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エピローグ まだ見ぬ世界へ

 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 また、ブックマーク、ありがとうございました。

 グリフォンと一緒に落下する私は、触手を伸ばし木にしがみつくことで、なんとか制動をかけることを試みた。

 だけど、思っていたよりも落下スピードが速く、あえなく地面に衝突。


(へぶっ!?)


 ああ……グリフォンの重みを、計算していなかった……。


 ──と、思ったところで、視覚が切り替わった。

 どうやら落下の衝撃でグリフォンが死んで、乗っ取りが発動したようだ。

 ふぅ……共倒れにならなくてよかった。

 

 私は新しい身体の機能を確かめるように起き上がると、身体を包んでいたスライムが、だらん……と、力なく垂れ下がった。

 うえ……客観的な立場だと、ちょっと気持ち悪いな。 

 私は水に濡れた犬のように身体をブルブルと震わせて、スライムの残骸を引き剥がす。


 ふぅ……身体には問題無いようだな。

 ついにグリフォンの身体を、手に入れたぞ!

 おそらくこの周辺では最強クラスの存在だから、こいつの能力があれば、今後小動物に乗り移ったとしても、簡単に死ぬようなことは無いだろう。

 

 それに、風の魔法を手に入れたというのも大きい。

 この属性があれば、遠距離攻撃ができるようになることは勿論、極めれば翼が無くても空を飛べるようになれるかもしれない。

 これでサバイバル生活の中でも、やれることの幅がかなり広がるだろう。

 それはつまり、生き残れる可能性が、大幅に増えるということでもある。


 だけど今の私は、あまり喜びを感じることができなかった。

 グリフォンの記憶の中には、やはりママン達を襲ったというものがあったからだ。

 ママンは、子供達を逃がす為にグリフォンに戦いを挑み、命を散らした。


 その時に逃げ延びた兄妹達も、結局は後々各個撃破されてしまい、残るのは妹ちゃんだけだったようだ。

 ついでに、私のキツネだった頃の身体も、このグリフォンが持ち去って喰い漁ったらしい。


 はぁ~……親兄妹を自らが殺して食べたという記憶があるのは、結構キツイな……。

 なんなんだよ、この能力……。

 使いようによっては強いのだろうけれど、欲しくも無い記憶まで手に入るから、今後「私」という自我を保っていられるのか、凄く不安だ……。


 そんな訳で、呆然としていた私だったけど、いつの間にか目から涙が溢れていた。

 ああ……グリフォンでも、涙を流せるんだなぁ……。

 そんなどうでもいいことに感心していると、何故か余計に泣けてしまった。


 しかし私は、いつまでも泣いている訳にはいかなかった。

 なんと、妹ちゃんがこちらの様子を窺っていたのだ。

 あらら……恥ずかしいところを見られちゃったな……って、なんで逃げていないの!?


 なんだろう……?

 妹ちゃんは一定の距離をとってはいるけれど、あまり私のことを警戒しているようには見えない。

 もしかして今の私が、以前のグリフォンとは別の存在だということを察している?

 なんだかんだで妹ちゃんも、乗っ取りの瞬間を3回も見ているはずだから、少なくとも何かがおかしいとは感じているのかもしれない。


 私の存在に少しでも気付いてくれているのなら、嬉しいな……。

 でも、このグリフォンは妹ちゃんにとっても(かたき)だ。

 私自身も、家族の命を奪った記憶を持っている。


 自分がしたことじゃないのに、何この罪悪感……。

 今は妹ちゃんを見るだけで、胸が苦しくなるような感覚があった。

 やっぱりもう、妹ちゃんとは一緒にいられないのだということを、実感する。


 ……妹ちゃんとは、ここでお別れするか。

 最早グリフォンみたいなヤバイ敵はいないだろうし、もう大丈夫……とは言えないけど、野生動物をいつまでも守ってやるのも、何か違うだろう。

 ……と、後ろ暗いところがある自分に言い訳をしているだけなのかもしれないが、私もそろそろ当初の目的である、百合百合する相手を見つけに行く旅に出ても、いい頃なのかもしれない。


 でも、最後に別れの挨拶だけはしておく。


「ケロケロケロ(もうお別れだよ)」


「!?」

 

 私はカエルの鳴き声を再現して、呼びかける。

 妹ちゃんは、またビクッとなっていた。

 ふふっ、可愛い。


「ビャン!」

 

 お、返事がきた。

 でも、相変わらず何を言っているのか、それは分からなかった。

 私もキツネだったから分かりそうなものだが、たぶん言語として成立するほどのものではないのだろうな。

 私のカエル語だって適当だし。


「ケロケロケロケロ(元気でね。エキノコックスには気をつけてよ?)」


「ビャン! ビャン!」


 あれ……妹ちゃん、泣いてる?

 私の気持ち、伝わっているのかな?

 伝わっていると、いいなぁ……。

 

 うう……また涙が溢れそうになってくる。

 そろそろ行かないと、決心がにぶるな。

 よし、もう旅立ちの時だ!


「ケロケロケロケロケロケ(さようなら、この世界で1番好きだったよ)」


 私は翼を広げ、飛び上がる。

 妹ちゃんは私を引き留めたいのか、悲痛な声で吠えているけど、私はそれを振り切るように高く高く、空に昇っていく。


 もう2度と会えないだろうけど、妹ちゃんの幸せを願いながら、私は飛び続けた。

 そして、可能な限り、高い場所を目指す。


 そこから見える風景は、一面の樹海だった。

 海どころか、山すらも見えず、地平線まで森が続いている。

 これだけの高度から見回しても、木以外の物は、精々河くらいしか見えない。

 

 これは……人間の住んでいる場所って、存在するのか?

 いきなり何処へ向かえばいいのか、全く分からなくなってしまった。

 

 でもとりあえず、南に向かうか。

 この土地の冬の厳しさがどの程度なのか分からないけれど、温かい土地の方が過ごしやすいのは確かだろう。

 いや、砂漠とかに当たったら、引き返すけれど……。


 とにかく、ようやく異世界での冒険が始まったって感じだ。

 楽しい(・・・)旅になるといいな!


 ……何かのフラグにならなければいいけど……。

 明日、閑話を入れてから、正月休みに入る予定です。

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