16 宿命の敵との戦い
ブックマークや☆でのポイント、ありがとうございました。はげみになります。
突然現れた私に驚いたのか、奴はそのまま反転して、上空に戻っていく。
チッ、そのまま突っ込んできていたら、全身に絡みついてそのまま倒していたのに。
ただ、逃げるつもりは無いらしく、こちらを睨んだまま滞空している。
食事を邪魔されて、怒り心頭らしい。
グリフォン──。
鷲の上半身と翼に、獅子の胴体と後ろ足を持つ魔獣だ。
異世界ファンタジーの作品では、結構強敵に入る部類の存在として登場するが、その一方では騎馬のように乗り物として扱われることもある。
ただし、目の前にいる個体はまだ子供なのか、人が乗るには微妙なサイズをしていた。
精々ポニーくらいの大きさだろうか。
だけど、そんなサイズの生物が空を飛んでいるだけでも、十分に脅威だと言える。
しかもこいつが、私達のお兄ちゃんを攫ったものと推測される。
その肉の味を覚えて、おそらくはママン達も襲った。
そして今まさに、最後の生き残りだと思われる妹ちゃんも襲われるところだったが、それは私がやらせねーよ!
ちなみに妹ちゃんは、私の闖入に驚いたのか、近くの茂みに飛び込んで身を隠してしまった。
正直戦いの邪魔なので、そのままじっとしていて欲しい。
さて、上空にいるグリフォンをどう料理しようかな。
奴はすぐに攻撃できる距離を維持しているのか、そんなに高度がないところにいる。
これなら──、
シュパーンと、私は体の一部を触手のように伸ばして、鞭のようにグリフォン目掛けて放った。
残念ながらその攻撃は、グリフォンには当たらなかったが、この触手を振り回していれば、迂闊に近寄ってはこられないだろう。
これなら勝てないにしても、負けるということもないはずだ。
フハハハハハ見よ、この見事な鞭さばき!
女王様とお呼び!
──と、調子に乗っていたら、グリフォンが「クエーッ!」と吠えた瞬間、触手が切断された。
「!?」
そして直後、私のスライムボディの一部も、強い衝撃を受けて弾ける。
見えない攻撃!?
風の刃の魔法か!?
この身体には痛覚が無いから痛くはないけど、結構なダメージを受けたっぽいぞ。
幸い今の私は、無数のスライムの集合体であるキング状態だから、耐久力はかなり上がっているはずだけど、スライム1匹分だけの身体だったら、即死していた可能性も否定できない。
現状でも、何発も同じ攻撃を食らったら、たぶんアウトだろう。
ぐぬぬ……!
これは勝負を急いだ方がいいな。
その為の布石は、既に打ってある。
「キィッ!?」
グリフォンが動揺している。
そりゃそうだろう。
私が密かに草むらの中へ張り巡らせていた触手20本弱が、四方八方から襲いかかってきたのだから。
しかも木の上にも触手を伸ばしていたから、上空からの攻撃も含まれている。
これを全部躱すのは、不可能なはずだ。
あ、風の魔法で触手が何本か切り飛ばされた。
だけどそれだけで逃げられるほど、甘くは無い。
触手の1本が、グリフォンの後ろ足に絡みつく。
よし、これで地面に引きずり落とせば、全身を包み込んで終わりだ。
──って、うおっ!?
グリフォンが急上昇した。
ああっ、触手が伸びる、伸びる!!
限界まで伸びたら、当然千切れてしまう。
さすがに私も、本体から分離した細胞までは操れない。
私は慌てて、触手に細胞を送って太くする。
そして、他の触手を近くの木に巻き付けて、私の体をがっちりと固定した。
そうしないと、私の方が空中に持って行かれる。
私は全力でグリフォンを引っ張るが、この綱引きは拮抗した。
まるでカジキマグロに、アタックしているかのようだ。
暫しツーリングと洒落込もうか。
……いや、トローリングだっけ?
幸いグリフォンは逃げるのに必死で、風の魔法を使う余裕が無いようだ。
だから触手をすぐに切断される可能性は少ないし、このまま相手が疲れるのを待つのも手だろう。
というか、他に手段は無いんだよなぁ……。
現状では、まだ酸は使えない。
溶けた部分が滑って、触手から脱出される可能性があるし、最悪足を切り離して逃げられるかもしれない。
あと、致死毒や麻痺毒は使っているけど、効いている気配が無いので、耐性持ちなのだろうな。
だからもっとグリフォンの全身を、このスライムボディで包み込まなければ決定打にならないのだが、今は触手の強度を維持するだけで精一杯だなぁ……。
そんな訳で、必死に上空へ脱出しようとするグリフォンとの綱引きは続く。
私の触手は引っ張られて、伸びたり縮んだり。
まるでゴムみたい。
「……!」
ゴム……ゴムかぁ……ゴムゴム……。
これ、私が行った方が早くね?
なんちゃらのロケット的に。
よし、タイミングを見計らって、パージ!(私自身を)
私は木に巻き付けていた触手を、一斉にほどいた。
すると、自由になった私の身体は、宙に浮かび上がる。
あとはグリフォンが引っ張ってくれているので、触手を縮めれば自動的に標的に向かって飛んでいく。
ははっ、なにこの逆バンジージャンプ感。
うええ……気持ち悪っ……!!
これ、人間だったら気絶していたんじゃないかな……。
だけど、その感覚も一瞬のこと。
次の瞬間、私の身体はグリフォンに直撃して、その身体を包み込んだ。
グリフォンは暴れるが、私のスライムボディが全身に絡まっているので、引き剥がせない。
この状態からグリフォンが脱出することは、もう不可能だろう。
勿論、念入りに強酸も使っておくし、顔に張り付いて呼吸も止める。
ふふふ……勝ったな……!
まあ、次はノーロープバンジージャンプを経験することになるので、喜んでばかりはいられないんだけどね。
地上数十メートルから落下とか、スライムじゃなきゃ死ぬわ。
いや、スライムでも大丈夫なのか……?
だんだん怖くなってきた。
墜ちていく……墜ちていく……固い地面へ……。
あ──────れ──────っ!!
今年最後の更新です。そして元旦から更新はする予定です。とりあえず、第1章の残りがあとわずかなので、最後までやってから正月休みに入りたいと思います。