71 教祖様は祈りたい
ブックマーク・誤字報告・感想をありがとうございました!
私はリーザ・アトロポス……。
20歳。
ナウーリャ教の教祖をしておるのじゃ。
教祖とは言っても、名前だけでなんの権限も持たぬ。
教団のことは、みんな大人達が決めておるのでな……。
ハッキリ言って、私の教団での地位は、最底辺だというのが実態なのじゃ……。
そんな私が教祖らしく見えるように──と、偉そうな口調を強いられているのは、なんとも滑稽な姿じゃろ?
今だって教団の幹部会議に出席しておるが、私は座っているだけで、発言権なんて無いに等しいのじゃ……。
この弱々な私が、何故教祖なんて大それた役目をしているのかというと、私の生まれ持った能力の所為じゃ。
私は占いが得意なのじゃ。
いや、占いと言うよりは、なにか神聖な存在──神なのか精霊なのかよく分からない存在の、声を聞くことができるというか……。
まあ、声を聞けるとはいっても、「この夏は冷夏になる」とか、「近く嵐がくる」とか、その程度のことだったのじゃがな。
それでも私が生まれた村では、巫女だなんだと、重宝されておった。
おおよその天候が予測できるだけでも、農家にとっては大助かりだからのぉ。
そんな訳で私は村で大切に育てられ、それなりに幸せな生活を送っていたのじゃ。
その生活が壊されたのは、ガープラという行商人の男が村に訪れたことが発端じゃった。
私の能力は意図しては使えぬ。
なんというか、たまたますれ違った人の会話が聞こえてくるようなもので、自分の知りたいことを狙って知ることはできないし、聞こえてきたことが何を意味するのか、理解できないこともある。
だから私には、ガープラが危険な存在であるということを前もって分からなかったし、私の能力を知った彼奴が私を使って、金儲けをしようなどと思っていたことも、想像だにしてなかったのじゃ。
結果、ガープラによって私は村から攫われ、今や教団の客寄せ……パンダ?
パンダというのはよく分からんが、聞こえてきた声は私の状態をそう言っておった。
だから私を信じて入信した信者達には悪いが、私はそんな大層な存在ではないのじゃよ……。
みんな私の能力で聞いた言葉を、預言だなんだとありがたがっておるが、たぶんそういう意味とは違うのではないか?──と、私でも思うような解釈をされてしまい、大層困惑することも多いのじゃ。
まあ、ガープラが意図的に意味を捻じ曲げて、教団の拡大の為に利用しているからのようじゃがのぉ。
そんなガープラは枢機卿を名乗り、実質的にこの教団を支配しておる。
こんな太ったスケベ親父が聖職者とは、何の冗談じゃろうか。
私腹を肥やし、信者の娘にも手を出していると聞くし、許せん奴なのじゃ。
しかし逆らうと殴られたり、食事をもらえなかったりするのじゃ……。
だから私には、どうすることもできないんじゃよ……。
幸い私には、性的なことをされていなのが救いなのじゃ……。
巫女の能力は、処女を失うと消えるという言い伝えが昔からあるからのぉ……。
そのガープラじゃが、今は私の隣の席でなにやら喚いておるが、どうやら問題が生じたようじゃな?
「薬の製造拠点が、騎士団に踏み込まれるとは……!
しかも数カ所同時にだと!?
一体どういうことだっ!?」
「これでは資金源の1つを失った上に、薬で操っていた者達も一気に教団から離れかねんぞ……!」
「言いたくはないが、裏切り者が情報を漏らしたのではないか?」
「いや、国王に接触していた者達の連絡が途絶えた。
何かヘマをやらかして、捕らえられたのでは!?
そちらから情報が漏れた可能性の方が、高いと思うが……」
「いずれにしても、国に我が教団の裏の動きを掴まれている可能性があるぞ……!」
おお……!
