28 影から表へ
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さて、オークションにかけられたクラリスだが、まさか客を煽って自身の価格を吊り上げるとは……。
なかなか破天荒なことをしているなぁ。
普通の女の子なら恐怖と絶望で口も利けなくなっているのかもしれないけれど、彼女は変なところでプライドが高いようだ。
だけどこれも王者の素質である……ような気がしないでもない。
少なくとも見ていて退屈しないという意味では、案外人を引きつける才能を持っているのではなかろうか。
それはさておき、クラリスを買おうとした連中は、要監視対象にしておくね……。
取りあえず、オーラのタイプは覚えておいたから……。
オーラは指紋みたいに1人1人特徴が違うから、これを覚えておけば顔を隠している相手でも個人の特定は可能だ。
しかもこの会場にいる全員に、私の影の分身を送っておくから、この王都の中ならば、グラコー男爵の手の者に子供が攫われた時に使った手段で、居場所も特定できるし。
私から逃げられると思うなよ……!
ともかくクラリスが落札される前に、そろそろ介入しようか。
私は金貨66兆2000億枚を提示しておくよ。
某霊界探偵漫画が連載していたころの日本の国家予算と同じ数字だけど、あの後に額が膨れ上がったよねぇ……。
いずれにしてもクラリスには、これからこの国を背負ってもらうのだから、これくらいの価値がああってもいい──と、皆に示した形だ。
勿論、人身売買反対派の私としては、本気で彼女を買うつもりがないからこそ、この常識外れの枚数を提示したというのもあるんだけどね。
そして私は繋がっている影の道を通って、クラリスの影へと転移する。
何故か化け物呼ばわりされたが、心外ですねぇ……。
あとクラリスには、ずーっ見ていたのか──と、問い詰められたけど、常にではない。
何度も城に戻ったし、レイチェルの顔を見に行ったこともある。
それとさすがにトイレは覗いていないが、影の中から見上げた時に、クラリスのスカートの中は見えていました、ハイ。
……これは黙っておこう。
で……このままクラリスを連れ帰ってもいいんだけど、できればここにいる客達には、クラリスに忠誠を誓う駒になってほしい。
その為にも、ちょっと脅しておくかな。
丁度トロールなんてものが、出てきたし。
で、華麗にトロールを退治して、客達に私の実力を思い知ってもらおうと思っていたんだけど、トロールが檻の中から出てこないだわ……。
オーラを見ると、完全に怯えているな……。
野生の本能で、私の実力を感じ取っているのだろうか?
でもこのままじゃ埒があかないから、檻から出してあげよう。
あ、逃げた!
まあ、逃がさないけどね。
客席に突っ込もうとしていたトロールを、蜘蛛糸で拘束する。
ただ、このまますぐに倒してしまっては弱い者イジメにしか見えないので、少し暴れてもらおう。
蜘蛛糸での拘束を部分的に緩めて、トロールの動きを誘導する。
すると狙い通り、人身売買組織の男をトロールは踏み潰してくれた。
よし、この調子で他の組織の奴らも、全部始末しよう。
トロールが客を襲おうとした時は拘束を強めて、あくまでも組織の人間だけを襲わせる。
これぞまさしく、コントロール!
…………脳内審議中。
……やっぱ今の無し。
そして組織の人間が全滅したら、あとはトロールを処分して終わりである。
会場にいる人間には私の本気の一端を見てもらって、絶対に逆らってはいけない相手だと理解させる。
私の熱線は、天を衝く熱線だぁぁぁぁぁ!
そんな訳でトロールと、ついでに屋根を焼き払って終了。
本来ならこの規模の攻撃だと余波だけで死人が出かねないんだけど、そこは結界を張って守ってあげた。
あと、屋根を突き抜けた熱線は誰かに目撃されているだろうから、通報されるかもしれないが、騎士団には後で圧力をかけておけばいいかな。
今は王女の侍女なので、表からも裏からも働きかけることができるしね。
さて、今度はクラリスの出番だ。
ここ数日の経験で、彼女は自分が成すべきことを理解したと思う。
それは以前よりも澄んだオーラの色が、物語っている。
ここでクラリスには、王者としての資質を発揮してもらうことにしよう。
私は彼女に対して、発言するように促す。
そして行われた宣言は辿々しくはあるが、「私」という最大の武器を有効的に使っていたし、この会場にいる者達にとって不利益になることと同時に、利益になることも提示していて、クラリスの味方についても損は無いと思わせることにもなんとか成功している。
なによりも人身売買を止めたいという、明確な意思が感じられた。
奴隷制度の廃止は簡単なことではないが、それを成し遂げることができれば、クラリスは歴史に名を残す偉大な女王として讃えられることになるだろう。
今日この日の彼女の宣言は、たかだか200人にも満たない少数の者しか聞いていなかったが、おそらく歴史の転換点になるほどの、重要な宣言になったはずだ。
うん、やはりクラリスの王者としての資質は高い。
彼女が女王になれば、きっとこの国は良くなる!
だから私が全力で守り、そして導いていこう。
その後、今回オークションにかけられた人達の中から、孤児は我が学院で引き取ることになった。
成人でも有用な人材ならば雇ってもいい。
まあ、私のオーラ判定で合格したらだけどね。
で、中でもトカゲの子はクラリスのお気に入りなので、大切に扱わなくちゃ。
……って、あ~っ!? この子でも、リチアの守備範囲に入っているの!?
ロリコンの上に、ケモナーまで併発している……というか、ロリならなんでもいいのか……!?
リチア……恐ろしい子……!!(白目)
う~ん、指示通り、ちゃんとトカゲ達を保護していたのは偉いけど、ホント扱いに困るな、この人……。
最後にクラリスと、トカゲ改めカーシャのお別れを終えて帰ることにする。
クラリスはカーシャに対して完全にデレているけど、やっぱりこの子って典型的なツンデレだよね……。
私に対してデレてくれる日は、いつになるのだろうか……?
今? 現在のクラリスが私を見る時に出しているオーラの色は、「畏怖」ですが何か?
少々厳しく接してしまった上に、実力をちょっと見せてしまったからなぁ……。
でも、王族が無能なままでは国民が不幸になるだけだし、どんな手を使ってでも更生させなきゃいけなかったので、仕方がなかったんや……。
実際にクラリスは、「国民の不幸を知らなかった」では済まされない立場にいた訳で、あのまま怠惰を重ねていたら、国民の不満が爆発して革命が起こり、断頭台にかけられるという、マリー・アントワネットなコースも十分に有り得ただろう。
王族である以上は、生命を懸けなければならないほどの、大きな責任を背負っているのだ。
本人も今回のことで、そのことをよく分かってくれたと思う。
だからこそ、これからのクラリスの変化と成長が楽しみだ。
次回から閑話です。