19 腹ぺこ王女様
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私がトカゲに連れられて辿り着いたのは、噴水のある大きな広場だった。
その広場には、沢山の人が集まっている。
何百人いるのか、ちょっと分からないわね。
どうやら食事を食べさせてもらえるらしく、それを得る為に皆は集まっているようだ。
え……これ全員、私みたいに食べる手段が無い人なの……?
「うわっ、並んでいるなぁ……。
ちょっと、そこで待っていてくれ。
結構時間がかかる」
「えっ!?」
トカゲはそう言って、列の最後尾に並んだ。
えぇ……まだ待つの?
私、もう限界なんだけど!?
あまりの空腹と疲労に耐えきれなくなった私は、広場の隅に座り込む。
もう……地面に座るのは、あまり気にならなくなってきたな……。
それからどれだけ時間が経ったのか分からない。
半分寝ていた……というか、気絶していたから……。
「おい、飯を持ってきたぞ」
「ふゃっ?」
トカゲに呼びかけられて、意識が蘇る。
いい匂いがする。
私はトカゲから、木のお椀とスプーンを受け取った。
「げっ!?
野菜だらけじゃないっ!!」
お椀の中は、野菜たっぷりのスープ……いや、麦らしきものも少し入っているわね。
おかゆなのかしら……?
それが並々と注がれていた。
「そうだよ?
贅沢言うんじゃないよ。
喰えるだけマシなんだから」
「ぐ……」
野菜は嫌いなのよ!
でも……お腹が空いてる所為か、美味しそうに見えるわね……。
私は仕方が無く、一口食べてみる。
「!!」
「おいおい、ゆっくり食べなよ……」
…………あれ?
お椀の中身が無くなっているわ?
何処へ行ったのかしら?
……まさか、もう食べちゃったの!?
しかも野菜なのに、美味しかったような気がする……。
だけどこんなのじゃ、全然足りない……。
「……これだけなの?」
私はトカゲに聞く。
おかわりは無いのかしら?
「一日一杯だけだな。
ズルして何回も並ぶ奴はいるけど、顔を覚えられたら出禁になるらしい。
見ての通り、これだけ沢山集まった人間に、何杯も配れるだけの量は無いから、その辺は厳しいぞ」
「なんで?
こんなので満足できるはずないじゃない」
「なんで……って言われても、予算とかの問題なんだろ?
そもそも赤の他人の為に、なんでそこまでしなきゃならないんだ……って話だよ。
それなのにこれ、ノルン学院ってところが、好意で無償提供してくれているんだぜ?
本来なら国がやらなきゃならないことだって、みんな言ってる。
それを代わりにやってくれているんだから、感謝はあっても、不満なんか言えねーよ」
「そう……」
これ……国が……お父様が、やらなきゃいけないことなの?
お父様がちゃんとやっていれば、私……お腹いっぱい食べることができたのかしら……?
「それにしても……ノルン学院ってなんなの?」
「よく知らないけど、孤児院らしいぞ」
「孤児院……?」
「ほら、飯を配っているのは殆ど子供だろ?
みんな孤児なんだって。
まあ、あたしもだけど」
え……みんな親がいないの?
10人以上いるけど、その全員が……?
それにこのトカゲも?
「じゃあ、あなたもそこに行けば、いいんじゃないの?
他人に配れるくらいなんだから、ご飯が食べ放題じゃない」
「あたしだってそうしたいけど、今は定員一杯なんだってさ。
院長の個人の資産で運営しているから、王都の孤児全員の面倒は見られないって。
まあ……この都だけでも、何千人の孤児がいるのか分からないし、当然か……」
「へ……何千人……!?
そんなに……?」
「そんなの王様でもなきゃ、どうしようもないだろ?
でもあたしは王様に何かしてもらったことは一度も無いし、期待はしてないさ……」
「……!」
アリゼの言っていたこと……本当じゃない。
みんな……見捨てられたと思っている……。
……でも、私なら……何かできるの……?
なのに、なにもしてこなかった……。
それに……城に帰らなきゃ、何もできない……。
「なんだお前……?
今にも死にそうな、暗い顔して。
そういや、今晩寝る場所があるのか?」
「無い……」
帰りたいけど、どうやって帰ったらいいのか、分からない……。
「じゃあ、あたしが寝床に使っているとこ、貸してやるよ」
「ありがとう……」
今はこのトカゲに頼るしかないわね……。
「じゃあ食器を返却してからいくぞ。
ついてきな」
「うん……」
それから私とトカゲは、広場から出ようとしたが──、
「……?」
「どうした?」
「いえ……あそこにいる男、ずっとこっちを見ているから……」
なんだか気持ち悪いわね……。
「! ああ……そうか。
お前、顔はいいみたいだからなぁ」
そうよね。
私、美少女よね?
しかしトカゲは、とんでもないことを言い出した。
「こりゃあ……人身売買組織に、目を付けられたかもしれないな……」
「へ?」
「さっさと逃げるぞ。
捕まったら奴隷として売られる!」
「えっ、ちょっ!?」
私はトカゲに手を引かれて、無理矢理走らされた。
次回は明後日の予定です。
ストックが残り少なくなってきたので、この休みで増やさなければ……。