幹部会が紛糾しておるのぉ。
どうやら教団のピンチのようじゃ。
もしかしてこの馬鹿馬鹿しい教祖ごっこも、ようやく終わる時が来たのじゃろうか?
教団の悪事が白日の下に曝されて、全てが消えるのならざまぁなのじゃよ。
しかしお飾りとはいえ、私は教祖。
教団が滅ぶその時、私の身は安全なのじゃろうか……?
不安じゃのぉ……。
……泣いてもいいかのぉ?
女神ナウーリャ様、実在するのなら、私を助けておくれ……。
『──────』
「へっ!?」
何か聞こえた!?
しかも今までとは比べものにならないほど、ハッキリと──。
その上これまでのように偶然聞こえてきた感じではなく、私自身に対して直接呼びかけてきたように感じたぞよ!?
このタイミングで……とは、本当にナウーリャ様の啓示なのかのぉ!?
「どうしたのです、教祖様?
突然大きなお声を出されて?」
いかん……思っていたよりも、大きな声を出していたようじゃ。
だが丁度いいのじゃ。
今受けた託宣について、話しておこうかのぉ。
あ……ガープラが、「余計なことを喋るな」という顔をしているが、後でお仕置きかのぉ……。
でも、私が助かる道は、これしかないようなのじゃ……。
「今し方、女神様から託宣を受けたのじゃ。
王都の支部で、聖女の器を持つ存在が現れたそうじゃのぉ?
その者を聖女として祭り上げてその力を借りれば、この教団は生き残ることができる……とな」
「そう……なのか?
聖女なんて話は、初耳だが」
おお……ガープラが興味を示しておる。
これならば、お仕置きは無しじゃろか?
「それはこの後の議題として、話し合う予定でしたよ。
王都の支部長からの報告によると、十数人の身体の欠損を含む重傷者を、同時に治癒するほどの能力と、数々の病の治療方法を知っている少女が現れた……と」
幹部の1人から、そのような報告が挙がった。
本当に託宣通りの人物がいるようじゃ。
「よし、そやつを本部に呼び寄せて、その実力が本物ならば、信者達の前で盛大に聖女認定の儀式を執り行うぞ。
その名声を利用して教団が大きくなれば、国もおいそれとは手は出せなくなるはずだ」
どうやら上手く話が進みそうじゃのぉ。
これで私は助かるのじゃろうか……?
私が助かるのなら、あとは教団がどうなろうと、私の知ったことではないのじゃ……。
それから1ヶ月ほど経過して、聖女認定の儀式が執り行われることになった。
まず幹部達がその実力や人となりを確かめた上で、聖女に認定する訳だが、どうやらそのアリセーヌ・ルパンという聖女候補は、実力的に問題は無いどころか、誰もが驚くほどの大きな力を持っていたそうじゃよ。
そして教団に恭順の意を示したということで、聖女に認定されることになったようじゃ。
おそらく彼女が聖女になってしまえば、私と同じようにパンダとしての一生が続くことになるのじゃろうが、ナウ-リャ様の託宣がそんなつまらぬ結末で終わるはずはない──と、私は信じておる。
そしてそれは、間違いではなかった。
多くの信者を集め、聖女の称号を与える儀式の日、私は聖女アリセーヌの姿を初めて見た。
そして彼女から感じられたのは──、
「……なんと神々しい……!」
神聖な気配じゃ。
それが彼女の全身から、溢れ出ておった。
そのあまりに強い気配は、私に神の存在を確信させるほどじゃった。
これは聖女なんて、生易しい存在ではないじゃろ!
きっと女神の化身に違いない……!
そんな存在を目の前にして、私ができたことと言えば──、
「全ては、あなた様の御心のままに──」
地にひれ伏し、全てを委ねることだけだったのじゃ。
当初は別の聖女キャラがいる予定だったのですが、設定を考えていたら、別の作品の主役にした方がいいかな……ってことで、その聖女の役割を教祖リーザの方へ。元々はガープラが教祖ポジションでした。