51 トカゲ対タヌキ
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あたしはトカゲ型獣人のカーシャ・ノルン。
最近、名字を貰った。
あたしに家族はいなかったけど、「これからはこのノルン学院全体が家族です」と、院長は言っていた。
勿論、名乗る名乗らないは自由らしいけれど、あたしは誇りを持ってこの「ノルン」という名字を名乗っていこうと思う。
それだけこの学院での生活は充実しているし、みんな大好きだ。
この学院に入る切っ掛けをくれたクラリスには、感謝だな。
あいつ、今何をしているのかなぁ……。
元気にしているのだろうか?
そしてあたしが学院に来てから3ヶ月ほどが経過した頃、ついに王女が学院を視察しに来る日が決まった。
その日には御前試合が開かれる。
あたしはそれに参加して、リチアの姉御に教えてもらった剣術の腕を試してみるつもりだ!
あたしは試合に万全の状態で挑めるように、更に修練に力を入れた。
年下なのに既に凄い能力を持っているレイチェルを見ていると、ちょっと自信を無くしそうだったけど、あたしはあたしにできることを頑張るだけだ。
そして御前試合の当日、ついに王女が学院にくる。
まあ、正直言って今まであたしらを助けてくれなかった王族に対しては、あまりいいイメージは無いけれど、この王女様はここに視察に来るくらいだから、孤児の問題に対して興味を持っているのだろう。
だから多少はマシな奴だと期待したい。
……って、学院に来た王女様の顔を見て、あたしは愕然とした。
「え……?」
あれえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?
クラリスじゃん!?
え? あいつ王女様だったの!?
王女様が、なんで貧民街にいて、売られそうになっていたんだよっ!?
一体あいつに、何があったんだ……?
でもこれであたしが、特別に学院への入学を許された理由が分かった。
そりゃ、王女様を助けたら、これくらいの配慮がされるのも当然か。
あ……一緒にいる院長が、こっちを指さしている。
おいクラリス、こっちに向かって手を振るな!
王女様の知り合いだと思われたら、変な風に目立つだろ!?
実際、この後は皆から質問攻めにあった。
これからの試合に、集中したかったのにぃ~!
そしていよいよあたしの試合が、始まろうとしている。
しかしリチアの姉御や院長のところのメイドの後だと、なんだかやりにくいな……。
あたし……あんなに凄い戦いはできない……。
その上、この後にはクラリスとレイチェルの試合もある。
あたしごときが参加して、本当に良かったのか……という気持ちだ。
だけどまあ……全力でやるしかないな。
あたしの対戦相手は、コロロ・タマラという、タヌキ型獣人の女の子だ。
確か先輩のはずだけど、身体はあたしよりもかなり小さい。
武器も持っていないし、あまり強そうに見えないな……。
──と、思っていたら、
「ポン!」
突き出されたコロロの掌から、火の玉が飛び出した。
それがあたしに向かって飛んでくる。
「わっ、魔法か!?」
あたしは、慌ててその火の玉を躱す。
魔法は学院でも教えているけど、あたしはまだ魔力の存在を感知できるようになったばかりだ。
先輩の中には魔法を発動できる段階になっている人もいたが、実戦で使われるのを見るのは当然初めてだった。
「ポン、ポン!」
コロロは更に連続で火の玉を撃ち出してくる。
火の玉のスピードは結構速いけど、躱せないほどではない。
というか、その気の抜ける掛け声はやめてくれないかなぁ……。
いや、それも油断を誘う為にやっているのだろうか?
とにかく、火の玉は躱せる。
ならばあたしは、火の玉を躱しながらコロロに肉薄し、斬撃を打ち込んでやる!
「っ!?」
しかしあたしの剣は、コロロに直撃する寸前で止まった。
院長が介入した?
「院長、決着ですか!?」
「いえ、私はまだ介入していません。
あれはコロロ選手自前の『結界』です」
こいつ、防御魔法も使えるのか!?
いずれにしても、試合はまだ終わっていない。
だがあたしの剣は、コロロの魔法で止められたままだ。
「ポン!」
その隙を狙って、コロロは火の玉を撃ち出した。
この至近距離で撃たれたら、躱しきれ──、
「熱いっ!?」
なんとも言えない痛みが、あたしを襲う。
だけど動けなくなるほどじゃない。
あたしに直撃しそうだった火の玉を、尻尾で弾き飛ばしたからだ。
「!?」
これにはコロロも予想外だったらしく、一瞬硬直する。
そこを狙って、あたしは斬撃を何度も打ち込んだ。
それをコロロは防御魔法で止めるが、反撃する余裕は無いようだ。
このまま押し切るっ!
コロロにはもう反撃の手段は無いはずだし、このまま防御魔法を使わせ続けていけば、いつかは魔力切れになるだろう。
だが──、
「なっ!?」
あたしの斬撃が、空を切る。
魔力が切れて防御ができなかった?
いや、違う。
それならば、あたしの斬撃はコロロに当たることになっていただろうし、その場合は院長が介入したはずだ。
これはコロロ自身の身のこなしで、あたしの斬撃を躱したのだ。
それに気付いた次の瞬間には、あたしは地面に叩きつけられていた。
「ぐはっ!!」
なんだ!?
投げ飛ばされた!?
呆然としているあたしに、コロロは掌を向けて、
「魔法が使えるのなら、魔力による身体強化だってできるぽん。
その気になれば、格闘術だけでも戦えたぽん」
そう告げた。
あ……この状態から、火の玉を撃ち込まれたら、避けようがないや……。
この人、あたしとは格が違う……!
「……参りました」
結局……勝てなかった。
勝てなかったけど、あたしにも身体強化を使えれば、また違った結果になっていたかもしれない。
そんな課題が見えたのは、収穫だと思う。
あたしは……まだまだ強くなれる……はずだ。
次の機会があったら、絶対に勝ってやる!