48 対戦カード
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さて、ついに第1回クラリス杯・学院一武道大会の開始である。
試合はグラウンドの真ん中に描いた正方形の中で行われ、ここから出たら場外負けとなる。
他には自ら戦意の喪失を申告すれば負けとなるが、それ以外だと全て私の判定で決まる。
さすがに子供達に対しては、大怪我は勿論、命に関わるような目に遭わせる訳にはいかないので、私が危険だと判断した場合は、即「結界」を使って介入することになっているのだ。
例えば剣での攻撃が、相手の致命傷になる部位に直撃しそうになった時などが、その基準となる。
その場合、私に介入させた方が勝者と判定される訳だ。
つまり、一撃で相手を戦闘不能にするような攻撃を繰り出すことができれば、私の「結界」に阻まれて直撃しなかったとしても、その時点で勝ちとなる。
昔の格闘ゲームには、急所に当たれば一撃で勝敗が決まるというものがあったけど、実際に真剣や魔法の攻撃は直撃すれば即死も有り得るので、そういうノリの試合だと思っていただければいい。
まあ、私の回復魔法もあるので、多少の怪我ならば介入しないけどね。
ともかく私とシシルナは試合場の前に設置された席に座り、シシルナが実況、私が解説と審判をすることになっている。
声は私の魔法でグラウンド全体に届くようになっているので、グラウンド内にいれば音声だけである程度試合の状況が把握できるはずだ。
ちなみにクラリスがいる貴賓席は、私達のすぐ横にある。
「それでは参加者の紹介と、対戦の組み合わせを発表しましょう。
組み合わせはクジにて決められています。
まずは第1試合。
優勝候補のリチア・トラーフは、元Aランク冒険者です。
対するは私の妹、キャスカ・パルナ!」
言わずと知れたリチアは優勝候補だな。
正直言って子供達の中に彼女が入るのは反則だが、元戦闘のプロとの実力差を知るのも勉強だと思うので、これはこれで良しとしよう。
まあ、他にも反則じみた存在がいるしな……。
そしてシシルナの妹であるキャスカは、今年で11才。
かつて誘拐されたところをリチアに救出されて以来、彼女が憧れの存在らしく、剣を学んだり髪を短くしたりと、小さなリチアという感じに育っている。
そんな2人の対決は、ある意味宿命の戦いって印象だ。
「第2試合は、院長専属のメイドさん、ケシィー・ブラウン。
その実力は謎に包まれています。
そして学院の生徒からはタマリ・ジョウル。
最近、急成長していると噂ですね」
ケシィーは参加人数が足りなかったので、私がねじ込んだ。
勿論、それなりの実力があると判断してのことだ。
そんな訳で、タマリ君にはちょっと悪いと思っている。
「第3試合は学院の生徒同士の対決です。
まだ学院に来てから3ヵ月そこそこの新人、カーシャ・ノルンと、3年目のコロロ・タマラです。
奇しくも獣人同士の対決になります」
カーシャはクラリスが王女だと知って、多少の戸惑いを見せていたが、今は落ち着いているようだな。
なんとかクラリスにいいところを見せて、騎士採用の切っ掛けにしてもらいたいものだ。
ちなみに「ノルン」という姓は、孤児には出自不明の子が多い為、そういう子の為に与えている。
いずれは「ノルン」一族は、人々から尊敬の目で見られるような存在になる──といいなぁ……。
一方のコロロは、タヌキ型獣人の女の子で、カーシャよりも年上のはずだが、身長は頭1つ分くらい低くて可愛い。
外見上では戦闘力など無いように見えるけど、そんな娘が参加するからには意味がある。
それにしても元赤いキツネの私としては、タヌキにはちょっと思うところがある。
いつか緑色のタヌキがライバルとして登場するのかと思っていたが、そんなことは無かったよ……。
「そして第4試合は、優勝候補の大本命!!
受け継がれし覇王の卵、レイチェル・キンガリー!!
まだ3歳ですが、言わずと知れた院長の娘さんです。
これだけで最早説明はいらないでしょう。
対戦相手は──おおっと、棄権、棄権です!!
はやくもレイチェル選手の不戦勝が決定しました。
だがこれは無理もない。
本人の名誉の為に、名前は伏せておきましょう」
「……まあ、戦力差を考えれば悪くない判断ですね。
我が子ながら生徒が相手では、やり過ぎてしまわないかと少々危険を感じます。
ただ私がいる限り、死者は絶対に出しませんので、だからこそ怪我を恐れずに、挑戦して欲しかったという気持ちもありますね。
今から飛び入り参加を受け付けてもいいですよ?」
しかし誰も手を上げない。
さすがに勝ち目の無い戦いをしたがる子はいないか。
いや──、
「はい!」
クラリスが手を上げている。
あーあー、聞こえない、聞こえなーい!
私は耳を塞いで聞こえないふりをした。
「はい! 私がレイチェルとやるわ!」
だが、再びクラリスは宣言する。
もう会場全体に聞こえるような大声で。
「姫様、お考え直しください!」
護衛達が止めようとしているが、まあ無理だろうな……。
あの子、変なところで頑固だもの。
「私が1度言ったことを、安易に翻せっていうの!?
そんな無責任なことはできないわ!」
「し、しかし!」
「くどい!」
ほらね……。
「……分かりました。
参加を認めましょう。
ただし、姫様に怪我をさせる訳にはいかないので、危なくなったら即私が介入しますよ?」
「それでいいわ。
私がどれだけ強くなったか、改めて見せてあげるわよ、師匠!」
クラリスの言葉に周囲の者達は怪訝な表情をしたが、私にはその意味が分かる。
彼女は私に成長したところを見せたいのだな。
それにしても「師匠」か……。
可愛いことを言ってくれるじゃないか。
だがクラリスの相手は、我が愛娘のレイチェルだ。
どちらを応援するべきか、ちょっと悩むな……。
家族の再入院フラグが立っているので、予告なく更新を休んだ場合は察してください。