57 お仕置き
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やっハロ~、アリゼだよぉ!
みんな元気かなぁ?
私は元気だよぉ。
……うん、年齢も考えずに無理をした。
ちょっと看過できない問題を処理する為に今は大変な時なので、少し気分を変えたくてテンションを上げようかと……。
それというのもクラリスの学院視察の際に、護衛に付いていた騎士のギブト・クランツに、重大な問題があったからだ。
どうも彼は、特権階級にいる自身に過剰な誇りを持ち、選民意識も強いようである。
まあこういう人間だからこそ、私が騎士団に手を回して指名をし、クラリスの護衛に付けたのだがね。
で、ギブトにノルン学院の実態を見せたら、案の定勝手に危機感を募らせて、騎士団長への報告ではまるで学院が犯罪組織の拠点であるかのごとく報告していた。
全く馬鹿な奴だ。
あの学院は王女がこれから成そうとしている国家改革事業の、謂わばモデルケースとなる。
それに敵対するってことは、反逆罪に問われてもおかしくないんだけどなぁ……。
まあその辺については、事前に騎士団長に伝えておいたので、彼がギブトの報告を聞き入れることはなかったが。
「ね、彼のような存在は、国益にはならないでしょう?」
私は騎士団長の影に潜んで、一部始終を見ていた。
そしてギブトが退室した直後に姿を現して、団長に告げる。
「その……ようだな」
部下の不始末を咎められた団長の顔色は、すこぶる悪かった。
実際、部下から反逆者が出てしまえば、彼にも責任問題が降りかかりかねない。
ただしこの件については、私が直々に処理するので、団長が責任に問われることはないのだが、それでも気分のいいものではないのだろう。
「では……お約束通り、彼の処遇については私に任せてもらいましょうか。
おそらく彼はこれから仲間を集めて、学院に対してのテロ行為を画策することでしょう。
ついでですから、不穏分子のあぶり出しにも利用させてもらいます。
これは姫様のご意向でもあります」
団長には事前に、ギブトが学院に対してどのような反応をするのか、それを予想して伝えておいた。
そして彼が大人しくしているのならばそれでよし、だが万が一学院に対して敵意を向けるのならば、容赦しない──と。
そしてクラリス王女の名前を出されたら、団長には逆らいようがない。
「分かった……好きにしてくれ。
だが、なるべく穏便に頼む……」
「ええ……。
団長殿には、ご迷惑はおかけしませんよ」
そして私は団長室から転移し、ギブトの監視体制に入る。
ギブトは学院が危険な存在だと騎士団内で吹聴し、仲間を募った。
まあ、彼に同調する者はそんなに多くはなかったが、確実に存在する。
おそらく自らよりも優れた者達の出現によって、自分達が支配される側になってしまうという、思い込みがあるのだろうね。
まあ実際にそういうことが起こる可能性も否定はできないのだけど、たぶん獣人に対する差別もそんな疑心暗鬼から生まれてきたのだと思う。
私の周囲の獣人達は、みんな優秀だし。
ともかくギブトに同調して危険だと判断した者については、後で私が直接戸別訪問するなどして、説得する予定である。
で、ある程度不穏分子のリストができたら、もうギブトは用済みなので、彼が催した集会に乗り込んで潰すことにしよう。
待ってたぜぇ、この瞬間をよぉ!
「私に敵対しない……彼の判断は正しいですよ?」
「なあっ!?」
突然現れた私の姿に、室内にいた全員は混乱していた。
でも、私は最初からいましたよ?
ギブトの影の中に。
「お……お前、あの学院の……!」
ギブトはちゃんと私の顔を覚えていたようだ。
いや、今も忘れているのだろうが。
「はい、院長のアリゼでございます。
ここがクラリス王女殿下へ、反逆を企てる者達の集会ですね?」
「!!」
ギブト達の顔色が変わる。
私が指摘したことが表沙汰になれば、彼らは社会的に死ぬ。
最悪の場合は、物理的にも死ぬ。
冷静でいられるはずがない。
「あ、私の怖さがよく分かっているあなたは、帰ってもいいですよ。
あなたは巻き込まれただけのようですし、学院には敵対しないですよね?」
「も、勿論だ!」
「でも、あまり余計なことは喋らないように」
「は、はいっ!」
なんだかよく分からずにこの集会に参加した男は、学院へ敵対する意思は無い。
それはオーラの色からも分かる。
むしろここが学院への敵対行為を企てる集会だと知って、半ば絶望していたくらいだし、彼はこのまま帰しても問題はない。
それどころか、学院がアンタッチャブルな存在であることを、わざわざ説明してくれてありがとう……って感じだ。
そんな男が部屋から出て行こうとすると、他の者達が止めようと動き出す。
だが──、
「あなた達にはこれからお仕置きがあるので、大人しくしていてください」
「「「なぁっ!?」」」
男達の動きは、蜘蛛糸で封じる。
そして全員に、激痛が延々と続く効果のある毒を、たっぷり注入してあげた。
「があああああっ!?」
「痛い痛い痛いっ!?」
「痛そうですねぇ……。
でも死にはしませんよ。
ただし、私が治療しない限り、その痛みは絶対に消えませんが」
「何ぃっ!?」
男達の顔に、絶望の色が浮かぶ。
「だから心から反省して、私や姫様、そして学院の関係者には二度と逆らわないと誓ってください。
そうすれば、治療してあげますよ?」
「わ、分かった。
俺が悪かった!!
だから、許してくれっ!!」
ギブトがいきなり折れる。
はえーな、おい。
だが、痛みから逃れたいだけで、本心からの言葉ではないことは、オーラの色から丸分かりなんだよ。
「駄目ですね。
嘘はすぐ分かります」
「そ、そんな、ぎゃああああああああっ!!」
そんなやりとりを数度繰り返したら、あとは簡単だった。
嘘が通じないと理解した者達は、本心から反省できるように、必死で努力した。
努力しないと反省できないというのはちょっと問題だが、まあ心の底から私の怖さが理解できたのならばいい。
もう二度と敵対しないことを誓えば、この件は許してやろう。
そう、この件だけは……ね。
こいつらに対するお仕置きは、本当の目的のオマケみたいなものだ。