23 支配者
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「おや……人を化け物呼ばわりとは、失礼な姫様ですね……」
いや、私の指摘はおかしくないわよね!?
「な、ななな……なんで私の影の中から!?
ずっとそこにいたのっ!?」
「私の影と姫様の影を、繋ぎ合わせておいただけですよ。
こうしておけば、姫様が何処で何をしているのかはある程度感知できますし、影を伝っての瞬間移動もできます」
なんか訳の分からないことを言い出した。
……って──!?
「感知……って、今までの私のことを、ずっと見ていたの!?
トイレとかも!?」
「その時は、目と耳を塞いでいましたよ?」
でもそれ以外の路上での着替えや、トイレを探し回っている情けない姿とかは、全部見ていたってことじゃない!?
なんだか急に恥ずかしくなってきたわ……。
「それよりも、まずはこの馬鹿どもの始末の方が先ですよね、姫様?」
と、アリゼは微笑んだけど、なんだか妙に迫力があって、全身に鳥肌が立ったような気がするわ……。
でも、確かにこのオークションに参加している連中を、どうにかしたいというのは事実ね。
で、その連中だけど、突然メイド姿の女が出現したのだから、困惑から騒然としている。
「な、なんなんだ、お前はっ!?
誰か、早く守衛を呼んでこいっ!!」
司会の男も混乱している。
当然よね?
その時──、
「静粛にっ!!」
「「「「!?」」」」
アリゼが一喝し、それによって会場が一気に静まり返った。
なんだか会場全体の空気が、岩のように重くなった気がする……。
助けてっ!
すぐ隣にいるアリゼから放たれている圧力が、尋常じゃないのよっ!
「皆さん、初めまして。
私はクラリス王女の侍女をしております、アリゼと申します。
いえ……皆様には、ノルン学院の院長の方が、通りが良いでしょうか?」
ザワッ!?
──と、そのアリゼの言葉に、会場が再び騒然とした。
なんだろう……?
皆、怖がっているような……。
それにノルン学院って、あの炊き出しをしていた孤児院のことよね……?
アリゼがそこの院長……!?
「我が学院の炊き出しに来ていた子供達に手を出すとは、私も舐められたものですね……。
学院の関係者がいるとは、考えなかったのでしょうか?
どうやらグラコー男爵を見せしめにしただけでは、足りなかったようで……!」
「「「「ひいいいぃぃぃ!?」」」」」
その言葉で、会場は恐慌状態に陥った。
え? え? なんなの?
グラコー男爵ってなに!?
あ、客達が一斉に逃げ出した。
でも──、
「な、なんだっ!?
糸のようなものがノブに絡まって、扉が開かないっ!?」
扉が開かなくて、逃げられないようね……。
糸というのがなんなのか、よく分からないけれど……。
これもアリゼの仕業……ということでいいのかしら?
「まあ、そんなに慌てないでください。
お客様方は何も知らずにこのオークションに参加したのでしょうから、不問に付してもいいのですよ?」
「ほ、本当か!?」
「い、命ばかりは助けてくれっ!!」
「ええ、私の──いえ、クラリス王女殿下に忠誠を誓って頂けるのならば、考えましょう」
「おおっ!
それでよいのならば、いくらでも!」
「王女殿下万歳──!」
客達の間から、歓喜の声が上がる。
ただ、彼らは王女である私のことなんかどうでもよく、アリゼの言葉だから聞いている──それがなんとなく感じ取れた。
まるでこの会場全体が、彼女に支配されているみたいだわ……。
アリゼたった一人に、なんでこんな……?
「お客様方へは、後ほど王女殿下から何かしら通達があるかもしれませんが、今晩はこのままお帰りいただく予定です。
だが、このオークションを企画した奴隷商、お前達は駄目だ。
私の庇護下にある者を売り物にして……ただで済むと思わないでくださいよ?」
「ひいっ!?」
そのアリゼの宣言を受けて、司会の男を始め、関係者と思われる者達が震え上がった。
そして──、
「お、おいっ!
今回売る予定だった、あいつを解き放てっ!!」
「し、しかし、そんなことをしたら、俺達も無事じゃぁ……!!」
「このままじゃ、どっちみち終わりだっ!!」
司会の男が喚いている。
「な……なにをするつもりなのかしら……?」
何か嫌な予感がするわ……。
でも、アリゼは余裕の表情のまま──、
「ああ、いい見せしめになりそうですね。
やらせてみましょう」
静観の構えである。
「だ、大丈夫なの!?」
「ええ、姫様は、安心して見ていてくださいまし」
「で、でも……」
ゴガアァァァァ──っ!!
「ひっ!?
な、なに!?」
何かのうなり声のようなものが聞こえてきた。
そして会場には、車輪のついた大きな檻が運びこまれる。
その中には、何か大きな人型の存在が入っていた。
「何あれ……魔物って奴なの……?」
「そうですね。
おそらくトロールでしょう。
私も初めて見ます」
「トロール……?」
「低級な巨人族の一種ですが、強い再生能力を持っており、並の巨人族よりも手強いと聞きます。
冒険者ならば、Aランクはないと厳しいかもしれませんね」
それって、かなりの強敵じゃないの!?
でもアリゼは、余裕の態度を崩さなかった。
ボツになった初期構想ルートにおけるキエルについて考察してくれた人がいますが、ほぼ正解です。主人公が更に乗っ取りをすることで、恨むべき相手を失ってしまいます。よく読み込んでいてくれて嬉しい。
ともかく初期案から比べれば、本編はかなり救いのある方向へ軌道修正しています。当初はレイチェルが復活する予定なんて全くありませんでしたし、マルガは存在自体がいませんでした……。