42 修羅場と真実
ブックマーク・☆での評価・感想をありがとうございました!
おかげさまで総合評価が3000ポイントを突破しました。感謝の極み。
クラリスが勘違いしているようなので、訂正しておく。
「いえ……結婚はしていませんよ。
娘の父親が誰なのかも、分かりませんし……」
「え……どういうことなの?」
クラリスはまだ男女の機微には疎く、結婚もしていないのに子供がいる状態というのが、いまいちよく理解できていないようだ。
だからあまり公にできないような理由についても、彼女が察してくれるということはないだろう。
大人なら人生には色々なことがあるから、何か深い事情があるのだろう──と、深く追求してこないことが多いのだが、そういうのはまだクラリスには期待できそうにない。
「え……と……なんと説明して良いものか……」
果たしてこの身体が、不特定多数の男性と関係があったとかいう事実を、話していいものなのだろうか……?
私自身が関与していないことだとはいえ、アリゼとしては不名誉な過去なので、話したくはないのだ。
しかしその曖昧な態度がいけなかったのかもしれない。
クラリスは悪い方へ悪い方へと想像を膨らませたのか、その目に涙を浮かべ始める。
そんなクラリスが発するオーラの色は、嫉妬と羞恥と怒りと……恐怖?
とにかく様々な感情の色が入り混じっており、混乱しているようだった。
そして彼女は爆発する。
「私にあんなことまでしておいて、男の人とだなんてっ!!
アリゼのバカっ!」
うん、マッサージと生理用品の使い方を教えただけだよね?
誤解を招く……のかどうかはちょっと微妙だが、言い方は気をつけてもらいたい。
でもクラリスにとっては、恋愛感情を意識するほどのことだったのだろうな……。
「あっ……!」
クラリスは涙を手の甲で拭いつつ私に背を向けて、そのまま寝室に飛び込んだ。
ドアには鍵がかけられていて、そこから入ることはできなくなっている。
まあ、転移魔法で入れるんですけどね。
「あの……姫様……。
色々と誤解……とも言えませんが事情もあるのです」
「入ってこないでよ!?
言い訳なんか聞きたくないわ!」
クラリスはベッドの上で、羽毛ベッドカバーを頭から被って叫んだ。
顔も見せてくれない。
そして小さく嗚咽が漏れてくる。
たぶん今のクラリスは、失恋したような気分になっているのだろうな……。
彼女のオーラの中に見えた「恐怖」の色は、おそらく私が誰かに盗られてしまうということを恐れてのことだろう。
私自身は特段の理由もなくクラリスから離れるつもりは無いし、彼女と恋仲になる選択肢もあるとは思っているのだが、それをそのまま言っても納得してくれるのだろうか……?
う~ん……。
このままクラリスに、勘違いされたままというのも嫌だな……。
思っていた以上に、私もクラリスのことが気に入っていたらしい。
よし、もう全部ぶっちゃけるか。
どのみちクラリスが私のパートナーになることを望むのならば、いつかは話さなければならなくなることだろう。
もう隠しごとは無しだ。
いや、元男ということだけは、墓の中まで持って行く秘密だが。
こればかりは誰にも話すつもりはない。
この世界の私は、あくまでも女性なので。
ともかく私も勇気を出して、一歩踏み出そう。
場合によってはクラリスから拒絶されることになるかもしれないが、私は彼女を信じる。
「姫様……誰にも話したことがない、私の秘密を教えてあげましょうか?」
「え……?
秘密……?」
クラリスがベッドカバーの中から頭を出して、こちらを見た。
それだけ興味があるということなのだろう。
「私がこの世界に生まれてから、実はまだ12~13年しか経っていません。
姫様とほぼ同い年ですね」
「ええ……どういうことよ……?
あなた、どう見ても私よりも年上じゃない……」
クラリスは不審げな視線を向けてきた。
これから私が話すことは、全部正気を疑われるようなことばかりだしなぁ……。
「最初から話したいと思いますが、信じられないようなことばかりですよ?
それでも聞きますか?」
「信じられないようなことばかりなのは、今更だと思うんだけど……」
「そうですね」
それには苦笑することしかない。
「まず私には、別の世界で生きていた前世の記憶があります。
そして死んでからこの世界へ生まれ変わる前に、女神と会いました」
「ちょっと待って!?
いきなりついていけない!?」
ですよねー。
「でも事実なんですよ?
本当なら転生する際には、前世の記憶は失われるはずなのですが、女神から『強い精神力があれば、忘れない』と教えられたので、頑張ってみました」
「頑張ってどうにかなるもなの……?」
クラリスが呆れた顔をする。
だが、それだけ異世界で百合百合したいという願望が強かったんだよ。
「なったのです。
そして前世の記憶があるからこそ、私は異世界の知識を使って色々なことができると言えます」
「それはまあ……なんとなく分かるけれど……。
あなた、非常識だもの」
失礼な。
私は常識的でしたよ(前世基準)。
「そして私は、この世界に生まれました。
小さな子ギツネとして……」
「やっぱり、ついていけないんだけどぉ!?」
そんな風に、クラリスから突っ込みを何度も入れられつつも、私の話は続いていった。




