20 王女様の選択
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「はあっ、はあっ、も、もう走れないって……!!」
私はトカゲに手を引かれて、貧民街の路地を走っていた。
だけど、もう限界だわ。
普段……いいえ、生まれてから今まで、こんなに走ったことは一度も無いと思う。
結果、たった数百mで、私は走れなくなってしまった。
立ち止まった後も、胸が破れるのかと思うほど呼吸が激しいし、足もガクガクしている……っ!!
「お……おう。
……どうやら、誰も追ってきていないみたいだな。
もう大丈夫だろ」
「そう……もう平気なのね?」
「ああ……だけど次に会った時は、どうなるか分からないぞ。
それに人身売買組織の人間はあちこちにいるから、別の奴に狙われるかもしれない。
今後は気をつけた方がいいな……」
「えぇ……気をつけるって、どうするのよ……?」
「頭を帽子で隠すとか……。
その金色、目立つぞ……」
「で……帽子は?」
「……無いな。
何処かに捨ててあるのを拾うか、最悪布を頭に巻けばいいんじゃないかな?」
え~……顔や髪を人に見せるだけで危ないって、どうなっているのよ、この国……。
「まあ、もう夜になるから、それは明日にしようぜ。
暗くなったら危ないし、何もできないから、さっさと寝るに限る」
「そ……そう……」
暗くなったら何もできないって、照明も無いのね……。
城になら魔法の照明器具や、蝋燭とか色々あるのに……。
でも疲れたから、もう寝ることには賛成だわ……。
その後、トカゲの隠れ家に連れて行ってもらったけれど、そこは木箱や板を組み立てただけの、家とも呼べないような粗末なものだった。
その中に、藁を敷いて作った寝床がある。
「この藁って、何処にあったの……?」
「何処かの馬小屋から拝借したけど?」
これ、虫とかいそうなんですけど!?
あと、ちょっと臭い。
それに藁がチクチクと肌に刺さって痛いし、こんなところで眠れるのかしら……?
「どーだ、寝心地は?」
「最悪よ……」
「あたしもそう思うよ」
トカゲは笑った。
この子にはこれしか無いから、仕方がないのだと受け入れているんだ……。
でも確かに、地面の上よりは暖かいし、これで我慢するしかないわね……。
私は今日会ったばかりのよく知りもしないトカゲと、身を寄せ合って眠った。
翌朝、寝覚めは最悪だった。
やっぱり藁の上での寝心地は悪くて、熟睡できた気がしないわ……。
それにこんなのが貧乏人にとっての当たり前の生活だと思うと、なんだかもやもやして、すぐに眠りに就くこともできなかった所為もあるわね……。
身体は疲れているはずなのに、変なの……。
あと、お腹が減ったのだけれど……。
炊き出しはもうやっているのか?──って、トカゲに聞こうと思ったけど、いないのよね……。
「何処へ行ったのかしら……?」
それから1時間か……2時間か……。
とにかく結構な時間を待っていたのだけれど、トカゲは帰ってこなかったのよ。
探しに行くべきかしら……?
それとも空腹だから、炊き出しをしていたあの広場に行ってみるべきかしら……。
「うん、お腹が限界だわ……!」
結局私は空腹をどうにかする為、あの広場へ行くことにした。
道はなんとなくでしか覚えていないけれど、まあどうにかなるんじゃないかしら?
実際、暫く歩いていたら、見覚えのある道を見つけたので、なんとか辿り着けそうだわ。
そしてようやくあの広場が見えてきた──と思ったら、私の前に男が立ち塞がった。
昨日の人身売買の──!?
「ふん、飯欲しさにまた来ると思ってはっていたが、やっぱり来たな」
待ち伏せされていた!?
私はすぐに逃げだそうとしたが──、
「おっと、逃げたらトカゲのお友達は、どうなるかな?」
「え──?」
「たまたまうろちょろしているのを見かけたから、捕まえてあるんだがな?」
捕まったの、あの子!?
「あなた、あの子に何かしたの!?」
「お前の居場所を吐かなかったから多少痛めつけたが、お前がこのまま逃げたら、もっと酷いことになるぞ?」
……このクズ!!
だけど、どうしよう……。
私には昨日会ったばかりのトカゲの為に、捕まって奴隷になってやる義理なんて無いはずだ。
だけど同じような立場のあのトカゲは、痛めつけられても私の居場所を言わなかったらしい。
そんな子を、私は見捨てて逃げるの?
でも私には、あの子を助ける手段が無い。
ならばもう、逃げるしか選択肢は無いじゃないっ!!
……なのに、なんで私の足は動かないのかしら?
逃げるのは、何かに負けたような気が凄くするんだけど……。
もう、訳が分からない……。
「うっ……ううっ……」
「ふん、泣いてちゃあ、可愛い顔が台無しだぜ?
だが、逃げる気は無いようだな。
大人しくついてくるのなら、痛い目に遭わなくて済むぜ?」
男の言葉に、私は従うしかなかった……。




