33 魔法の実演
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私、クラリス・ドーラ・ローラントはこのローラント王国の王女なんだけど、ダンジョンのど真ん中にいると、ただの無力な子供にしか過ぎないことを実感する。
侍女のアリゼに無理矢理こんなところに連れてこられて、魔法の修練をさせられています……。
お城に帰して……。
そして今、魔力の感覚を覚える為に、アリゼの魔力を身体に流し込まれようとしている。
それが失敗すると、私の身体は破裂してしまうらしいので、戦々恐々としていた。
しかし──、
「あ……!」
アリゼが手を置いている私の両肩が温かい。
それが徐々に、全身へと広がっていくような感覚がある。
これが魔力なの……?
思っていたよりも、優しい感じ……。
「さあ姫様……。
魔力を感じることができましたか……?」
「ええ……たぶんこれがそうなのね?」
そしてその魔力は、私の身体の中で勝手に動き回っているようだ。
アリゼが操っているということなのかしら……?
「それでは次に、魔力を1カ所に集中させて、これを体外に放出しましょう。
魔力は身体のどこからでも、放出することができます。
それこそ、お尻からでも」
「……それはちょっと、イメージが悪いわね」
なんだか、おならみたいだわ……。
「ですから掌から放出するのが良いでしょう。
そして放出した魔力に、イメージの力で姿形を与えます。
一般的には精霊の力を借りて、様々な現象を引き起こすと言われていますが、それ以外にもイメージの力がものを言う場合もあるのです。
何故ならば、精霊と対話ができないような知性の乏しい動物でも、魔法を使っていますからね。
例えば毒蛇の毒液なども、本能にすり込まれたイメージを魔力で変換することによって、生み出したものです。
勿論、魔法は多種多様なので、イメージだけで全てが可能になる訳ではありませんが、呪文の詠唱が苦手だというのならば、このイメージの力を突き詰めていくのも悪くはないでしょう」
「へぇ……」
そんなこと、知らなかったわね。
でも、イメージするだけで魔法が使えるのなら、簡単そうね。
……と思っていたら、急に脱力するような感覚が全身を襲う。
え……何これ?
「ですがイメージをかなり明確にしなければ魔力の変換効率が悪く、常人ならばすぐに魔力切れを起こしてしまうかもしれません。
そうならないようにする為には、修練で鍛えるしかありませんよ。
今の姫様は魔力を変換せず、無駄に放出し続けたので、魔力が不足した状態になりました」
「こ……こんなに簡単に疲れていたら、魔法なんか使っていられないじゃない!?」
「だから修練を積んでイメージを明確化し、変換効率を上げるのですよ。
他にも自前の魔力だけではなく、空気に含まれている魔力を利用する手法もありますが、これは高等技術ですね。
これができるようになれば、理論上は無限に魔法が使えるようになりますから……。
とりあえず今は、私の魔力を姫様に充填してあげましょう」
──と、先程と同様に、アリゼの魔力が流れ込んできた。
「これで、また魔力が使えます。
魔力が尽きたらまた充填してあげますので、魔力を体内に循環させて任意の場所に集中し、そして体外へ放出するところまでを、何度も練習してみましょう」
なにこの人間魔力タンク?
アリゼがいたら魔力が少ない人間でも、魔法が使い放題なんじゃないの?
そんな訳でそれから暫くの間、私は魔力の扱いについて練習をしていたのだけど──、
「おや、魔物が近づいてきましたね」
「えっ!?」
アリゼの発言に驚いた私は、思わず魔力を大放出してしまった。
うわ……身体の力が一気に抜けた……。
これでは逃げることもできないわ……。
でも、魔物は何処にいるのかしら?
私の目には、まだ何も見えないのだけど……。
「丁度いいです。
私がこれから魔物を魔法で倒すので、魔法でどのようなことができるのか、姫様はよく見ていてください。
そうすれば自分で使う時に、イメージしやすいでしょう」
「そ……そう……」
まあトロールを軽々と倒したアリゼに任せておけば、問題は無いのでしょうけど……。
やがて通路の奥から、1mくらいもあるテントウムシに似た大きな虫が、何匹も押し寄せてきた。
「ひいぃぃぃっ!?
気持ち悪い!」
「……そうですね」
あ、珍しくアリゼもちょっと引いているわね。
こいつにも苦手なものがあるのかと思うと、少し可愛げがあると感じられる。
「近づかれる前に麻痺させましょう」
「!?」
アリゼが虫たちの方に手を向けると、突然虫達が転がって動きを止める。
え、魔法でこんなこともできるんだ!?
「では、風魔法です」
アリゼが手を振ると、虫達の一部が見えない何かによって、バラバラに引き裂かれた。
「次は土魔法です」
そして今度は空中に大きな岩が出現して、虫達の上に落下する。
当然虫は潰れた。
「そして火魔法」
次の瞬間、虫達がいた辺りの通路全体が炎に包まれた。
炎が消えた後には、もう何も残っていない。
やっぱりこいつ、凄いわね……。
「最後に水魔法です」
アリゼの前に水の球が出現したと思ったら、彼女は何も無いはずの空間からカップを取り出して、それを汲んだ。
そしてそれを私に差し出してきた。
「どうぞ、休憩にしましょう。
生活の中では、この水魔法が1番使い勝手がいいですよ」
「あ……ありがと」
ホント、こいつなんでもありね……。
その後も何度か魔物は現れたけど、アリゼは軽々と──しかも全て違う種類の魔法で倒してしまった。
一体、何十種類の魔法が使えるのよ!?
私がどんなに努力をしたとしても、こんな風に魔法が使えるようになるとは、ちょっと思えないわね……。