64 毒をもって毒を制す
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クラリスは麻薬中毒に陥っている母親・クリスの治療を望んだ。
しかし──、
「お母様の状態は……完治させることは難しいですね。
体内から麻薬の成分が完全に抜けて、時間が経過すれば、禁断症状もある程度は消えていくでしょう。
そうなれば、日常生活を送ることは可能です。
ただ、麻薬を使いたいという誘惑は一生続きますから、麻薬に近づけさせないように、管理を続ける必要はあるでしょう。
現在の人間関係も、全て断った方がいいかもしれません。
ですからお父様と一緒に、辺境で軟禁生活を送ってもらうのが宜しいかと……」
「そう……なのね。
まったく……馬鹿なお母様……。
なんで麻薬なんかに手を出して……」
「最終的には廃人になり、命さえ失うことになるとはいえ、最初は快感が凄いらしいですからね……。
後のことなんてどうでもいいというくらい、人生に執着が無かったのかもしれません」
その言葉を聞いて、クラリスは悲しそうな顔をした。
つまり母にとっては、娘の存在もどうでも良かったということなのだから──。
「……私、お母様に愛して欲しいとは思っていたけど、愛される努力はしてこなかったわ……。
私がそれをしていれば、お母様が麻薬に手を出すことを踏みとどまる理由にはなれたのかしら……?」
それはそうなのかもしれない。
だが、子供にそれを求めるのは酷な話だ。
ましてや親に愛されてこなかったクラリスに──。
本当ならばクラリスは、人の愛し方も知らなかったはずだ。
親から何も教わってこなかったのだから当然だが、それでも彼女は生来の善良な心を持っていた。
「姫様は、それは考えてはいけません。
親の問題は、本人が責任を持つべきことなのですから……。
それでもあなたのそういう優しいところは、奇跡的だと私は思います」
「ん……」
そして私は、クラリスを抱きしめる
彼女は甘んじてそれを受け入れ、声を上げることもなく、静かに涙を流し続けていた。
それから暫くして、クラリスは泣きやんだ。
泣いてスッキリしたのか、どうやら落ち着いたようだ。
そしてまだ床で眠っているクリスの顔を、じっと見つめながら呟く。
「考えてみたら、私もお母様の気持ちが分かるのかもしれないわね……。
私も誰にもまともに相手にされなくて、寂しくて……。
アリゼに出会わなかったら、どうなっていたのかしら……」
まあ、遅かれ早かれ、人生は詰んでいたかもねぇ……。
「それに気持ちの良い方向へ逃げてしまうのも、少し分かるような気がするわ。
私も……アリゼのマッサージが好きだし?」
クラリスは、もじもじしながらおかしなことを言う。
「え……私は麻薬扱いなんですか?」
心外である。
だが──、
「それに近い物があると思うのだけど……。
でも、害は無いのでしょう?
肌や髪の色艶が良くなるから、健康的だわ」
「え、ええ……」
そこはちょっと自信が無い。
少なくとも私に対しての、精神的依存度を高める効果はあるような気がする……。
なにせ生きた見本が目の前にいるので。
「だからお母様には、アリゼのマッサージで快感を上書きしてあげれば、いいのではないかしら?
そしてマッサージをこれからも受け続けたいのならば、もう麻薬には手を出さないことを誓ってもらうのよ!」
……なんて?
ちょっと発想がおバカ過ぎない?
「さすがに、麻薬に勝てるとは思えないのですが……」
「いいからやってみなさいよ!
経験者の私の勘では、たぶんいけると思うわ!」
「えええぇ……。
まあ……一応やってみますけど……」
そんな訳でクリスをベッドに運んで、彼女が目が覚めたらマッサージを開始する──ということにはならない。
「あの、姫様……?
部屋の外で待っていた方が……。
あまり見せるようなものではないかと……」
クラリスが部屋から出てくれないのだ。
え? 母親の痴態を見たいの?
「いいえ、私が言い出したことなのだから、最後まで見届けるわ!」
「……どうなっても知りませんよ?」
「構わないから、やってちょうだい!」
「はぁ……ではやってみますね」
まず私は、クリスにかけた睡眠の魔法を解除する。
「はっ、なにこれ!?」
しかし目覚めたクリスは動けない。
麻痺毒を注入して、身体の自由を奪っているからだ。
そんな彼女に対して、これから本気のマッサージを行う。
「ちょっと、私に何をするつもりなの!?
やめなさ──ひっ!?
あっぁ……なにこれぇ……!?」
そして室内には、クリスの嬌声が響き渡っていった。
施術後──。
「よく分かりましたわ。
もう麻薬には手を出しません。
その代わり、またあのマッサージをお願いしますね、アリゼ様ぁ……」
クリスのオーラを見る限り、その言葉には嘘は無く、完全に本心だ。
……まさか本当に麻薬に勝つとは……。
今後マッサージを使う時は、手加減した方がいいのかもしれん……。
一方クラリスは、母親の痴態を目の当たりにしたのと、それを通して自分がマッサージを受けている時の姿を客観的に知った所為か、床に転がって両手で顔を覆いながら悶えていた。
足をジタバタと動かしている。
……たぶん羞恥心で、死にたい気分になっているのだろうな。
だから「部屋の外で待っていて」って言ったのに……。
それにしてもクリスの今の姿は、マッサージの美容効果が出たのか、先程とは別人のように美しくなっている。
こんな美人が、しかも王妃様が、私を「様」付けで呼ぶほど虜になっているって……。
我ながらマッサージの威力を恐ろしいと感じつつも、悪い気はしなかった。
「これは……親子丼も狙えるのでは……?」
「何故かあの美味しい食べ物に、不穏な響きを感じたんだけどぉ!?」
あ、クラリスが正気に返った。
勘が鋭いな……。
「アリゼ、浮気は許さないからね!」
「え、ええ、勿論ですよ」
短ぇ夢だったな……。
まあ百合ハーレムも夢ではあるが、今はクラリスだけで充分幸せだしいいか。
「……だからこれからのお母様のへのマッサージは、私が担当するわね」
「ええ~っ、アリゼ様にはしていただけないのですかぁ!?」
不満げなクリス。
それにしても娘の前なのに、母親としての威厳が欠片も無いな……。
「大丈夫よ、お母様。
私もそれなりの腕だから。
今からそれを証明してあげるわ」
「ちょっと、クラリス……?
待って……あっ!?」
クラリスは母をベッドに組み伏せて、強引に施術を始めた。
母娘百合も大好物です。
いいぞ、もっとやってください。
それにちょっと特殊ではあるが、今まで希薄だった親子の絆がこれで強まるのならば、それもいいのではないか──と、鑑賞モードに入りながら思う私であった。