70 聖女になろう
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「な……なんのことでしょう……?」
麻薬の販売をやめろ──という、私の要求を受けて、シスター・キャロラインは動揺した様子だった。
白を切ろうとしても、あまり説得力を感じない。
そもそも私は、この10日間でシスター達の影と自分の影を繋いで、影の中からの監視を続けていた。
だからこの教会で、麻薬を扱っているのは既に確認している。
勿論、シスター達の全員が麻薬に手を染めている訳ではないが、このキャロラインは確実に関与している。
「私を仲間に引き入れたくて、手段を選んでいられなかったのでしょうけど……。
先程のお茶に仕込まれていた睡眠薬は、耐性があるので効きませんよ?
私が断れば眠った後に麻薬でも使って、言うことを聞かせるつもりだったのでしょう?」
「ぐっ……!?」
「まあ……あなたも麻薬を投与されて、禁断症状を抑える為の薬を手に入れる為に、教団に従わざるを得ないのでしょうけど……」
「な、何故それを……!?」
影の中からキャロラインが麻薬を使用しているところを、ガッツリ目撃したからね。
「もう心配しなくていいですよ。
私があなたを、麻薬の呪縛から解き放ってあげますから……!」
「な、なにをするつもりですか!?
えっ、身体が動かない!?」
はっは、蜘蛛糸で緊縛プレイですよ。
しかも亀甲縛りっぽくね。
……うん、糸が修道服に食い込んでエロい。
「大声を上げてもいですよ?
魔法で部屋の外へは、声が届かないようにしてありますので」
さあ麻薬への依存を、私のマッサージで消してあげよう!
「ちょっと、待ってください……っ!
あっ、この感覚は……っ!?
な、なんなの!?
こんなの初めてぇ……!」
このあと滅茶苦茶マッサージした。
「これでもう、あなたの身体は麻薬を欲しなくなったはずです。
万が一再び手を出すようなら、私はあなたとは二度と会いません」
「分かりました……。
またあのマッサージをしていただけるのでしたら、私は聖女様に従います」
「えっ……私、聖女なんですか?」
「はい、私はあなたの御手に、神の光を見ました……!」
お……おう。
ともかくこれで、キャロラインは私に屈服したな。
結果的にこの支部は、私の手中に落ちたも同然だ。
「キャロラインさんには、このマッサージ術を習得してもらい、他の麻薬中毒者の治療をしてもらおうと思っています。
その為にも、まだまだ体験してもらいますよ?」
「はぁぁ……嬉しい……」
吐息をつきながら、うっとりとしているキャロライン。
なんだか新しい扉を、開いてしまったようにも見える。
クラリスやクリスに比べたら手加減したつもりだったけど、やり過ぎてしまったのだろうか……?
なお、これは医療行為なので、浮気ではありません!
……と、ここにいないクラリスに、言い訳をしておく。
「それではいろいろと、教団の裏について聞かせてもらいましょうか?」
「は、はあ……。
しかし私はあくまでこの支部の責任者なので、裏と言われましても、全てを把握している訳ではありませんが……」
「でも、王妃に麻薬を売ったのは、ここの人ですよね?」
「ええ……その通りです」
つまりこの王都における麻薬の販売拠点は、この教会だということになる。
「麻薬は、本部の方から?」
「はい、そうですね。
本部から直接……なのかは分かりませんが、本部からの指令とともに送られてきます」
じゃあ後日に麻薬が運ばれてきたら、運び人を追跡して製造拠点を突き止めることにしよう。
それができたら、あとは私の息がかかった騎士団を突入させればいいや。
「その指令というのは?」
「麻薬の販売や、布教の方針についてです」
「おや? 国王に対しての指示はないのですか?」
「ああ、それは別のチームが動いていたと思います。
まず貴族に取り入って、信用を得てから国王に紹介してもらう……という手はずになっていたかと。
今はその貴族の邸宅を、拠点にしていると思います」
ふむ……その辺は、過去の国王への謁見記録を調べれば、関係している貴族も分かるかな?
そして今後は国王と接触できないように、手を打っておこう。
「……で、国王を洗脳して、なにをしようとしていたのですか?」
「さあ……私には詳しく分かりませんが、この国を混乱させればそれで良かったはずです。
そうすれば、教団の布教もしやすくなりますし……」
キャロラインの言葉は分からないでもないが、随分とまどろっこしい手段だとも感じる。
おそらく本来の計画では、国王を自由に操ることができる状態にすることが、ベストだったのではなかろうか。
しかし国王は終末思想が効き過ぎて、人の話を聞かなくなってしまった。
これは教団にとっても、想定外だったのかもしれないなぁ……。
ならばいっそ国王を暗殺すれば、手っ取り早いのでは?──とも思うが、それで教団に不審の目が向けられるようなことになったり、次の王が教団と対立するような政策をする者だったりすると、余計に都合が悪くなる。
だから教団は現状をベターなものとして、判断しているのかもしれない。
「……そして国力が落ちれば、クバート帝国による侵略もしやすくなる……と?」
「……!
そ、そうですね。
あの……私が話したということは、内密にしてください……!」
キャロラインが怯えの表情を見せる。
帝国との関係が表沙汰になるようなことになれば、この国から間諜として裁かれるか、帝国によって口封じで消されるかの運命が待っているだろう。
どちらにしても彼女は終わりである。
「勿論です。
あなたの身の安全は、私が保障しましょう」
「ああっ、ありがとうございます!
聖女様ぁ……!」
「……あ、その聖女のことなのですが……。
ちょっと本部の方へ、報告してもらえませんか?
そして上層部の方々の前で、私が聖女として認定されるような状況になるのが望ましいです」
「はあ……それは構いませんが……?」
うむ、これで私が直接本部に乗り込んで、上層部を一網打尽にする準備が整ったな。
さあ待っていろ、宗教を悪用する罰当たりどもよ!