78 歪められた予言
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あまり眠っていないので、誤字脱字の見落としがあるかもしれませんが、遠慮無く下の方にある「誤字報告」を利用していただけると助かります。
「預言が……間違っていた……だと?」
国王ダグラスは眉根を寄せ、リーザへと鋭い視線を送った。
まあ、自分が信じていた預言が間違っていたと言われれば、当然の反応かもしれないが、リーザとしては萎縮せざるを得ない。
私とクラリスは、リーザの肩に手を置いて「心配は無い」と言外に伝える。
元々国王に対しては喧嘩を売るのが既定路線だったので、このまま彼が激怒したとしても、それは構わない。
そして私達の手で勇気を得たリーザは、言葉を続けた。
「私は、この国の在り方が変わる……とは、預言したのじゃ。
だが国が滅びるとは、一言も言ってはおらぬのじゃ……」
この辺を事前にリーザから説明されたが、どうやらこのローラント王国は君主制国家から、議会制民主主義国家へと変わる……というのが預言の真相であるらしい。
うん、私もそうするつもりではいた。
ただしそれは、かなり先の話になるだろう。
私だって折角クラリスを女王にするのに、すぐに退位させるような真似をするつもりはない。
少なくともクラリスが在位中は、色々と揺らいでいる国の地盤を安定させる為に注力する期間だと思っている。
そもそも、現在のろくな教育を受けていない庶民には、政治は無理だろう。
彼らが政治に参加する為にも、全国民が何かしらの教育を受けられるようにならなければいけないのだが、現状では一般人が通えるような学校は殆ど存在しない。
それを考えると、学校教育を充実させて選挙を導入し、議会制へと移行する為には、最低でも半世紀は先の話になると思う。
つまり、王国という形がなくなるにしても、それはまだまだ先の話だ。
だから今のダグラスが在位している間は関係ない。
ついでに言えば、王室自体は象徴として残すつもりでいる。
それにも関わらずダグラスは、教団の幹部達によって意図的に歪められた預言を信じ、国政を疎かにしてしまった。
まあ、彼が悪いと言うよりは、教団が悪いと言えなくもないが。
「だから……何も絶望する必要は無いのじゃ。
どうか陛下、これからもこの国を正しい方向へ導いてはくれまいかのぉ?」
そんなリーザの言葉に、ダグラスは押し黙った。
重い沈黙が続く。
さすがに信仰している宗教のトップである教祖の言葉は、彼の心にも届いたか?
──と、思うじゃん?
「……つまり、私を騙していた……と?
国王である私を……?」
「ひ……!」
ようやくダグラスから出た言葉は、リーザに取っては死刑宣告にも等しい。
それは国王を騙していた教団に対する怒りの言葉だ。
そして国王を騙した教団への罰が、軽いものであるはずがない。
普通ならば──。
「お父様、今はそれが問題なのではありません。
この荒れ果てた国の、未来を話し合うべき時です!」
クラリスが助け船を出す。
「未来……未来だと!?
そんなものは、とっくの昔に捨てておったわ!
それを今更違うと言われて、引き返せると思うのか、貴様はっ!!」
「その先に滅びしか無いと分かっていても、このまま進むと言うのですか!?」
「その通りだ!!」
……で、あるか。
完全に自暴自棄になっているなぁ。
まあノストラダムスの大予言の時も、人類の滅亡を信じて学業や仕事を疎かにしたり、貯蓄を使い切ったり──と、未来が無いこと前提にして好き勝手したあげく、預言が外れた際にただでさえ厳しい社会の荒波の中へ、何の備えも無い全裸のような状態で放り込まれた者もいると聞く。
自業自得とは言え、哀れな話だ。
だから今更「預言が間違っていた」と言われても困るという、ダグラスに同情の念が全く無いという訳ではない。
だけど彼の行為は、他人を──国を巻き込む以上、許されるもうではないのだ。
国王としての責務を果たせないのであれば、それはもう退場してもらうしかないだろう。
「お父様! お父様が国王としての職務を疎かにした結果、国は荒廃し、帝国の干渉も許して侵攻寸前のところまで来ていました。
お父様が間違った預言を信じたばかりに、その預言を本当のものにするところだったのです。
その責任を感じる心があるのでしたら、速やかに王位を私に譲ってください!
そうすれば、悪いようにはしません」
「ふざけるな……。
貴様のような子供に、王位などくれてやるものかっ!
私が……私が最後の王になるのだ……!」
「責務を果たさないあなたは、既に王ではありません!」
「なんだと!?
私は今でもこのローラント王国の、国王である!!」
ダグラスは王座に執着を見せている。
以前ガーランド領の領主・テュロサムから、
「王には兄弟はいない……というか、自身が王になる為にライバルを消してきた……」
と、聞いたことがある。
あれから更に調べて見ると、実際にはダグラス自身が王位を求めていた訳ではなく、他の王位継承権を持つ者達から命を狙われ、反撃している内に相手が全滅し、残った彼が王になったというのが実態らしい。
当時はライバルから危険視される程度には、有能だったようだ。
いずれにしてもダグラスにとっての王位は、不本意な形で手に入れたものではあるが、それでも血縁者を犠牲にして得た地位だ。
その犠牲を無駄にしてしまうことになるから、簡単には捨てられないのだろう。
まあ、その割には王としての働きは投げやりだが、彼にとっては罪を犯した自身に対する罰のような感覚でやっていたのかもしれない。
だからこそダグラスは、終末論受け入れたのだ。
彼自身も、心の奥底では自らの王位を捨てたがっている。
でも捨てられないから、何かによって終わらせて欲しかった──。
クラリスはそんな父に対して、大きく嘆息した。
彼女は諦めた──父との和解の道を。
そして決意した──父と戦うことを。
「宜しいでしょう。
ならば後日、その王位を奪いに参りますので、王座に座り、私の為に温めおいてください……!」
「なん……だと!?」
ダグラスが激高して立ち上がるが、私達は踵を返して、執務室の出口へと向かう。
「さ、さようならなのじゃ……」
「待てぃっ!!」
ダグラスは、何かしらの攻撃魔法を撃ち込んできたが、それは私の「結界」で未然に防がれた。
「今は大人しくしていてください。
そちらにも、戦う準備は必要でしょう?」
「なっ……!?」
私に一瞥されて、ダグラスは硬直した。
なんとなくでも、私の実力を察することができたようだ。
でも引き籠もっていた所為で、私に関する情報は事前に把握していなかったっぽい。
今更私の存在に気付くとか、国王として不用心すぎるな。
「それではまた後日……」
そしてそのまま私達は、何事もなかったように部屋を出る。
こうして国王への宣戦布告は、終了したのだった。
昨晩は入院中の家族の容態が急変した為、病院に泊まり込んでおりました。そんな訳で昨日は、『斬竜剣』と『おかあさんがいつも一緒』の更新もお休みしています。
幸い家族は持ち直して今は安定しているようですが、今後もこういうことが増えると思うので、小説の執筆時間も少なくなっていくと思います。結果的に更新ペースも、維持できなくなるかもしれません。そして万が一があれば、1週間程度は更新できなくなるかも。