26 王女の帰還
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「さて……それでは城に帰りますかね、姫様?」
ようやく帰ることができるのね……。
それは嬉しいけれど、私を無理矢理城から連れ出したのはアリゼのクセに、随分と勝手な話ね。
「そうね……帰りたいけれど、その前に売られたトカゲ達はどうなったのかしら?」
「ああ、そちらは私の手の者が保護しています」
本当に?
それなら良かった!
「でも、これからトカゲ達はどうなるの……?」
「帰る家がある者は家に帰しますが、それ以外の者は我が学院で特別に受け入れてもいいですよ?」
あの炊き出しをしていたノルン学院に?
それならあのトカゲも、もう生活に困らなくなるのかしら?
「……いいの?
確か定員があるんじゃなかったの?」
「まあ……あと数人程度でしたらなんとか。
ただし私が姫様を城から連れ出したことについて、なんのお咎めもなしに──ということにして頂けるのでしたら……ですけどね?」
ぐ……こいつ!?
元々私にこの怪物をどうにかできるとは思えないけれど、なんだか色々と卑怯よね!?
「……分かったわ!
あの子のこと、お願い!」
「それでは、最後にお別れをしていきましょうか」
私達は控え室に向かったわ。
ここで着替えとかさせられたのよね。
部屋に入るとそこには、今回のオークションにかけられた者達が全員揃っているようだ。
……? 見覚えのない人間がいるわね。
その辺の男よりも凛々しくて美形なんだけど、これがアリゼの言う手の者なのかしら?
「ご苦労様です、リチアさん。
奴隷契約を結ばれる前に、保護はできていますね?」
「ああ、勿論。
こんな可愛い娘達に、辛い思いをさせなくてよかったよ」
あ……リチアとか言う人にトカゲが頭を撫でられて、なんだか恥ずかしそうにしている……。
トカゲの亜人でも、あの人の格好良さは分かるのかしら?
「……リチアさん、そちらの子も守備範囲なんですね……」
あれっ!? アリゼがなんか引いているけど、どうしてなのかしら……?
別にリチアって言う人は、変なことをしていないわよね?
ともかくトカゲも無事なようで、安心したわ。
「あなた、良かったわね。
このアリゼが、あなた達をノルン学院に入れてくれるそうよ」
「え……あたしが?
なんで?」
そんな疑問に、アリゼが答える。
「初めまして、私はアリゼ。
ノルン学院で院長をしております。
あなたは私のご主人様の為に、素晴らしい働きをしてくれたので、そのお礼ですよ。
他の孤児の方々も、今日この場所に居合わせたご縁……ということで、特別にです」
「そ、そうなの?
でもあたし、そんなに大したことしてないのに……。
というかお前、綺麗な顔をしていると思ったら、やっぱり身分の高い家の子だったのか……。
その豪華な服も似合っているしな……」
「ええ……うん」
私の身分を知ったら、トカゲは住む世界が違う──と、壁を作ってしまうのかしら?
私にとってこのトカゲは、城の外で初めて知り合った人間だし、ご飯を食べさせてくれた命の恩人でもあるから、このまま縁が切れてしまうのは、少し……寂しいわ。
「ああ……そうか。
じゃあ、これはもういらないかな?
ゴミ箱に突っ込まれていたから、拾っておいたんだけど……」
トカゲは私がさっきまで着ていた汚い服を、差し出してきた。
ああ……それは確かにいらないわね。
でも──、
「その帽子は欲しいわね」
トカゲが私の為に、危険を冒して手に入れてきた帽子だもの。
それだけは無駄にしたくない。
「え……こんな汚いの、欲しいのか?」
「同い年の子から貰った、初めてのプレゼントですからね。
記念に一生大切にするわ!」
「お……おう。
お前がそれでいいのなら、いいけど……」
「ありがとう」
私はトカゲから帽子を受け取った。
……あ、そういえば私、この子の名前を知らないわね。
「あなたの名前は、なんていうのかしら?」
「あたし?
あたしはカーシャだ」
「そう、カーシャね。
私はクラリス。
この名前をよく覚えておきなさい!
いつかあなたがこの名を、畏敬の念を込めて呼べるような、偉大な存在になってみせるわ!」
「は……はあ……?
よく分からないけど、覚えておくよ」
「うん、絶対よ!」
そして私はカーシャは別れて、城に帰った。
私とカーシャでは、身分も住む世界も何もかも違うし、一緒にいた時間もほんの短い間だった。
それでも私にとって、たぶん彼女は初めての友達と呼べる存在だったのだと思う。
だからまた会いたいと願った。
本来ならもう二度と会えないような、大きな身分の差が私とカーシャの間にあったのだろうけれど、彼女と再会するのはそんなに遠い未来の話ではなかった。
次回からアリゼ視点に戻って、これまでのおさらいです。