63 母娘の対面
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国王に面会した次の日、今度は王妃に面会することになった。
なお、王妃に対してはアポは不要で、いつでも会える。
彼女の周辺の建物や人員は、既に私の支配下だからだ。
彼女を保護する為には、必要な措置だった。
王妃クリスの居室は、王城の中ではなく庭園の離れにある。
現国王には側室はおらず、後宮という訳ではないのだが、過去にはそのような用途でも使われていたであろう建物は、なかなか大きい。
その入り口では、2人の女性騎士が守衛をしていた。
「クラリス王女殿下が、王妃と面会します」
私がそう声をかけると、騎士達は敬礼をしてドアを開けた。
「ごゆっくりどうぞ」
そして中に入ると、いくつもの扉をくぐって、奥へと進む。
王妃の部屋は、最奥とも言える場所だ。
そこに至るまでにある扉には、必ず女性騎士が控えており、そこを守っていた。
「いやに警備が厳重じゃない……?
お父様のところでも、これほどではないわよ……?」
クラリスの疑問ももっともだ。
本来ならば警備の人員は、外敵を侵入させないように外部へ──王城を囲む外壁周辺へと集中させるべきだろう。
比較的安全な外壁の内部は、歩哨程度で十分なはずだった。
しかしここに関しては、少し事情が異なる。
「これはお母様が、外へと逃げ出さないようにする為の措置ですね」
「ええぇ……どういうことなのよ……?」
クラリスは困惑が極まったかのような、複雑な表情をしていた。
王妃が逃げだそうとしているという状況って、訳が分からないよね。
「それは会ってみれば分かるかと……。
お母様の部屋に着きましたよ」
「え、ええ……」
部屋の前には、2人の侍女が控えていた。
私は彼女達に声をかけて指示を出す。
「ご苦労様です。
大変な任務でしょうが、よく頑張ってくれました。
私達は王妃様と面会しますので、暫く休んでいてもいいですよ。
この部屋には、誰も近づけないでください」
「かしこまりました」
去って行く侍女達の姿を見て、クラリスは苦笑気味だった。
「あなた、本当に偉そうねぇ……。
私よりもこの城の主っぽいわ」
「まあ……ここは必要に迫られて、他よりも優先的に支配下に置きましたので」
「それだけの事情が、お母様にあるというの?」
「はい」
クラリスは少し逡巡したが、すぐに表情を引き締める。
「……いくわよ!」
私達は部屋に入る。
直後、何者かがこちらに向かって突進してきた。
まあ、王妃クリスなんですけどね。
私が「結界」の壁を作るとクリスはそれに衝突して倒れるが、すぐ起き出して壁にすがりついて喚き出す。
「お願い、ここから出してよっ!
そしてお薬を頂戴っ!
早くっ、もう我慢できないのっ!!」
痩せ細り、目に隈を作り、ボサボサの髪を振り乱すクリスの姿は、山姥なにかのようだ。
この姿を見て、王妃だと思う者は殆ど存在しないだろう。
実の娘のクラリスでさえ、目の前の人物が一瞬誰なのか分からなかったようで、混乱している。
「なななななななななな──なぁっ!?」
ちょっとショッキング過ぎたかな……。
取りあえずクラリスを落ち着かせる為にも、狂乱しているクリスには眠ってもらおう。
「さあ、お眠りなさい」
眠りの魔法をかけると、クリスはあっさりと地面に倒れ伏した。
その後は重い静寂──。
事態についていけないクラリスは、どういう反応をしていいのか分からなかったようだが、やがて──、
「なんなのよ、これぇっ!?」
絶叫を上げた。
「どういうことよ、これっ!?
あなた、お母様はお父様よりもマシって言っていたじゃないっ!?」
クリスの状態は、国王よりも酷く見えるよね。
私だってそう思う。
ただし──、
「国王みたいに無駄に権力を持っていないので、国政への影響が少ないのと、まだ後戻りができるといういう意味ではマシなんですよ……これでも……」
──という訳なのだ。
「一体、お母様に何があったというの……?」
「麻薬中毒のようです。
さっきの姿は、禁断症状の結果ですね。
そしてお母様を、これ以上麻薬に近づけないようにする為に、ここに監禁していた……という訳です」
「麻薬!?
なんでまたそんな……っ!?」
「う~ん……それを実の娘の姫様に話すのは、少々憚られる内容なのですが……」
「いいから話しなさいよ……」
「……そうですか?
では、かいつまんで……」
何故クリスがこんな状態になってしまったのか──その理由については、彼女の周囲で働いていた者達や、クリス本人の証言によると、こういうことらしい。
クリスと国王ダグラスとの結婚は、家同士が決めた婚姻であり、本人達が望んだものではなかった。
だから結婚後も、お互いに愛情を持つことができなかったそうだ。
結果、義務として跡継ぎのクラリスを生んだ後は、性的交渉も全くなかったという。
そしてクリスは、娘に対しても愛情を持つことができなかった。
むしろ愛情に飢えていた彼女は、貴族の男などを寝所に連れ込んで、浮気を繰り返していたらしい。
そしてその連れ込んだ男の一人が、麻薬を持ち込んだ──と。
麻薬を使いながら性行為をすると、快感が何倍にもなるというからね。
しかし一度それに手を出してしまえば、もう抜け出せなくなる。
麻薬には当然依存性があり、それを使い続けなければ、禁断症状で苦しむ。
しかも副作用がある為、使えば使うほど廃人へと近づいて行く悪魔の薬だ。
その凶悪さは魔法の力を使って作られている為、私の前世の世界にあった物と同等か、それ以上のものであるらしい。
故に私が強制的にクリスを監禁して、麻薬から遠ざけていなければ、今頃はどうなっていたことか……。
「そんな……っ!
私を捨て置いて、こんな……。
馬鹿なのっ!?」
一通り話を聞いて、クラリスは吐き捨てた。
母・クリスの所業は、親としてどころか人間としても失格なのだから、彼女のことを軽蔑するのは当然だと言える。
それでも──、
「アリゼ……お母様を治すことはできないの?」
クラリスは優しい子だ。
どんなに母親を軽蔑していても、まだ見捨ててはいなかった。
初期の案では、国王夫妻はさっさと毒殺されて終わりでした。ただ、それだと娘のクラリスが可愛そうかな……と思い直した結果、もっと酷い扱いに……?(笑)
ちなみに王妃の「クリス」という名前は、姉が「セリス」だから1文字変えただけなんだけど、結果的にもう1文字足すと「クラリス」になるというのは、「クリス」という名前を決めてから気付いた偶然。