25 クラリス宣言
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トロールが消滅したあとも、会場は静寂に包まれていた。
まるで恐るべき脅威がまだ存在しているかのような……いえ、まさにその通りね。
アリゼに目を付けられないように、全員が息を殺しているかのようだわ。
そんな客達に向けて、アリゼは声を張り上げる。
「さて、皆さん!
我が学院に手を出せばどうなるのか、それはよくご理解になられたと思います。
そして人身売買に手を染めている限りは、常に私の逆鱗に触れるリスクがあることを、心得ておいてください!」
会場は相変わらず静寂に包まれていて、誰も返事をしなかったわ。
だけど誰もが思い知らされたと思う。
アリゼを怒らせたら、どうなるのかということを──。
だから皆は、無言でコクコクと頷いている。
私もついつられて、頷いたわ。
「そしてこれからは、クラリス王女殿下も私の庇護下に入ります。
この意味をよく考え、殿下に絶対の忠誠を誓っていただきたい。
そうしていれば、悪いようにはしませんよ……?」
ちょっ!? 私の名前を勝手に使わないでよっ!?
そもそも庇護下ってなんなのよ!?
あなた、私をどうしたいの!?
「さあ、姫様……。
皆様にご挨拶を……。
今後の抱負などを、お願いします」
へえっ!?
い……いきなり、そんなことを言われても!?
なんて言えばいいのよっ!
「さあ、どうぞ。
今の姫様ならば、何をすべきか分かっているはずです」
「ひうっ!?」
私がどうしたらいいのか分からなくて黙っていたら、アリゼが凄い圧力をかけてきたわ……。
わ、分かったわよ……。
やればいいんでしょ、やればっ!
「え……え~と……。
我が忠臣達よ!
私はクラリス・ドーラ・ローラント。
この国の王女よ!」
私が名乗りを上げると会場から、
「本当に王女なのか……?」
そんな声も聞こえてきた。
そりゃそうよねぇ……。
王女がオークションの商品になるなんて、普通は有り得ないわよねぇ……。
「え~……少々故あって、下々の者達の生活を体験していたところ、今し方壊滅した組織に拉致されて、売られるところだったわ!
……人を売り買いするなんて、非常に不愉快なことね!
だから我が治世においては、このようなことは無くしていきたいと考えている!」
私の宣言を聞いて、会場がざわついた。
それは当然のことなのでしょうね。
だってこいつらは、人間を買う為にこの場所にいるのに、それが禁じられることになるのだから。
中には大きな不利益を被る者も、いるのかもしれないわね。
だけど1度でも売られる立場になった者としては、こんなことはもう許してはおけない。
「不服があるのならば、いつでも申し出なさい!
その時には、このアリゼをけしかけるからっ!」
この一言で、会場は再び静まり返った。
まあ……フェンリルの威を借るオオカミみたいでちょっと情けないけど、使えるわね……アリゼの名前は……。
「私はこの国を変える為に、これから動いていくわ。
あなた達も、それに協力しなさい!
そうすれば今日のことについては──王女を競り落とそうとした不敬については、目をつぶろうと思う。
そして私が女王になった後のこの国でも、あなた達は生きる場所を失うことなく、栄えていけるでしょうね。
以上、分かったかしら?」
私の宣言が終わっても、会場は相変わらず静まり返っていた。
こいつら……私の話を、ちゃんと理解したのかしら?
そう思っていたらアリゼが──、
「返事は……!?」
威圧する。
「「「「「は、はいっ」」」」」
「未来の女王様に忠誠を誓います!」
「私もです!」
「わ、わしも!」
「クラリス王女に栄光あれっ!!」
客達が一斉に返事をする。
……もうアリゼが女王になれば、いいんじゃないかしら?
そして客達の態度に納得いったのか、アリゼは解散を宣言した。
「それでは皆様、ご帰宅なさってください。
なお、本日のことは、みだりに口外しないように願います。
私と王女に不利益が生じるようなことがあれば、原因は徹底的に潰しますので……」
「ひいいぃ……!!」
あ……勝手に出口の扉が開いたわ!?
客達は我先にと出口に殺到し、会場から出て行く。
帰ると言うよりは、逃げているって感じね。
「あれは……本当に帰しちゃっていいのかしら……?」
中には私達の言葉を無視して、何かをやらかす人間がいてもおかしくないと思うのだけど……。
なにせ私には、あいつらが何処の誰なのか全く分からないのだから……。
だからこちらからは何もできない──と、侮っている者もいるかもしれない。
だけどアリゼは──、
「後で身元を確認して釘を刺しておきますから、大丈夫ですよ」
そんなことを言う。
「仮面で顔を隠していたのに、どうやって!?」
「それは秘密です」
アリゼは口に人差し指を当てつつウインクをして誤魔化すけれど、胡散臭すぎて可愛くはないわよ!?
次回は明後日更新の予定です。