85 隠された能力
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ふむ……魔剣はダグラスの右手首から、肘の間に埋まっているな。
う~ん、腕を切断しちゃった方が早いかな?
鋼糸とも言えるほど強靱な蜘蛛糸を、ダグラスの腕に巻き付けて強く引く。
「ガアッ!?」
すると腕はあっさりと切断されて床に落ちた。
これに炎の魔法を撃ち込んで焼却。
お、魔剣だけが焼け残ったぞ。
「ふんっ!」
私は魔剣を持ち上げ、剣身に手刀を入れてへし折った。
ちなみに刃の方に手刀を入れたけど、私の手の方が勝ったよ。
だけどこのままじゃまた復活するかもしれないので、最大出力で浄化魔法をかけておくか。
──よし、魔剣から嫌な気配は無くなった。
おそらくこれで、完全に無害になったはずだ。
だが──。
「お父様……」
魔剣の支配下から急激に解放された所為か、ダグラスは意識を失っていた。
しかしその姿は、半魔族化したままだ。
切断した腕を回復魔法で再生させても、それは人間の腕の形には戻らなかった。
う~ん……精神は時間をかければ正常化していく可能性はあるけれど、身体の方を元に戻すことは難しいだろうな。
1度ゆで卵になったものを生卵に戻すことができないように、ここまで変質してしまったダグラスの身体を回復させることは、いくら私でも無理だ。
……無理だよな?
でもダグラスが魔剣の所為でおかしくなっていたのだとしたら、彼自身の罪は微妙なところである。
このまま見捨てるというのは、娘のクラリスのことを考えると少し可哀想な気もする。
もしも親子としてやり直しの機会を与えられるのならば、なんとかしてやりたいとも思うのだ。
取り返しの付かない親子関係はレイチェルの時に経験しているけど、あれは辛かったからなぁ……。
とはいえ、今の私のままではどうすることもできないような気がする。
となると……可能性があるとすれば──。
「姫様、少しここで待っていてください。
お父様を人に戻す方法を、ちょっと探してきます」
私はダグラスが目覚めた時に暴れ出さないように、蜘蛛糸で拘束しつつクラリスに告げた。
「え、ええ……。
って、できるの!?」
驚愕するクラリス。
彼女の心情的には、このまま怪物の姿で父を生かし続けるくらいなら、いっそ命を断ち切った方がいいのではないか──と、葛藤していたことだろう。
だが、それを覚悟するのはまだ早い。
「分かりませんが、諦める前にやることはまだありますので。
それでは!」
と、私は転移をした。
その先にいるのは、先程遭遇した鑑定士である。
彼は私の殺気を浴びて気絶していたが、未だに目覚めてはいないようだ。
「起きてください。
ちょっと聞きたいことがあります」
「う、う~ん……」
しかしその身体を揺さぶっても、彼は目覚める気配を見せない。
仕方が無いなぁ……。
ここは最低出力で電気ショックを──。
「ギャッ!?」
さすがに電流を身体に流されたら、嫌でも目が覚めるね……。
いや、心臓が弱ければ、ショックでそのまま永眠する可能性もあるだろうけれど……。
「な、なんだっ!?」
「落ち着いてください。
そして私の質問に答えてください」
「ひいっ!?
あなた様はっ!?」
彼は私の顔を見るなり、頭を抱えて蹲った。
しかも私の方に尻を向けて。
なんだその「頭隠して尻隠さず」状態。
「ひいいぃぃぃ!
殺さないでくださーいっ!!」
「殺さないですよ!?」
一体私をなんだと思っているのか。
私、そんなに怖くないよ?
……怖くないはずだが。
「それよりも、はやく私の鑑定結果を教えてください。
急いでいるので、あまり私の手を患わせるようなら、本当に殺しますよ?」
「ひっひぃ……。
わ、分かりましたぁ……」
いくら脅したからって、半泣きになるなよ……。
これじゃ、私が悪者みたいじゃないか。
「はい、ではこの紙に書き出してください」
と、私は紙とペンを鑑定士に渡す。
そして書き出された鑑定結果に、私は目を通した。
ふむ……このカンストしている「魂の融合LV99」というのが、「乗っ取り」能力の本当のスキル名かな?
やはり本質的には身体を奪うと言うよりは、魂ごと全てを奪うというのが本命の能力なんだ。
それと……「吸収LV5」というのはスライムの時に使っていた能力だろうけれど、これが今も使えるとしたら、このアリゼの身体のままで、他者の能力を奪える?
まあ、相手の身体を吸収する必要があるから、人間相手にはあまり使いたくないけど……。
ある意味食人行為に近いからな……。
あと……「分裂LV2」?
私、分裂したことなんて無いはずだが……。
それなのにレベルが上がっている……?
あ、もしかして私に融合していたレイチェルが、私から分離して生まれた時にこのスキルが働いたのか!?
それならこのスキルを使いこなせば、男との性交が無くても、妊娠出産が可能になる……?
う~ん、色々と気になるが、検証は後回しだな。
特に称号についてはあまり深く考えたくないので、見なかったことにしよう。
誰だ、あんな称号を決めているのは……?
女神? それとも世界を構築するシステムが、条件を満たした者に対して自動的に……?
それはさておき、今私が求めている能力は……「変形LV3」。
これかな……?
これは過去にも、たまに使っていたと思う。
毒を他者に注入する際、爪を伸ばす為にこのスキルを使っていたはずだ。
私はてっきり身体強化能力の延長なのかと思っていたので、それほど大きな肉体変化ができるとは思っていなかったけど、これがスライムか何かの不定形生物が由来のスキルならば、もっと自由に肉体を変形させることも可能なのではないだろうか?
どれどれ……。
ためしに手を、刀のように変形できないか──と、イメージしてみる。
「お、おお……!!」
できるな!!
まるで未来の液体金属型ロボットのように、変形させることができた。
これを元に戻すことも……なんの支障もないようだ。
「ひいぃ……っ!!」
おっと、私の腕が変形するところを見て、鑑定士が怯えている。
「お手柄でした。
あなたには後で、莫大な報酬を約束しましょう!」
と、微笑みかけたが──、
「ひゃいぃっ!!」
鑑定士は更に怯える。
なんでやっ!?
ともかく、目的の能力が分かったぞ。
これがあればダグラスも救えるかもしれない。
……って、この能力の存在を知っていたら、もっと早く人間になることも可能だったんじゃ……!?
いや、あくまで姿だけなので、人間以外の存在であるという事実は変わらないのだろうけれど、自分の好きなように外見を変えることはできたはずだ。
あ~……っ、こんな便利な能力を今まで知らずに、何年も獣の姿のままで、森を彷徨って……っ!!
人間の姿になれば道具を使うこともできたし、もっと楽な生活ができたはずなのにぃ……っ!
ああぁ~っ!!
ううぅ……凄く損をした気分だ……。
次回は明後日の予定です。