表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

124/392

29 活動開始

 ブックマーク・☆での評価・誤字報告・感想をありがとうございました!

 クラリスが城の部屋に帰った日の翌日──。

 彼女は疲れたのか、昼過ぎになってようやく起き出してきた。


「おそようございます、姫様」


「なにそれ……」


「さあ、今日から本格的に勉強ですよ、姫様」


「…………」


 クラリスが渋面(じゅうめん)を作っている。

 本当に駄目そう……。


「はい、嫌そうな顔をしない!

 姫様はこの国を変えるのでしょう?

 無知なままでは、何も変えられませんよ?」


「分かっているわよ!

 分かっているけど、苦手なものは苦手なのよ……」


 実際、その後の授業でクラリスは、かなり悪戦苦闘していた。

 やばいな……どこから教えればいいのかわからねぇ……。

 それくらい何もできないのだ。

 今までサボり過ぎたので無理もないが、現状ではポンコツ姫と言うしかない。


 それにクラリスには、勉強に集中できない理由があるようだ。


「……何か気になることがあるのですか、姫様?」


「いえ……本当にこんなことをしていて、いいのかと思って……。

 今も大変な思いをしている人達が、沢山にいるのよね……?」


 ああ……苦しむ民衆を、今すぐ助けたいのか。

 それは私にもある心の葛藤だ。


「そうですね……。

 ですが奴隷の解放も、経済の回復も、国の政策を劇的に変えなければ無理でしょう……。

 その為には、国政に対する大きな発言権が必要です。

 今の姫様には、それがありません。

 だから姫様が一刻も早く国王の跡継ぎとして成長するのが、1番現実的ですね」


「……アリゼでも無理なの?

 あんたなら、今すぐにでも女王になれるんじゃない?」


 とんでもないことを言い出すな、この姫様!?

 自分の父親から、国を奪えとおっしゃるか。


「……できないとは言いませんが、その後の統治が難しくなる可能性が高いです。

 私は一部の者達からは酷く嫌われていますし、王家に連なる血筋ではありませんので、王として認めない者達は多いでしょう。

 むしろ自分こそが王に相応(ふさわ)しい……と、兵を挙げる者が出てくるかもしれません。

 そうなれば内乱です」


 まあ、力によって不満分子を押さえつけることはできるのだろうけれど、際限なく見せしめが必要になるからなぁ……。

 そんなのは恐怖政治も同然だ。

 しかしクラリスは言う。


「それでもあなたなら、勝てるんでしょ?」


 うむ、その辺はしっかり理解されているな。

 トロールを血祭りにあげた甲斐があった。


 だけど同時多発的に挙兵されると、私だけでは手が回らなくなる可能性もある。

 対処が遅れれば、おびただしい数の人間が死んでしまうことになりかねないのだ。


「勝てるでしょうけど、死人が皆無……という訳にはいきませんねぇ。

 ですから姫様が王を継ぐことが、1番平和的だと思います。

 『急がば回れ』という言葉もありますよ?」


 勿論、クラリスが女王になったとしても、不満分子は必ず出てくるだろう。

 特に奴隷の解放には、相当強い反発があるはずだ。

 でもだからこそ、私は裏で暗躍できる立場からクラリスを支える方がいい。

 私が女王になったら、動きにくくなるのは間違いないからね。


 そういうことだからクラリス、ボクと契約して女王様になってよ!

 特典でソウル●ェムもつけるよ?


「……なんでかしら?

 今、凄く嫌な感じがしたんだけど……」


「そういう勘は、大事にした方がいいですね。

 でもまあ……姫様が女王になるのは既定路線として……」


「勝手に決めないで!?

 私はあなたが女王になる方向も、捨ててはいないわよ!」


 だが、断る。


「……姫様が女王になるのは既定路線として、今できることはしたいという姫様の気持ちも分かります。

 ならば国王に、政策を変えるように進言してみますか?

 国王が姫様の言うことを聞いてくれれば、大きく動きますよ?」


「……考えておくわ……」


 しかしクラリスは、難しい顔をして黙り込んでしまった。

 半ば育児放棄(ネグレクト)状態の彼女にとっては、親に会うという普通の親子ならば当たり前のことに対しても、勇気がいることなのだろう。


 というか、こっそり国王夫妻の様子を見に行ったことがあるけど、あれ(・・)とクラリスを会わせるのは、少々酷な話かもしれない。

 ちょっと色んな意味でヤバかったので、話が通じるとは思えないのだ。

 

 ……って、クラリスのテンションが、あからさまに下がってしまったな……。

 これでは今後の学習にも、影響が出てしまうかもしれない。


 ここは腹案を出しますか。

 

「そうですね……炊き出しを増やしたり、国中の孤児院の環境を充実させたりすることくらいならば、現状でもどうにかなりますよ?」


「本当!?」


 私の言葉に、クラリスは嬉しそうに食いついた。

 表情がコロコロ変わるなぁ。


「ええ、数日待ってください。

 姫様に会っていただきたい人がいます」


「え……誰かしら?」


「資金提供をしていただける、優しい人(・・・・)ですよ」


「そ……そう。

 あなた、ちょっと悪そうな顔をしているわよ……?」


 おや、クラリスも「優しい人」が言葉通りの意味ではないと、察することができたか。


「ともかく、今日明日でどうにかなることではないので、姫様は地道に勉強を頑張りましょうね」


「ぐぬぅ……」


 と、クラリスは(うめ)くも、勉強には再び取り組み始めた。

 なんだかんだで、根は真面目な子だ。


「はい、そこ間違えてます」


「えっ!?」


 まあまだ能力は、(こころざし)に追いついてはいないけどね……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] やはりクラリスさんも賢いですね!勉強が辛いのは本当の事です、凄く解りますw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