18 王女様、放浪する
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「なんでよっ!?
私はこの国の王女なのよ!
今すぐ、ここを通しなさいよっ!」
ようやく城に戻ってきた私を、門番は通さなかった。
なんて無礼な奴なのかしら。
クビにするわよっ!
しかしその門番は──、
「はあ、王女?
そんな薄汚れた服を着た王女様なんているものか。
王族の名を騙ると重罪になることもあるんだ。
死にたくなかったら、さっさと帰れ」
「こっ、これは……無理矢理部屋から連れ出された後に着せられたもので……。
大体、なんで門番が王女の顔を知らないのよ!
私はクラリス・ドーラ・ローラントなのよっ!」
「そうは言われても、滅多に部屋から出てこない王女の顔なんて、下っ端の衛兵が知るものか」
「じゃあ、私の部屋を確認しなさいよっ!
ここに私がいるんだから、誰もいないはずよっ!
王女がいなくなっているのを見過ごしていたら、誰かの首が飛ぶんじゃなくて?」
「ぬ……分かった。
一応確認しよう。
おい、見てきてくれ」
門番は同僚に呼びかけて、私の部屋を確認してくれるらしい。
融通が利いて偉いじゃない。
まあ、これ以上待たされるのは気に食わないけど、これでようやく部屋に帰れるわ……。
そんな風に私が安堵していると、部屋を確認しに行った門番が戻ってきた。
「姫様は部屋におられるぞ」
「……だそうだが?」
なんでよっ!?
「そんなの嘘よっ!!
……そうだわっ、あのアリゼっていうのが嘘を吐いているのよっ!!
あなた、騙されたんでしょ!?」
「いや……男の私は姫様の部屋には入れないから見ていないが、複数の侍女に確認したところ、確かに姫様の姿はあるし、呼びかけにも応じた……と」
「そんな……」
訳が分からない……。
一体どういうことなの……?
「さあ、これで気が済んだだろ?
これ以上騒ぐのなら牢屋に入れて、良くても犯罪奴隷行きだぞ?
さすがに小さな女の子相手に、そんなことはしたくないからさっさと帰ってくれ」
「くっ……!!
覚えていなさいよっ!!」
どうやら正門から入ることは無理みたい……。
私は仕方が無く、その場を後にした。
どこか別の場所から、城に忍び込めないかしら……?
私は城を一周して、入り込めるような場所を探してみたけれど、残念ながら見つからなかったわ……。
城が無駄に大きい所為で、無駄に時間がかかっちゃったじゃないのよっ!!
それにちょっと、トイレに行きたくなってきたんですけどぉ!?
これ、何処へ行けばいいの!?
あの道端で寝ている人達は、何処で用を足しているの!?
私はトイレを求めて、あちこちを歩き回った。
でも、全然それらしきものは見つからない。
そして私の膀胱の容量も、限界に達しようとしている……。
ううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……っ!!
その辺の物陰でしろって言うの!?
この王女である私に……!?
なんで……なんで私がこんな目にぃ……!?
……結局、我慢しきれなかった私は、生まれて初めて屋外で用を足したわ……。
……恥ずかしくて泣きそう……。
それに疲れた……お腹も空いた……。
そういえば、もう丸1日くらいまともに食べていない……。
よく考えたら、水すらも飲んでいないわ……。
「も……駄目……」
私は道端に座り込んでしまった。
もうこれ以上、歩ける気がしない……。
それからどれくらい経ったのだろうか……。
蹲って動けない私に、声をかけてくる者がいた。
「お前……大丈夫か?」
それは……私よりちょっと年下なのかしら?
背も小さいし、たぶんそうよね。
そんな子が、近寄ってくる。
一瞬男の子なのかと思ったけれど、声からして女の子みたい。
ただ、薄汚れた男物っぽい服に身を包んでいるから、服装だけでは性別は分からないし、なによりもトカゲの獣人みたいだから、顔からは何も判別できない。
城には獣人なんていないから、初めて見るかも……。
「……なにこの小汚い子供?」
「お前だって、あちこち汚れてるだろ……」
私の言葉に、そいつはむっとして返す。
私が汚れている?
そんな訳……あるわね……。
地面の上で寝た所為で、結構汚れているわ……。
本来なら私のことを「汚い」なんて言ったら絶対に許さないんだけど、事実だから仕方がないか……。
それに今は、怒る気力も無いわ……。
「で、大丈夫なのか?」
「……お腹が空いているのよ……。
喉も渇いたわ……」
「あ~、お前は最近貧民街に来て、どうやって生きていけばいいのか分からない感じなのか?」
私はとりあえず頷いておく。
確かに分からないし、分かりたくもないわね……。
そもそも、あんなところで生きていける気がしないわ……。
「じゃあ、ついてこいよ。
炊き出しをしているところがあるから、そこで食べさせてもらえるぞ」
「うん……」
私はもう歩くのも嫌だったけど、食べ物が手に入るのなら、我慢して歩くしかないのよね……。
背に腹は代えられないわ……。
私は重い足を引きずるように、そのトカゲについて行った。
未来の側近をゲットだぜ?