52 勝利者へのご褒美
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うわ、タヌキ強い。
獣人ならば元々高い身体能力を鍛えた方が手っ取り早く強くなれるのだが、それにも関わらずあえて魔法能力も鍛えることで、コロロは総合的な能力を高くすることに成功しているようだ。
事実、彼女は魔法主体で戦いながらも、奥の手の身体強化による格闘術によって、カーシャを完封した。
勿論これは、才能が足りないと器用貧乏に陥りかねない上に、成長にも時間はかかる。
なので魔法か格闘術のどちらかを集中的に鍛えた方が強くなれる可能性もあるが、コロロの場合はバランス良く理想的な成長を遂げていると言えるだろう。
もしかするとレイチェルを除けば、うちの子供達の中での最強はコロロかもしれんな。
実際、ただでさえ高い獣人の身体能力に加えて身体強化も使いこなし、更に魔法攻撃も併せ持っているとか、結構やべーぞこの幼女。
それはクラリスの護衛をしている者達の、顔色の悪さが証明している。
おそらく彼らでも、コロロと戦えば苦戦──もしくは敗北するという、そんな想いが拭いきれないのだろう。
更にコロロほどではなくても、そこそこ戦える子供は我が学院には多数存在する。
傍目に見たら、暗殺者の養成機関に見えるかもねぇ……。
ともかくそんな強敵を相手に、まだ新人のカーシャはよく戦った方だと思う。
ただ、少なからずケガをしているので、治療の為に私は席を離れる。
あ、クラリスもついてきた。
カーシャが心配なのだろう。
「カーシャ、大丈夫!?」
「ああ……クラリスか。
まさか王女様だとは思っていなかった。
色々と無礼なことして、ごめんな」
「いいのよ。
それよりも今の試合、格好良かったわよ。
もっと強くなったら、私の親衛隊にしてあげるわ!」
「マジで……?」
「うん!」
「じゃあ、もっと頑張るよ……」
微笑ましい友情である。
「そういうことなら今度ダンジョンへ、カーシャさんも連れて行ったらどうですか、姫様?」
「ああ、そうね。
あそこなら鍛えられるわ」
「え、え?
なんの話?」
事情が飲み込めないカーシャは、困惑している。
でもクラリス親衛隊候補の彼女ならば、今から鍛えておいた方がいいので、この話は彼女にとっても渡りに船だろう。
まあ、カーシャは今回の試合で頑張ったので、そのご褒美みたいなものだ。
というかこの武道大会の参加者には、最低でも参加賞として何かしらのご褒美は与えるつもりだったけどね。
「コロロさんも何か希望はありますか?
ご褒美をあげますよ?」
「あ……そういうことなら、私もダンジョンに行ってみたいぽん」
おや、ダンジョンの話を聞いていたのか。
まあ、コロロには聞かれても構わないつもりで話していたが。
逆に護衛達には、クラリスがダンジョンに出入りしていることを知られるとマズイので、魔法で妨害している。
彼らには私達の会話は、風の音で聞きにくくなっているはずだ。
いずれにしてもコロロは将来有望そうなので、自らダンジョンでの修行を望むのなら、こちらとしても願ったり叶ったりだ。
彼女もクラリスの側近候補として、期待できるだろう。
「いいですよ、あなたも鍛え甲斐がありそうです」
「やったぽん!」
……その語尾、あざといな。
ともかく、未来の宮廷魔術師をゲットだぜ?
「それはさておきコロロさん、あなたは次の試合には出られますか?
もう魔力は殆ど残っていないでしょう?」
「あ……はい、棄権しようと思っていたぽん」
「えっ!?」
コロロの言葉に、カーシャは驚きの声を上げた。
「つまりカーシャさんは、コロロさんをあと一歩のところまで追い詰めていたのですよ。
その成長には目を見張るものがありますね」
「そうだったんだ……!」
手応えを感じたのか、カーシャは自分の握りこぶしを見つめて微笑んだ。
実際、まだ身体強化を使えないのに、あれだけ動けるのは凄いと思う。
「コロロが棄権するのならば、2回戦にはカーシャが進んでもいいのですが……。
どうしますか?」
「やったじゃない、カーシャ!」
クラリスは喜んだが、当のカーシャは首を振った。
「いや……あたしの実力不足はよく分かったから、やめておくよ……。
レイチェルと戦って、勝負になるとは思えないし……」
「あら……私が勝てないという前提なの?」
カーシャの言葉に、クラリスは頬を膨らませた。
いやまて、お前はあのレイチェルに勝つつもりなのか?
パラメータは全盛期ほどではないけど、Sランク冒険者レイ・ヤナミアのほぼ全てのスキルと戦闘経験を受け継いでいるんだぞ?
「いや、あのレイチェルに勝てるのなら、どのみちあたしじゃ勝負にはならないよ」
ですね。
カーシャは自分の能力を、正確に把握している。
こういう弁えている子は、実戦でも生き残るタイプだろう。
しかしコロロもカーシャも棄権となると、レイチェルとクラリスの試合で勝った方が、更に不戦勝で決勝進出ってことになる。
じゃあ決勝戦の相手はリチアかケシィーの、どちらかということになるのだろうな。
……と思っていたのだけど、リチアに勝利したケシィーは体力を使い切ったということで棄権した為、リチアが決勝進出することになった──はずだったのだが、彼女もケシィーと同じ理由で辞退することになる。
結局、レイチェルとクラリスの試合が、実質的な決勝戦となった訳だ。
次回は明後日更新の予定です。