68 マッチポンプ
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ナウーリャ教への仮入信2日目。
私はシスターの衣装を着ていた。
なんというか、こういう衣装にエロスを感じてしまうのは、私の心が汚れているからなのだろうなぁ……。
でも人って、普段隠されているものに、そういう物を感じるじゃん?
例えばスカートの下のパンツとか!
それと同様に、聖職者であるシスターの修道服の下に、何が隠されているのかを想像すると、背徳感も手伝ってドキドキするよね。
まあ、それを自分で着るとなると、別の感情もあるけどさぁ……。
とりあえず、ちょっと恥ずかしい……。
「それでは今日からこの教会に訪れる人々の、苦痛を癒やす作業を手伝ってもらいましょう。
アリセーヌさんは回復魔法が得意だと聞いていますので、期待していますよ」
と、シスター・キャロライン。
「あの、治療費の相場は、どのようになっているのでしょうか?」
「そうですね……このようになっております」
キャロラインは1枚の紙を手渡してきた。
そこに書かれている料金設定によると、ちょっとした切り傷や打ち身、解毒などは銅貨10枚──日本円にして2千円くらいかな?
それで治療することができる。
ただし、程度によっては料金は上がるし、骨折等になると金貨2枚から──約10万円と、額が跳ね上がるようだ。
更に消失した部位の復元は金貨20枚──約100万円だ。
これでは庶民に支払いは難しい。
「支払いのできない方々は、見捨てる……ということで宜しいのでしょうか?」
そんな私の問いに、キャロラインの顔は一瞬強ばったが、すぐに笑顔に変わる。
「勿論、分割払いも受け付けておりますが、命に関わらないのであれば、なにも無理して癒やす必要はありません。
その苦痛と、それを癒やす為の過程もまた、神による試練なのですから」
要するに殺してしまったら、もう金を毟り取れないから助けるが、それ以外は金の支払い次第ということだ。
あこぎな商売だなぁ。
「それと……病気の治療については、どうなっているのでしょう?」
どうも料金表を見る限り、この教会でやっているのは、怪我や毒の治療と、そして石化等の呪いの解呪だ。
病気についての記述は、どこにも無い。
「病気については、症状は様々ですし、回復魔法が効かない場合も多いので、基本的には受け付けておりません。
それでもこの教会に訪れる病人は一定数おりますので、その場合は医者にかかるようにを助言してあげてください」
「……なるほど」
まあ、傷口の再生を促すような回復魔法では、感染症や癌などには対応できないだろうな。
それに病気の種類は数え切れないほどあるので、私もその全てを治せるほどの医学知識は無い。
だが、魔法の使い方次第ではどうにかできるものもあり、この辺は私の実力のアピールに利用させてもらおう。
ちなみにこの国における医者は、薬草などの薬を処方する程度のことしかしてくれないので、重病人に対してはお手上げというのが現状だ。
少なくとも手術のような、病巣を物理的に取り除いて根治させるような技術は無いとは言わないが、成功率は低いようである。
そりゃあ細菌やウイルスという概念がこの世界にはまだ無いのだから、その対策も当然不十分な訳で、そんな中で開腹手術をしようものなら、感染症待ったなしである。
でも、切羽詰まったら時には、一か八かで手術をする場合もあるようだ。
延々と病気による苦痛に苦しむくらいなら、いっそ死んでもいいから楽になりたいという気持ちも、分からないではないな……。
そして奇跡的に、回復する者がいるのも事実だ。
凄いね、人体。
まあともかく、今日は掃除などの雑務をこなしながら、患者の来訪を待っていたのだが──、
「意外と、人が来ませんね……」
誰も来ねぇ……。
「かすり傷程度ならば、放っておけば治りますから、わざわざ教会に来てまでして治そうとする御方は少ないですよ」
「ああ……なるほど」
キャロラインの言葉に、私は納得する。
となると、事故などで重傷者が出ないと、回復作業をする機会は無いということか。
……これは、ダンジョンの側に教会を建てるべきでは?
そこならば魔物との戦いで怪我人が続出しているので、絶対にここよりは需要があるだろう。
だけどクラサンドの町に、個人で治療院を営んでいた人はいたが、教会があったという記憶は無い。
そんな需要を無視して、王都に支部を作る時点で、作為的なものを感じる。
やっぱり工作機関の拠点という意味合いの方が、強いのではなかろうか。
いずれにしても傷病者が訪れないのなら、私の実力を見せる機会も無さそうだな。
暇だし、どうしようかなぁ……。
しかしその翌日、10人以上の重傷を負った者達が教会に駆け込んできた。
「な、何事ですか、これは!?」
困惑するシスターさん達。
駆け込んできた男達の見た目がヤクザ者風だった上に、全身血だらけで腕などの身体の一部を欠損している者もいる。
それを見て、怯えているシスターも多かった。
「とっ、突然店が襲撃されたんだよぉ!
見ての通り、怪我人ばかりだ。
どうにか治してやってくれ!」
やだ……物騒ねぇ。
だけど奴隷商の拠点を襲撃するなんて、何者なんでしょう?(すっとぼけ)
「こんなに大勢……。
我々だけでは手が足りません……!」
でしょうね。
ここにいるシスターの中には、身体の欠損レベルの怪我を癒やせる者は、おそらく1人か2人程度しかいないだろうし、しかもその術を使えばすぐに魔力が尽きてしまうだろう。
とても全員分の治療はできないはずだ。
そこで私の出番ですよ。
「ここは、私に任せてください!
この程度ならば、私1人でどうにかなりますよ」
ほい、エリ●ヒール!
そんな訳で、怪我人の全員に対して、一気に回復魔法をかける。
「おお……傷が消えていく……!!」
「腕が……腕が生えてきた!」
「ありがとう、ありがとう!」
男達の傷は瞬く間に癒えていく。
彼らは回復を喜び合い、そして私に対して心から感謝していた。
まあ、身体の欠損による絶望感は、経験しないと分からないものがあるからねぇ……。
それが解消されたのならば、そりゃあ嬉しいだろう。
だが、次は無いぞ。
お前達の奴隷商としての活動が、一線を越えるほどではなかったから、この程度で済ませているんだからな……。
「アリセーヌさん……。
まさかこれほどとは……!」
そしてその実力を目の当たりにしたキャロライン達の私を見る目が、一気に変わった。
この調子でいけば、教団も私の影響力を無視できなくなっていくだろう。
いずれは教団の上層部と接触する機会もあるだろうし、それで教団をある程度コントロールできるようになるのならばそれもよし。
それが駄目なら、物理的に上層部を排除しましょうかね。




