67 仮入信
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私、アリセーヌ・ルパン、17才!
オイオイ。
……勿論これは偽名で、本当はアリゼです。
ナウーリャ教団に潜入する為に、偽の名前や身分を用意した。
今の私はちょっとした商家の4女で、冒険者経験もあって回復魔法も使える……という設定だ。
そこそこ裕福で、なんか神聖っぽい魔法も使えるって、いかにも宗教団体が欲しがりそうな人材じゃん?
あと、自分で言うのもなんだけど、私は美人だし?
宗教団体の中には、宗教的な儀式と称して性的な行為を求めてくるところもあるので、そういう意味でも引く手あまただろう。
当然、そんなお誘いがあったら、そいつらは闇に葬るけどね。
まず教団への潜入前に、人を使ってナウーリャ教団について色々と調べさせてみた。
やはり「もうじき世界に滅びが訪れる」などの終末思想を唱えて人々を不安にさせ、「教団に入信して神の為に働けば、死後には天国での幸福な生活が約束される」と、騙して入信させているようだ。
うん、典型的なカルト教団の手口だな。
一応病人や怪我人を治療(ただし有料)したりと、社会貢献的なことはしているが、それが無ければ完全に詐欺集団だ。
死後という確かめようのないことで、信者を働かせたり財産を寄進させたりというのは、よく考えなくても酷い話だと思う。
死後に天国に行けなかったら、誰が責任をとるのだろうか。
まあ、私ならば死後に天国や転生があることを実体験で知っているし、女神とも面識があるので、もうちょっと責任のあることを言えるけれど。
あれ? 私の方が宗教家に向いているんじゃね?
あと、王都にある教会は支部で、総本山は隣国であるクバート帝国の国境に隣接した町、サンタナにあるという。
メキシコに吹く熱風という意味の名を持つ町か……。
名前被りは偶然なんだろうけど、究極生命体でも潜んでいそうだな……というのは冗談としても、帝国と隣接しているところが気になる。
帝国のことはよく分からないけれど、そこが教団を背後から操る黒幕だということもありえるな。
なにせ帝国って、創作物では大抵悪役だし。
それとナウーリャ教団の御神体は、女神ナウーリャなんだとか。
うん、邪教決定。
私が知っているあの女神と同一の存在なのかは分からないけれど、同じだと仮定して対応するぞ。
さて、情報収集も終わったので、私も教団へ潜入してみよう。
取りあえず期間限定の仮入信をして、教団の内情を探ってみる。
で、ナウーリャ教の教会施設へ行ってみると、やっぱり建物には莫大な資金をかけられているという印象だった。
まあ、見窄らしい見た目では、外部の人間が利用しにくいというのもあるのだろうけどさ。
私だって、ボロボロで客もいないような定食屋よりも、立派な店構えで客が多い定食屋の方が、味に期待が持てて店に入りやすい。
それと同様に、ある程度は見た目を良くすることについては否定しない。
だがそれが過剰だと、少し首を傾げてしまう。
庶民には家の外観に金をかけていられるような余裕はないし、そういう庶民の生活と乖離していては、人々の心に寄り添っているとは言えないだろう。
勿論、文化財になるレベルの立派さなら、それはそれで貴重だと思うが、ここはそれほどではないという、微妙な中途半端さなんだよな……。
そして教会の中に入ると、やっぱり内装も立派だと感じるが、それ以上に──、
「シスターが多いですね……」
女子率の高さが目を引く。
ふむ……シスターばかりの施設……。
百合的なものを、期待してもいいのでしょうか?
思わずわくわくしていると、シスターの一人から声をかけられた。
30才くらいで、聖職者の割にはちょっと色気がある。
「いらっしゃいませ。
あなたは仮入信をしたいと申し込みがあった、アリセーヌさんですか?」
「はい、アリセーヌ・ルパンです。
よろしくお願いします。
回復魔法が得意なので、この力を試してみたくて来ました。
まずは10日だけですが、よろしくお願いします」
ちなみに私の姿は、幻術で少し幼くするなどの変装をしている。
特に部分的に赤い前髪は、目立つので黒く見せているよ。
「はい、私達もあなたが本格的に入信する気になるように、いいところを見せないといけませんね。
いえ、勿論普段通りの姿を、見せるだけですがね。
実際に入信してみたら、実態が違った……なんてことは無いですよー?
あ、私はこの教会の責任者の、キャロラインと申します。
分からないことがあれば、何でも聞いてください」
と、ユーモアを交えて自己紹介をしたキャロラインは、柔らかい雰囲気の女性だった。
「キャロラインさんですね。
早速ですが、思っていたよりも女性の姿が多いのですが、教団全体の傾向なのですか?」
「そうですね。
教義の中では、女性同士が仲睦まじいことは、尊いことだ──と、されています。
だから聖職に就く者も、女性が推奨されています。
いえ、男性が聖職に就けないという訳ではありませんがね」
マジで!?
つまりシスターによる百合推奨なの!?
あれ……? ここの女神って、実は善神なのでは……?
じゃあ入信するわ!
……と、一瞬思ったが、教祖とかがハーレムを作る為の方便として、女性を集めやすい教義にしている可能性もあるしな……。
ここは様子見をしよう。
「それでは、まずは我らが教義について説明したいと思うので、別室へどうぞ」
「はい、よろしくお願いします」
そんな訳で、教義についての簡単な講義を受けたが、女性を尊重するというところ以外、他の宗教でもよく聞くような話ばかりで、あまりオリジナリティーは感じなかった。
つまり何者かが他の宗教を参考にして、急遽でっちあげた教団である可能性もあるということだ。
歴史が十数年でもおかしくないな、ここ……。
それに終末思想の根拠を聞いても、
「教祖様の預言だそうです」
──としか答えは無かった。
う~ん、口ではなんとでも言えるんだよなぁ……。
やはりただのカルト教団か、それとも帝国の工作機関なのかな……?
うん、それならば、私が乗っ取ってもいいよね?
一時期持ち直していた家族の入院フラグがまた立っているので、予告なく更新を休んだ場合は察してください。