13 出勤!
ブックマーク・☆での評価・誤字報告・感想をありがとうございました! 最近忙しかった所為か、誤字脱字が増えているようなので、誤字報告は助かります。
いよいよ明日から私は、王宮で侍女として働くことになる。
だが、いざ働くとなると、なんとなく面倒臭い。
なんだろう……日曜のサラリーマンのような気分というか。
月曜からまた出勤だと思うと、気が重くなるよね……。
あと、レイチェルに説明をしなくちゃならないし……。
「あの……レイチェル?
明日から用事があるので、留守にすることが増えると思います。
なるべく毎日帰ってくるようにしますので、私の留守中はケシィーさんやアンナさん達のいうことを聞いて、いい子にしているのですよ」
私の留守中、レイチェルの世話は我が家のメイドであるケシィーや、学院のみんなに任せようと思っている。
学院の運営は軌道に乗ったし、職員はみんな信頼できるから、大きな問題は生じないはずだ。
ただし、リチアにだけは気をつけろ!
それにレイチェルも外見はともかく、内面は3才児とはとても思えないような落ち着きぶりなので、学院のみんなに任せておいても精神的な負担は少ないと思っている。
勿論、まだ母親が側にいた方がいいのかもしれないけれど、世の中のシングルマザーが子供を保育園や幼稚園に預けて働くのとそんなに変わらないことをやろうとしているだけだから、レイチェルにはそんなに無茶な我慢を強いることにはならないはずだ。
「留守って、また悪者退治なのです?」
「…………まあ、そうですね」
見抜かれているなぁ……。
レイチェルには私と一緒だった頃の記憶も残っているらしいのだが、だから私が裏で何をやっているのかについては、ある程度把握しているようだ。
裏社会のことはあまり子供には知られたくないし、前世のレイチェルが受けた酷い仕打ちについては、忘れていて欲しかったんだけどなぁ……。
ただ、だからこそレイチェルは──、
「それならば思いっきりやってきてください。
もうあんな酷いことは、許してはおけないのです。
なんなら、私も手伝いますか?」
そんなことを言い出す。
うん、今のレイチェルなら、Bランクの冒険者くらいの身体能力はあるだろうし、実際に役には立つと思う。
そしてレイチェル自身も、貴族に対して報復したいという気持ちもあるのかもしれない。
だけど私がこれから踏み込もうとしている世界は、子供が見ていいようなものではない。
レイチェルには、もう触れて欲しくない。
「……今のレイチェルには、楽しいことばかり見て暮らして欲しいのです。
だから全ては、私に任せてください」
「……分かったのです。
私の分まで、やっちゃえママさん!」
ニッ●ンみたいに言うな!?
「……物分かりのいい子で助かります。
でも、他のことでなら、多少は我が儘を言ってもいいんですからね?」
レイチェルは3才児にして、既にどことなく大人びている。
でもこれでは早々に親離れされてしまいそうで、寂しいんだよね……。
「うん、何か考えておくー」
今は特に要望は無いらしい。
オーラの色を見るまでもなく、遠慮しているというよりは今が満ち足りているから、本当に何も無いのだということがその笑顔からも分かる。
ああ、愛おしい!
私は思わずレイチェルを抱きしめ、その頭をわしゃわしゃと撫で回した。
「きゃはははははは!」
くすぐったいのか、レイチェルが笑い声を上げる。
この楽しそうな笑い声がいつまでも続くように、私は頑張るよ。
きっとこの国を、レイチェルや子供達が楽しく暮らせるようにするから!
この後私とレイチェルは、むちゃくちゃ百合百合した。
……いや、ただの親子のスキンシップですけどね?
王城で働き始める日が来た。
私は徒歩で王城へと向かっている。
王都の何処からでも見えるような、巨大な城だ。
うん、税金の無駄だな。
もっと社会保障とか、別のことに使えばいいのに……。
まあ、あれだけ目立てば、道に迷わずに辿り着くことができるのはメリットではあるが……。
大体徒歩15分というところか。
これが一般の使用人ならば、通勤は認められず、王宮内に住み込みとなる。
それは王宮への人の出入りが増えれば、防犯上の問題が生じるからだ。
使用人が頻繁に外に出ていれば、犯罪に巻き込まれたり、王家に害意を持つ者との接触が増えて工作員に仕立て上げられたりする危険があるのだとか。
だから使用人には、絶対服従の奴隷を採用している場合も多い。
その点私は、貴族の親族で身元がしっかりした者である──と、テュロサム・キンガリー伯爵に推薦されているので、通勤が許されていた。
名目上は、テュロサムの姪ってことになっている。
私が乗っ取って記憶を奪った後に、用済みの死体を火災に見せかけて焼却したテュロサムの兄──その娘……ということになる。
勿論、姪というのは、偽装だよ?
そんな娘は実在しないが、テュロサムの兄は既に他界しているので、いくらでも偽装し放題だ。
当然それがバレれば推薦したテュロサムの身も危うくなるので、その偽装工作は念には念を入れて完璧に行われている……はずだ。
ともかく私は「侍女」として採用されることになったのだが、侍女というのは「使用人」や「召し使い」のように、主人に従属する立場とは違う。
どちらかというと貴族の女性など、身分が高い者が就く仕事で、雇用主とは対等の関係だと言われている。
以前の世界で言えば、「レディズ・コンパニオン」や「女官」に近い役割だろうか。
まあ、実際には身分制度があるし、雇用されている以上は雇用主の機嫌を損ねれば解雇されかねないので、必ずしも対等とは言えないが、少なくとも一般の使用人よりも自由な身分ではある。
で、城に到着すると、身分証明書を提示すれば簡単に入城できる。
既に採用の為の面接試験などを終えているので、面倒な手続きも無く、更衣室でメイド服に着替えればいきなり仕事開始だ。
とはいえ今日は初日。
先輩の侍女が、私が働く区画を案内しつつ、仕事の説明をしてくれた。
良かった……怖いお局様みたいな人はいないようだ。
「掃除などの雑務をする必要はありません。
それらは使用人の仕事なので……。
あなたの仕事は、姫様の身の回りの世話です」
……?
なんか気になる言い回しだな。
「私達……ではなく、私の……ですか?」
「そ……そうです。
あなたが姫様の担当となります。
勿論、あなたが城にいない時間帯は別ですが、基本的にはあなた1人ですね……」
新人で、肉体年齢もまだ16~17才の小娘に、いきなり王族の世話を任せるの!?
凄く厄介事を押しつけられたような感じなんだけど……。
まあ、その方が私の仕事はやりやすいので、渡りに船だが……。
「あの……姫様は、どのような方なのでしょう?」
確か「クラリス・ドーラ・ローラント」という名前だったか。
どこの『カリオ●トロの城』だよ……って感じの名前だが、現時点ではこのローラント王国で唯一の、国王直系の王位継承権を持つ存在だ。
本当にいいの、そんな重要人物を新人の私に任せて?
「姫様は……その……とても自由奔放な御方ですよ」
あ……言葉を濁しているが、なんかあかん感じだな。
やはり噂通り、我が儘な振る舞いが目立つ娘なのかもしれない。
で、担当の侍女も次々に辞めるか、辞めさせられているということなのかもなぁ。
だからできれば私1人に、問題児を押しつけたい……ということなのだろう。
さて、どうやってその問題児に、厳しい現実を分からせてあげようかな……?
なお、次回の更新は明後日の予定です。