリゼの呼びかけに応じて一歩前に出たのは、私に年格好がよく似た女の子だった。
この美少女が父親って、なんの冗談なのかしら!?
「なにをしてくれてるの!?」
私は思わず叫んでしまった。
国王を生き残らせたのはこれの為です。後悔はしていない。
次回は明後日の予定です。