41 デレ期
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あの性教育の日から数日後──。
「アリゼ、やったわよ!」
今日もクラリスは、ダンジョンで魔法の修行をしている。
実はあれからクラリスには内緒で、少しずつ階層を下げてゆき、魔物の強さは上がっているのだが、それでも彼女は私の手を借りずに魔物を倒せることが増えた。
着実に実力は上がっている。
そして魔物を倒したクラリスは、私に褒めて欲しいと言わんばかりに抱きついてくるようになった。
私の胸に顔を埋めて、その感触を楽しむのが最近のお気に入りのようだ。
おい、そこ代われ。
私だって、顔で巨乳の感触を楽しみたいのだが?
……まあ私も、こんな風に懐かれるのは嬉しい。
私がクラリスの頭を撫でてあげると、彼女は気持ちよさそうに目を細める。
うん、仔犬みたいで可愛い。
ただ、こんな時のクラリスのオーラは、ピンク色をしている。
身も蓋もない言い方をすると、「発情」している状態なのだが、オブラートに包んだ言い方をすれば、「恋」をしていると言ってもいいのかもしれない。
あの生理用品の実演の時も、クラリスのオーラはピンク色をしていた。
あまりにも特殊なシチュエーションだったので、その状況に興奮しているのかと思ったのだが、あれ以来クラリスのオーラは、私といる時はピンク色のことが多い。
やっぱりこれは、私自身に向けられている感情だよなぁ……。
生理用品から始まる恋って、特殊すぎない?
……いや、あれもただの切っ掛けにすぎなかったのだろうか?
でも、クラリスに嫌がられるようなことはともかく、好かれるようなことをした覚えなんて、あまりないけど……。
振り返ってみて思い当たることと言えば──、
1・国盗りの共犯に仕立て上げたことによる、ストックホルム症候群状態。
2・危険なダンジョンで行動を共にしたことで生じた吊り橋効果。
3・マッサージで快楽堕ち。
4・教育や生活全般を私に頼っている。
5・お互いに恥部を見せ合ったことによる秘密の共有。
6・ぼっち姫が故に、甘える相手がいなかったことの反動。
7・そもそもツンデレはチョロい。
うん……結構あるな。
しかも大部分がロクでもない。
だから今のクラリスの想いは、かなり歪なものである可能性が高い。
う~ん……これは素直に、クラリスの好意を受け入れていいものなのだろうか?
このままではクラリスが、私に依存しすぎてしまわないか……?という危惧もある。
とりあえずまだ状況が分からないし……ここは「見」にまわろう。
ただ一方で、百合百合したくて転生までした私にとっては、このクラリスの好意は凄く嬉しいのだ。
ようやく私のパートナーになってくれるかもしれない存在が現れた──。
このままクラリスの気持ちが変わらないようなら、私は全身全霊で彼女を幸せにしてあげる用意はある。
ともかく今はまだ、クラリスも人生経験が少ないのだし、もっと色々な可能性を見せた上で判断してもらおう。
そうすれば彼女も、冷静になって心変わりするかもしれないし。
──そう思っていたのだが、クラリスは思っていた以上に突っ走ってしまう娘だった。
「ねえ、アリゼ!
この部屋で一緒に暮らしましょうよ!」
「え……?」
まあ、この部屋はさすが王族用ということもあって、3LDKの物件よりも余っ程広いし、その気になれば家族単位で生活することも可能だろう。
でも、なんでいきなり同棲するってところまで、話が進むんです?
「一緒に生活していれば、アリゼから学べることが増えるわ。
そうすれば、私が女王になる日も近づくと思うの」
「確かにそれは……そうでしょうけども?」
「でしょ?
それに私、アリゼと夜も離れたくないし……一緒に寝るなんてこともしたいと思うのだけど……。
変かしら……?」
ぐはっ!?
可愛いなぁ、もう!?
私だって、できればそうしたいけど……。
「済みません、姫様……。
私は学院ありますので……」
「え~?
そんなの転移魔法で行ったり来たりできるのだから、ここに住みながらでも問題無いでしょぅ?」
「私1人ならそうなのですが、学院の家には、娘も待っているので……」
「は……?」
クラリスの顔から表情が消えた。
なにやら凄まじい衝撃を受けているようだ。
「娘……って、孤児を引き取ったってことなのかしら?」
「いえ……私が生んだ実の娘ですが……」
「赤ちゃんって、この前教えてもらったように、男の人とあーしてこうするのよね……?
それをアリゼが……?」
「まあ……事実としてはそういうことになりますが……」
私の精神的には経験していないし、吐きそうになるので行為についての記憶は封印しているが、こればかりは事実だ。
「………………」
あ、クラリスが完全に停止してしまった。
私が打ち明けた事実に対して、思考がついていけないようだ。
しかし彼女の顔は、徐々に驚愕の色に染まっていき──、
「あなた、結婚していたのぉ!?」
と、叫ぶのであった。