73 天 罰
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ナウーリャ教団の教祖から、教団の全権を委譲してもいい──そんな言質をいただきました。
こ……こわい……
いきなりそんなことを言われても、困るのですが!?
私はあくまで裏から操るタイプで、表に出るのは得意じゃないんだよぉ。
今だって、アリセーヌ・ルパンという別人になりすましているから、こんな大勢の人前の出ることができたのだし……。
できるのならばこのまま教祖に、表のトップとして動いてもらった方がいいな。
そうだ、そうしよう。
そんな方針を決めたその時──、
「きょ、教祖様がご乱心なされたぞ!
今すぐ下がらせろっ!」
なんかおっさんが喚きだした。
「誰でしたっけ……あれ?
面接の時に、いたような気はしますが……」
見た目はただのおっさんなので、例え幹部だとしても、あまり重要な人物だとは思っていなかった。
それほどまでに貫禄というものを感じない。
「ガープラ枢機卿……実質的な、この教団のトップなのじゃ」
「えっ、あれが?
教祖がトップではないのですか?」
「お恥ずかしながら……私は客寄せパンダなのじゃ」
「パンダ!?」
それはレッサーなのか、それともジャイアントなのかは分からない。
いずれにしても、何故教祖がその珍獣の存在を知っている……!?
異世界にも生息しているのか……!?
いやそれよりも、まずはガープラのことが先だ。
こいつが実質的なトップならば、彼を締め上げれば教団の裏のことが全部分かるかな?
とりあえず警備役らしい信者がわらわらと出てきたので、教祖には近づけないようにしようか。
ほい、麻痺毒散布。
私と教祖以外の、幹部や警備役達が唐突に倒れた。
「こ……これは……!」
「安心してください。
もう誰も近づけさせませんよ。
さて、教祖様……。
私はこの教団を、真っ当なものへと改革したいと思っています。
その為には教団から、膿を出し切らなければなりません。
まずは欺いてきた信者達に対して、懺悔が必要だとは思いませんか?」
つまり教団の悪事を、今ここで暴露しろということだ。
そうしないと幹部を法の下に裁こうとした場合、信者の激しい抵抗が生じる可能性があるからね。
まずは信者達の教団に対する信用度を、落としておく必要がある。
「あ、でも国王夫妻への働きかけと、帝国との繋がりは黙っておいた方がいいですね。
それらが表沙汰になってしまうと、最悪の場合は教団の関係者全員が、処刑か犯罪奴隷落ちということも有り得ますから」
そうなってしまえば、私が教団を利用できなくなってしまうので、それは困る。
教団には全国規模の治療院グループとして、生まれ変わってもらうつもりなので。
「そ……そうじゃの」
教祖の顔は、緊張に凝り固まった。
何千人もの信者の前で教団の裏の部分を告発すれば、暴動が起こりかねないし、彼女の身も危険に曝される。
だが──、
「あなたが私の為に働いてくれるのならば、あなたは私の庇護下に置かれることになります。
今後の身の安全は保障しましょう」
「おお……!」
私の言葉を受けて、教祖は感激したように喜びの色を顔に滲ませた。
そして彼女は意を決した表情を作り、多くの信者達の方へと向き直る。
それから彼女は信者達を見渡すように、左から右へと顔を動かした後、演説を──いや、懺悔始める為に、大きく口を開いた。
「我が親愛なる信者諸君!
このナウーリャ教団の教祖であるリーザ・アトロポスの名において、ここに新たな聖女の誕生を宣言するのじゃ!」
いや、そっちは大々的にやらなくていいよ?
つか、リーザって名前なんだ。
あんまり興味が無かったから、今知った。
こんなに可愛い子だと知っていたら、もっと早くお近づきになりたかったよ。
「かの聖女アリセーヌ様は、女神ナウーリャ様の御使いなればこそ、私はここに教団の罪を全て吐き出し、許しを請わねばならぬ!」
そしてリーザは語る。
そもそもがガープラの私利私欲の為に、教団が作られたこと。
その為に、自身は村から攫われたこと。
麻薬の製造販売や、教団幹部による信者の女性に対する性行為の強要等々……いくつもの犯罪行為が行われたこと。
あ、やっぱり百合推奨な教義は、それが目的で女性を集める為だったんだ。
まったく……百合に挟まれようとする男は、万死に値するな。
それに麻薬の製造販売などの組織犯罪に手を染めていたことも、許されることではない。
これに関しては、教団幹部の何人かは国によって処刑されることになるのではなかろうか。
だからガープラ達幹部は、「嘘だ」、「教祖は乱心している」と騒いでいたが、果たして信者は教祖の言葉とどちらを信じるのだろうね?
どのみち私が彼らの自由を奪っているので、何もできないだろうけど。
「我々は悔い改め、新たな聖女アリセーヌ様の導きに従い、生まれ変わらねばならぬ。
これは女神ナウーリャ様に与えられた、我が教団が生き残る為の最後の機会である。
信者達よ! 教団に失望し、去るのは構わぬ!
だがもしも叶うのならば、どうか教団が生まれ変わるこの機会に、力を貸して欲しいのじゃ!」
そんなリーザの呼びかけに信者達は困惑し、ざわめいているだけだった。
そりゃあ今まで騙されていたと知って、納得できる者などいないだろう。
今はまだ混乱しているだけだろうけど、誰か1人が怒りで暴れ出したら、そこから連鎖的に怒りが伝播し、暴動になる可能性も十分にある。
数千人が暴れ出したら、一体何人が死ぬか分からないな……。
これは手助けをしてやった方がいいかな?
とりあえず教団の関係者が、二度と変な気を起こさないように、女神が教団の在り方に怒っているということを見せつけようか。
いや、実際にどう思っているのかは、知らないけれど。
そんな訳でそこそこ本気の雷撃魔法を、教団の神殿に真上から落としてみる。
勿論、索敵で人がいない場所を調べて、そこを狙ってだ。
ギ●ディ──ン!!
次の瞬間、閃光と轟音が降り、神殿の屋根に大穴が空いた。
その衝撃的な光景を目の当たりにした信者達は、一斉に静まり返る。
だが彼やがてらは跪き、必死で祈り始めた。
「て、天罰だ……!
お許しを……!」
──と。
それはガープラをはじめとする教団の幹部達も同様で、床に倒れたまま、女神に許しを請うていた。
多分彼らは、本気で神の存在を実感したのだろう。
これで今後は罰当たりな行為に手を染めることはまずないだろうし、処罰や教団の改革にも協力的になってくれるはずだ。
ただ、結果として信仰心が更に強まり、狂信的な派閥が生まれないか──それが少し心配だが……。
「ありがたいのじゃ、ありがたいのじゃ……!」
……って、リーザまで私に向かって祈りを捧げているんだけど……。
まさかとは思うが、今後私が信仰の対象にされるようなことはないよね……?
そして後日──。
「なにやら、ナウーリャ教団の神殿に、天罰の雷が降り注いだ……って、国中の噂になっているようなのだけど……。
私、やり過ぎないでね……って言ったわよね?」
「……そうですね」
クラリスの言葉に、私は反論できなかった。