43 私の好きな人
ブックマーク・☆での評価・感想をありがとうございました!
今回は部分的にこれまでのあらすじです。
私はクラリス・ドーラ・ローラント。
最近好きな人ができた。
たぶん生まれて初めてのことね。
その人の名はアリゼ。
私よりも5才くらい年上に見える美女で、綺麗な黒髪なのに前髪の一部だけ赤いという、目立つ容姿をしている。
あと胸が凄く大きくて、それは私の憧れでもある。
アリゼは私の侍女だけど、実際には王女の私よりも強い権力を持っていると思う。
もうこの国は半分、彼女の手中に落ちている。
そしてこの国を完全に支配する為の最後の一手が、どうやら私の存在であるようだ。
つまり私を傀儡にして、アリゼが裏からこの国を支配するということね。
ただ私は、その為の道具にされていると感じたことはない。
何故ならばアリゼは、私に女王としての自覚と能力をしっかりと教え込もうとしているからだ。
裏から操るだけならば能力はともかく、女王の自覚なんてものは必要ないと思うの。
むしろ邪魔になるのではないかしら?
だからアリゼが私に求めている役割は、傀儡ではなくパートナーなのではないかと私は理解している。
たぶん私とアリゼが2人揃って1つの役割を演じる──たとえるならば、表の女王と裏の女王としてこの国を一緒に統治していくのが、アリゼが描いている計画なのだろう。
そのことに不満は無い。
私は苦しんでいる民衆を助けたいという目標を手に入れたから、それが叶うのならアリゼの意図がどうあれ、その思惑に乗って利用されてあげるわ。
……最初は、それだけの関係だったのだと思う。
でもいつからだろう……?
私のアリゼへの気持ちが、変化してきたのは……。
アリゼには色々と酷い目に遭わされたわ。
貧民街に放置されたり、ダンジョンで魔物と戦わされたあげく、倒した死体の処理をさせられたり……。
でも不思議と、一緒にいる時は安心感があった。
アリゼは強くてなんでもできたから、彼女の側にいれば何があっても上手くいくと思えたのよね。
それに完璧なようでいて、実は可愛いところがあって、いつの間にかそういう顔をもっと見たいと思うようになっていた。
……あと、あのマッサージの味を知ってしまったら、もうアリゼのことは手放せないわね……うん。
そしてアリゼを想うこの気持ちが、どんどん膨らんでいったのよ。
夜はアリゼがいないから凄く寂しくなってしまい、朝まで彼女のことばかり考えていた……ということもあったわ。
その所為でアリゼへの気持ちがもっと大きくなってしまい、それが抑えられなくなった時、私は彼女に「一緒に暮らしましょう」と提案したの。
アリゼだって私のことは必要としていたし、好いてくれているという自負もあったからね。
……しかし、アリゼの答えは衝撃的だった。
まさか娘がいたなんて……!
それって、男の人とすることはしたってことなのよね……?
私の身体を、あんなに弄んでおきながら……!
そう思うと心がグチャグチャになってしまって、つい寝室に逃げ込んでしまったわ。
アリゼはすぐに追いかけてきてくれたけれど、私の思いを受け入れてくれないのなら、顔も見たくなかった。
アリゼからハッキリとした拒絶の言葉を聞くのが、怖かったのよ……。
だけどアリゼは、彼女の秘密を教えてくれた。
彼女が語った話の内容は、私の想像をはるかに超えるようなことばかりだったわ。
前世の記憶を持って、別の世界からこの世界に生まれてきたということ。
その際に女神と会っているということ。
最初はキツネとして生まれたけど、能力に目覚めて、次々と身体を乗り換えたこと。
何年も世界を彷徨って、ようやく人間の町に辿り着いたこと。
そこで領主に殺されかけていた少女・レイチェルの身体を受け継ぎ、領主と奴隷商に復讐したこと。
そのレイチェルが、実は私の従姉妹だったということ。
奴隷商のところから救い出した獣人の娘と、2年ほど山の中に潜伏していたこと。
その後、クラサンドの町へ行って、冒険者になったこと。
そして以前ゴブリンから助けたことがある少女と、パーティーを組んだこと。
ダンジョンを攻略しつつお金を稼いで、家を買ったこと。
その家に妖精が住んでいたこと。
魔族の出現と、激しい戦い──。
町を救った英雄になったはずなのに、領主殺害の容疑によって追い詰められたこと。
再び腐った貴族の姿を見て、子供を犠牲にするような貴族や奴隷商を滅ぼす──と、決めたこと。
やむを得ずレイチェルの身体を捨て、仲間と会えなくなってしまったこと。
貴族達と戦い続けた末に、この国自体を変えないと根本的な問題の解決にはならないと気付き、腰を据えて取り組むことにしたこと。
そしてアリゼの身体を手に入れたが、その時には既に妊娠していたこと。
出産準備と並行して学院を作り、孤児を救済することにしたが、国の改革にまでは手が回らなくなったので、それは後回しにしたこと。
スキルの影響でレイチェルが娘として復活し、そんな娘とはある程度の記憶を共有しているということ。
子育てがある程度終わり、学院も軌道に乗ったので、計画を再始動させたこと。
そして私に出会う──。
壮大な物語のような話だった。
とても現実の話だとは思えないような部分も多かったけれど、貴族や奴隷商との戦いは、オーラント公爵に聞いた話とも合致するわね。
暗殺者の姿の目撃証言がバラバラだったのも、アリゼの「乗っ取り」の能力を知った今となっては、納得できることだ。
だけどこれが全部事実なのだとしたら、アリゼはそもそも人間ではないってこと?
今の姿だって、本当の姿だとは言えないのかもしれないし……。
でも、だからこそ──。
アリゼは話をしている途中から、段々元気が無くなっていった。
そして今も、凄く不安そうな顔をしている。
アリゼは特殊な存在だ。
同族と呼べる仲間は、おそらくこの世界には存在しないのでしょうね。
だから彼女の理解者はこの世界には殆どいない。
たぶん本当に彼女のことを理解できるのは、記憶を共有しているという娘だけだ。
そういう意味では、アリゼは孤独なんだ。
きっと彼女は、私に拒絶されることを恐れているんだわ。
私と同じ気持ちだったということね。
でも私に秘密を話してくれたということは、私のことを信頼もしているということよね?
私が受け入れてくれることを、アリゼは期待しているんだ!
「なるほど、話はよく分かった……とは言えないけど、アリゼに特別な男の人がいないということだけは分かったわ!
ならば問題無いじゃない!
私と一緒に暮らしましょう!
娘だって、連れてきてもいいわ」
私の言葉を聞いて、アリゼは目を見開いた。
そしてそこから、涙が溢れ出す。
「ちょ、ちょ、ちょっとぉ!?
どうしたのよ!?」
まさかアリゼが泣くとは思っていなかったので、私の方が動揺してしまった。
「いえ……嬉しくて……。
期待はしていましたが、本当にこんな訳の分からない存在の私を受け入れてくれるとは……。
本当に姫様は、大物ですねぇ……」
「当然じゃない。
私を誰だと思ってるのよ。
あなたのような特別な存在を側に置くことに優越感を持つことはあっても、拒絶するなんてことは有り得ないわ!」
「姫様……!
よかった……よかったよぉ……」
アリゼが更に感涙する。
意外とこいつ、泣き虫なのねぇ……。
もう1つアリゼの秘密を知っちゃったわ。




